続・JTNC「パクリ」問題〜デザイナーから連絡がありました

先日、note等SNSから問い合わせがありまして、最初どなたかわからなかったのですが、件のJazz The New Chapter(以下JTNC)シリーズ(シンコーミュージック刊)に似せたCDをデザイン・ディレクションした方からの連絡でした。なんの話題かわからない方はまずこちらをご覧ください。

曰く、「お伝えしたいことがあるので連絡をください」という内容で、当初私は「伝えたいことがあるなら直接メッセージに書いたらいいのに」「なんで私にわざわさ」と思い、これはなんか違う目的では? 宗教の勧誘? などと思ってしまい(←失礼)遠回しに対応しませんという意味で、noteに呟いたのですが、「変な意図ではない」ということで、電話でお話しすることになりました。

まぁ内容は予想通り「これは事実と違うので訂正か追記をしてくれませんか」という話で、「こんな場末の個人ブログみたいなのにわざわざ連絡してこなくても……そんなことするなら自分でどこかに記事を書いて事実関係を説明する方が有益なのでは」と思い、訂正加筆には応じないと最初に言ったのですが、話を聞くうちに、件のデザイナー氏が自ら直接説明できない状況にあるらしく、ここに筆を執ることにしました。

なお、私はこの件に関して完全に部外者であり、きっかけのツイートのROOTSYこと唐木元さんはかろうじて面識があるものの、柳樂光隆さんとは面識がなく、シンコーミュージックさんともAkatsuki Inc.さんとも仕事をしたことはありません。よって、この記事はどちらかの味方をするものではなく、単に城内さんに聞いた話に私の個人的な感想を付記したものです。また、この記事は誰かの依頼を受けて書いたものではなく、また内容に関してチェックされたものでもありません。

デザイナーはJTNCのデザインを知らなかった

このデザイナーさんは、すでに柳樂さんのツイートでも名前が出ていたと思いますが、城内宏信という方です(ご本人の許可のもと名前を出しています)。個人でデザイナーとジャズDJをされていて、柳樂さんとも面識があったことで、本件「パクリ」は確信犯(←言葉の誤用)ではないかという話も出ました。ところが城内さんが言うには、これは偶発的なものであったそうです。

えーほんとかよ、そんな声も聞こえてきそうですが、まずは続きをお読みください。

城内さんが言うには、JTNCの存在は知っていたものの、当該出版物を読んだり所有したことはなく、打ち合わせの段階でクライアント側が提示してきた参考資料にはJTNCのJPEG画像があったものの、はっきりと認識してはいなかったそうです。初期のラフや途中稿はJTNCには似ていないものだったのが、クライアントとやりとりして修正を続けるうちに、結果として似たデザインのものが出来上がったと言うことだそうです。

ジャズDJをやってて本当にJTNCを知らなかったのか、ということに関して、城内さんは、DJの間には他人が掘ったレアものを使うのはかっこ悪いと言う考えがあるが、同様のポリシーが自身のデザイン活動にもあって積極的に他人のデザインを見ることはしていない、という趣旨のことを言っていました。

これは一般論としての話ですが、ジャズと一言でいっても、クラブでかけるジャズとなると、同じジャズでも違うものを言い表すことはあります。城内さんは私や唐木さんよりも上の世代(おそらくアラフィフ?)らしいですが、90年代後半〜2000年代頭においてクラブでかかるジャズといえばアシッドジャズのことで、実際私も当時の友人に「ジャズが好きなんですよ、Jazzanovaとか」と言う人がいて全く話が噛み合わなかったことがあります。城内さんがかけるジャズがどんなかは知りませんが、ひょっとしたら興味があるのは全然違うサブジャンルの可能性もあるわけで、JTNCを詳しくは知らなかったというのは一概に言い訳だと断定できないと思っています。また、昨今、紙の本はもう買いませんという人も存在します。

ただ事実は知りませんし、そこには私は立ち入りません。

デザイナーはこの「オマージュ」問題について何も知らされてこなかった

ちなみに城内さんが訂正をお願いしたいと言ってきたのは、この一文でした。

好意的に推察するなら、運営会社はデザイナーがJTNCに似せてることに気づいていなかった可能性はあるかもしれませんが…

ここで私は推測を述べてるだけで、ここに訂正をお願いされるいわれはないと思っていますが、ここに城内さんがこだわるのには理由がありました。と言うのも、運営会社のAkatsuki Inc.は本件に関するお詫びのリリースで「オマージュさせていただきました」と書いていますが、そもそも不可抗力で似たデザインになったと言う経緯が本当であるとすると、このオマージュしたことすら事実ではないことになるからです。

ちなみに城内さんはほとんどSNSをやっていないそうで、この騒動を3月になってから知り、上のリリースについても全く関知していなかったそうです。そういうわけで、デザイナーとして「オマージュ」したというのは事実ではない、というのが城内さんの主張だそうです。

デザイナーは本件に関して話せない状態にある

さてここまで書いてまた話が戻るのですが、そもそもこのような事情があるなら自分で何か反論なり事情説明をすればいいのではないか、そう皆さんも思うでしょうが、城内さんは、本件に関して話せない状態にあるそうです。

これは会社vs会社の話になっているとあることですが、トラブルになっているところに当事者が油を注ぐようなことはできないわけです。水をかけたつもりでも、それがいらぬ野次馬を呼んでしまうことはあるわけで、会社としては着地した問題を蒸し返したくないのでしょう。

そういう経緯もあり、城内さんは情報守秘ということで、本件に関してコメントも個人的に当事者へ説明もできないようです。自分の言葉で何か発信したほうがいいのでは、とも伝えましたし、実際、城内さんは事情を説明する記事を準備していたそうですが、公開はされていません。ただ、一方的に事実と異なる内容に基づいた批判を受けるのは遺憾だということで私に連絡が来たという経緯でした。これは私は、事実に基づいた批判までは否定しないという風に受け取りましたし、電話で話した城内さんは終始丁寧で、当初予想していたような強い抗議みたいな物は皆無でした。むしろ伝わったのは騒動への戸惑いでした。

結論にならない結論のようなもの

繰り返しになりますが、上記のような城内さんの事情があるからといって、本件記事は誰かから依頼されて書いたものではなく、ライター活動として書いたものでもありません。簡単な訂正や追記で終わらせることもできたのですが(むしろそうやってひっそり終わらせたほうが良かったかもしれませんが)、もう少し丁寧に書いてもいいのかなと思って筆を執った次第です。

これまでも今後も、どちらが悪いとか白黒つける気は無いですし、先の記事もモラル的にアウトということがわからない人へ向けて書いたもので、当事者の誰かを弾劾する意図はありませんでした。どれだけ話題が拡散しているか追っていないのですが、もし欠席裁判になっているようなら、証言を伝えることをしてもいいかもしれないと書いたのが本記事です。

そういうわけで全然結論になっていませんが(むしろ結論ついちゃうほうが怖くないですか?)、モラル、リスペクト、オマージュ、こういった「お気持ち」を画一的に定義することほど反リスペクト的なことはないです。それは各々が考えて常に更新していくものだと思います。一連の投稿が皆様の芸術観を新たにする一助となれば幸いです。




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