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漫画の話(2) 海外マンガ事情最?前線

クールジャパンなんて言葉ありましたよね。あれ、補助金目当てのトンネルベンチャー以外使ってないだろうとお思いの皆さんも、日本の漫画が海外で一定の人気があることは否定しないでしょう。試しにアメリカのAmazonでも開いて、適当な作品名をローマ字綴りでいいから検索してみれば、あなたでも知ってる有名作にわんさかとレビューがついてるのを確認できちゃいます。勿論わざわざ財布の紐を緩めるような人たちが書くのだから、星4〜5は当たり前! 具に見れば見つかるロリペドショタ・レーティングなしのエロ表現への嫌悪感も、今のところは日本マンガはサブカル扱いなので、まだ一般の目には止まらずにすんでいるようで。ま、ファン規模としては、90年代の日本におけるMTGぐらいなんじゃないかな、と私は勝手に思ってます。MTGって何?と言う人は、何かのアメリカンドラマとでも思っててください。私もほとんどやったことないんだけど。

さて、我々日本人としては作品がどんな風にアレンジされてるのかが気になるわけですが……コロナ自粛で自宅に篭りっきりの私のような人間の中には、書店に行けないあまり逆に電子書籍から紙媒体に再改宗した狂った人間もいると思うのですが、既に電子で持ってる作品を再度紙で買うのに躊躇いを持つ程度には正気を保ってるので、ここは一つ捻くれて海外版で紙のコミックスを揃えてみようじゃないかと思い立ったわけですよ。もちろん、ちょっと拗らせてみて、英語じゃなくてフランス語で!

そう言うわけで買ってみたのがこちら、百合漫画の金字塔『やがて君になる』です。

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ラテン系のいい加減さか、既刊7巻まで全部在庫ありと書いてたのに、Amazonフランスさんは2、3巻だけ先に送ってくるところがイケズですね、無駄にUPSで。なぜ1、2巻じゃないんだろ。ま、中身は隅々まで読み返したから分かるんですけどね。

ところでフランスはヨーロッパではおそらく最大の日本マンガ消費国であることは、日本スゴイ系の番組がお好きな皆さんはよくご存知のことだと思います。私はもう15年ほどまともにテレビ見てないですけど。毎年やってるアングルームとかジャパンエキスポとか、いい感じで草の根ファンがヨーロッパから集まってくるらしいですよ。

さて、百聞は一見にしかず、実物を見たらこれが面白いほど日本のコミックスと変わらない。サイズに紙質、体裁が日本と全く一緒。フランスの本でハードカバーでもないのにカバーついてるのなんて初めて見ましたよ。もちろん、カバー下のイラストやおまけ漫画まできっちりオリジナルと同じ。違うのはアルファベットが並んでるだけ。

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冒頭のカラーページもある。というかフルカラーじゃない。昔のAKIRA海外版なんぞはフルカラーになってて、左開きにするために左右反転させてたけと、いまや翻訳マンガは右開きがスタンダードなんですよ。知ってました? 読者のリテラシーが上がったのでしょうか。ま、ネットで海賊版見慣れてるから右開きに慣れたんだろなんて無粋なことは言いっこなし。

面白かったのが、書き文字、いわゆる擬音を取り除くのではなく、側にフランス語のオノマトペを載せてる点。

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日本の擬音を知りたいと言う読者要望から?それとも画像修正コストがかかるから?そのどちらともつかない感がありますが、『幼女戦記』コミカライズ担当の東條チカさんのツイートによると、海外版にする時に横書きのセリフが入りやすいよう、吹き出しのサイズや位置を考えてるそうで、作品によっては入れ替えもあるのかもしれませんね。

さて肝心の翻訳ですが……実は私の友人フランセーズがアルバイトで日本の漫画のフランス語翻訳をやってたんですが、とある恋愛もの少女漫画の翻訳をした時、版元のご命令で「フランスじゃ知り合い同士が苗字で呼び合うなんて風習ないから、全部ファーストネームに変えろ」とお直しさせられたそうで。そしたら後の方で、主人公が先輩と付き合うようになって、ようやく下の名前で呼べるようになったけどなんだか恥ずかしい……なんて日本の漫画あるある展開が出て来て困ってしまったそうです。その話がはや5年ほど前。さて今はどうなってるかと言うと。

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はい、苗字呼び捨てになってます。これはこれでまぁいいのかもしれないけど、日本人としてはやっぱりここは元のセリフ通り、Koito-san! とか書いて欲しいところ。因みに日本語の伸ばす音はヘボン式で書いてもわからないので、マクロンという横棒を上に加えるアクセント記号で表します。Yōko、Katōみたいな感じに。(追記:→マクロンじゃなくてアクサンシルコンフレクスだった様子。Yôko、katôみたいな)

私が先に例で出した-sanって言い方、実は結構外国人には使い勝手がいい言葉なんですよ。Mr.、Miss、Mrs. Ms.、これをどの人に使っていいか悩むんですね。まぁ、Davidなら誰も迷わないでしょう。でもAdrianだったら?男女両方いますね。中国人の名前なんて発音だけのピンインにしちゃうと、中国人にも性別分からないそうですし。さらに既婚未婚の別とかその含蓄とか(一人前の大人の女性にミスとかマドモワゼルとか言うのは失礼に当たる)、煩わしく感じられるそうで、誰にでも一定の敬意を払える「〜さん」っていう日本語は便利だね、って言う話をちょいちょい聞きます。私も外国の友人とメールする時に使ってますしね。ジェンダーの別だけでなく、関係性の近さ/遠さをあまり考えなくても使える-san、ちょっとした日本スゴイ()ですね。

翻訳版マンガの人名が欧米系に変更(ニッキー・ラーソンってなんの漫画の主人公か分かります?)→とにかく全部ファーストネーム→ファミリーネームと変遷して来たので、きっと5年ぐらいしたら-sanは普通に海外版マンガに使われるようになると思います。-senpaiも使われてるかもですね!

さてざっと見ましたが、まとめますと今の海外版マンガはほぼ日本版コミックスの再現品です。作者後書きや、カバー下のオマケ絵もきっちり再現ですよ。これは読者ニーズというのもあるんでしょうけど、私はなんだかんだ言ってコストをかけたくない出版社事情があるんだなと思ってます。

先に話に出したフランセーズ、1年ぐらい日本に留学して、卒業後にスタジェールでまた日本に来たぐらいの子で、正直日本語がとても堪能とは言えないのですが(その後また再来日して2年くらい住んでるので多分今は上手)、そういう子にアルバイトがてら翻訳を任せちゃう。多分ギャラは高くない。で、書き文字はレタッチせずにそのまま傍にアルファベットを置いちゃう。きっとコストダウンの意図があるんだろうけど、変にアレンジせずに日本版の再現に徹した作りは、多分そこそこウケが良いことでしょう。

まぁそもそも、みんな海賊版に慣れちゃってるんですよね……これは先のフランセーズのFB投稿にて他のフランス人と会話して知ったのですが、出版社も海賊版サイトを見て何が人気か調べてるそうです。そもそもみんななぜ海賊版を見るかと言うと、やはりそれはお金がないから。最近は値段が落ち着いて来てるみたいですけど(先のやが君フランス語版は約7€なので日本円にして8〜900円ほど)、昔はその倍以上は高かったそうです。

そして、読みたい作品がないという事情もあり、続きがあるのに途中で刊行をやめちゃうことも良くあるそうなんですね。あのベルサイユでの展覧会に出展した荒木飛呂彦の『ジョジョの奇妙な冒険』ですら、最初の版元は途中まで刊行してやめちゃったそうで。そう言うわけで、続きを読みたいなら海賊版へ、日本語読めないから頑張って勉強する、と言う循環が起きてるそうです。

こういった流れって別に最近の話じゃなくて、例えばファンサブ(ファンによるSubtitles[字幕]という意味)って呼ばれるネットの文化がありまして、00年代の頃はイタリアを中心にアニメ動画に有志が字幕つけるなんていうのがアングラで流行ってたんです。こういうのがクールジャパン()を醸成したんだってことを、どれぐらいの人が解ってるのかは不明ですけどね。

ともあれ、縮小する一方の日本マンガ市場、海外に活路を見出して、漫画家の皆さんが潤う事を願ってやみません。

ちなみに『鬼滅の刃』は日本ほどはまだ海外で売れてないそうで。米Amazonレビュー曰く「バトルもののステレオタイプ」だとか。でも「日本のマンガ好きです!」「どの作品が好き?」「NARUTO!」(一時期ほんとこればっかでした)と言うやりとりが「デーモンスレイヤー!(鬼滅の刃の英語版タイトル)」になる日が来るかもしれませんね。

追記:1巻が来たので読んでみましたが、ホントすみませんでした。翻訳の質高いです。掲示板に張り出された紙とかそういうのはフランス語に直ってたので、オノマトペの書き文字残したのは、それが受け入れられてるということかも。ここの訳が上手いとかそのうち書くかもしれないです。

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