「売り物」になる記事の書き方

少し前にとあるライターが、自身が教えるライター講座で才能があるという人の文章をツイートで共有していた。内容は近隣の大手スーパー各社を比較したもので、クラウドソーシングで集めたアンケートや実地調査で得られた価格などの情報を、その企業の経営理念なども援用しつつ分析したものだった。この手の記事はネット検索しただけでは得られない情報を丹念に集めるので、書くのには大変手間がかかるが、分析の仕方次第で他にない内容の独自性が出てくる、まさにプロライターならではの仕事だ。

しかし、私は雑誌の編集をしていたので、その目線から言うとその記事にはたった一つ惜しい点があった。それは「売り物の記事」としての体裁から少し外れているように感じたのだ。それはきっと、実際にどこかの媒体から依頼を受けて書いた記事ではないから、そのような体裁になったのだろうとは思うが。それではその「売り物の記事」に必要なものとは何か?というのが本稿の主題である。

「売り物」になる記事は内容の良し悪しとは関係ない

最初に断っておこう。「売り物」になる記事とは内容の良し悪しとは直接は関係ない。もちろん内容が良いに越したことはない。しかし、内容は面白くても載せるのは難しい記事というものがある。

たとえばよく、ブログで個人的な体験を綴っていて、意外な顛末や思いもしなかった発見が面白いとたくさんリツイートされてる記事がある。しかしそういう記事は大抵、商業媒体には掲載しにくい。個人的な経験を載せて面白いのはあなたが有名人の場合、もしくは必然性がある場合だ。

仮に中学生が「授業では居眠りしたら怒られるのに、なんで政治家は国会で寝てても怒られないんだろう」と書いたら、それは記事として売り物になるだろう、新聞の投書欄とかで。でも大人が書いたらそのバリューはない。居眠りを叱る大人たちが他方では居眠りしてるという理不尽がこの記事の核だからだ。編集はそこに売り物の記事としての価値を見出す。

もしライター志望の方が本稿を目にしているなら、こうした編集側の視点=何が彼ら媒体読者に受けるのか、を考えることであなたの記事はより魅力的になるだろう。

読者は記事を隅から隅まで読んでくれない

雑誌でもウェブ媒体でも良いが、あなたは隅から隅まで記事を読むだろうか? お金を出して買った漫画雑誌でも全ての連載は読んでない人がほとんどではないだろうか。

読者の目に真っ先に飛び込んでくるのは記事のタイトルだ。特にウェブ記事では、アクセス数を見て、あるいは他社の同じテーマの記事を見て、タイトルを公開後に何度も付け替えたりする。SNSで共有された時にインパクトが欲しいからだ。

でもだからと言って、編集がタイトルをつけ変えるならこちらは適当でいいや、なんて手を抜いてはいけない。編集は最初の読者である。何がこの記事で受けるところなのか、読者に何を見せたいのか、記事から受け取りにくくなると、編集は頭を抱えてしまう。

次に大事なのは最初の出だしだ。出だしで興味を引くために頭を捻ろう。

出だしのテクニック〜共感と反発

タイトルで読者を引きつけたあとの出だしは重要だ。それぞれのライターが記事の性質によっていろんな技を使う。典型的な技は共感と反発を利用することだ。

例えばあるライブのレポートを書くとする。そこに多くの読者が求めるのは、そのライブが良かったかどうかという内容だ。悪かったライブのレポートはそもそも記事にしても受けは良くないので、基本は良いレポートが掲載される。その現場にいたのに評判を気にして読む人もいるぐらいだから、よかったことを再確認したい人への共感を呼ぶ出だしは有効だ。また、観客側から分からなかった舞台裏の情報などを見出しに使うのは、取材メディアだからこそ得られた情報のうまい切り出し方だ。

あるいはやや炎上を狙って反発を生む出だしを書いてみる。少し高度なコントロールが必要だが、反駁してやろうという気持ちを掻き立てて、SNSで引用コメントさせたらある種の成功だ。例えば「○×をする男は実はモテない」の○×が多くの人に当てはまるほど、反発や不安感を生み、興味を掻き立てる。個人的に推奨はしないが、この手法を取った記事はネットを中心に少なくない。「日本遅れている」「日本すごい」はこの手のコンプレックスをついた手法だ。

本文〜ディテールを全て書くのが良い記事とは限らない

ライターは多くないスペースでもできる限りたくさんの情報を伝えたいと思うものだ。しかし、あれもこれもと書いた記事は、どんどん読者の記憶から抜け落ちていく。

世の中は複雑だ。ある事象は単一の原因で起きるとは限らない。だからできるだけ細かなことでも正しいディテールを書き留め、それがある結論に収斂する様を描きたいと望むのは、ライターにとって自然な欲求だ。だが、悲しいことに、多くはノイズみたいになって、読者の印象を薄めてしまう。かつてネット記事は文字数制限がないから、好きなだけ書けるから自由だと思われていた頃があったが、現実には長い記事ほど読まれにくい。もしあなたが、ノンフィクションを書くのでないならば、取捨選択をしなくてはならない。

テーマや結論は1つか2つに絞る(ただし魅力的に!)

人は並行する幾つもの話題をなかなか適正に理解できない。それよりは、視点を固定することで見える意外な事実の方が興味を惹く。人の意見は多様なのに残りは切り捨てるのか、そうあなたは思うかもしれない。でもそんなあなたの既存の思い込みが覆されることがあった時、それは売り物になるネタだ。

先のスーパーの記事であるならば、近所に7店舗ほどもありその違いに興味を持ったのがきっかけとあったように記憶しているが、地元にそのチェーンがなければあなたは興味を惹かれないだろう。ましてや、スーパーで買い物をしないならタイトルだけでスルーだ。あなたは日常的に買い物する主婦にお得な比較情報を提供したいのか、それとももっと違う読者層、たとえば週末だけ料理する男性だとか、あるいはベジタリアンに向けて適した店を紹介するのか。媒体の属性やあなたが面白いと思った発見の数だけ、視点の置き方がある。それはテーマに密接につながる。

もし書いていて何がテーマか、なにが一番面白がってもらえるかわからなくなったら、とにかく文を削ろう。削って削って残ったものがあなたが面白いと思っているものだ。

読ませるためのちょっとしたテクニック

あまりにも多用されすぎて傷食気味な人もいるかもしれないが、次のようなテクニックはある種フォーマット化しているので、読者も読みやすい。

1)ターゲット属性を明らかにする
タイトルや見出し、リード(本文に入る前の概説的な文章)で、記事の対象属性をはっきりさせることは重要だ。上にも書いたが多くの人が記事を頭から最後まで読んではくれない。これは自分に関係なさそうだと思ったらすぐ飛ばされてしまう。読み飛ばされないようにするため、ターゲット属性を早い段階で明らかにする方が良い。比較検討・検証や丹念な取材を重ねた記事ほど、実はここが疎かになっていることが多い。媒体自体がすでにターゲット属性を絞っているときは、さらに属性を絞る・敢えて属性から外れたものにも別の選択肢として興味を向けさせる、などの工夫が必要だ。

2) タイトルに数字を使う
「誰でも使える携帯代を安くする3つのテクニック」「ポイントが面白いようにたまるクレカ5選」みたいなタイトルを良くみたことがあるはずだ。陳腐なようでいて数字があると、結論が簡潔にまとまっていること、記事のおおよその長さなどが読者に伝わるのがこのフォーマットの利点だ。結論だけ読みたいというせっかちな読者にも受けが良いだろう。また、「外国人が選んだ東京の意外な人気観光スポット7選」とか書くと、1つは思いつくけど残りはどこだろう?あそこは絶対入ってるはず、と話題に取り込みやすくなる。難点はオンラインサロン記事っぽくなる、まとめサイト記事っぽくなる点だ。

3) 図や写真をうまく使う
百聞は一見にしかず。長々と文章で説明するより、図表や写真にした方がわかりやすいものがある。例えばある仮想通貨の値上がりを説明するのに、数字を出すより図表の方が実感が出るかもしれない。たまに数字を変に切り取ったグラフがSNSに出てデマじみた結論が流布するのも、そういう「わかりやすさ」故である。使い方を間違えればかえって読みにくくなるが、普段図表を用いないという人も、頭を整理するためにも試しに図表を作ってみてはどうだろうか。

4) 敢えて極端な比喩を用いる
友人女子が言ってたのだが「パンケーキは女子のラーメン二郎」だそうだ。二郎の男臭いイメージとパンケーキは一見対極にあるが、量が多い・行列ができるという意味では近しい。相反するかに見える2つの言葉が並ぶインパクトが読者の興味を惹くうまい言い回しだと思った。かなり大喜利に近い手法だが、記事に使わなくても、頭を整理する上で試してみると良い。あなたも気づいてなかった新しい視点が見えてくるかもしれない。

5) 語呂合わせや流行り言葉を援用する
見出しに時事ネタや語呂合わせ(ダブルミーニングなど)を使うのは、週刊誌などで良く見る手法だ。基本ダジャレだが意外と人はダジャレ好きなものである。ここで実例を見せたいのだが、残念ながら編集者は面白がることは得意でも編集者自体が面白い訳ではない。少なくとも私はそうなのでいい例がさっと思いつかないのであった。写真週刊誌に多く多用されているので、参照してみると良いだろう。

最後に

売り物になる記事とは、店頭で美味しそうと思わせるお菓子のようなものだ。本当の美味しさは食べなければわからないとしても、読者に選ばれる体裁をまとっている方が編集には嬉しいのが現実だ。

素材が悪くなければ編集者が美味しそうに体裁を整えてくれることもあるが、編集者も選ぶ側の人間である。一度依頼した原稿が魅力的でなかったら次はないかもしれない。あざとくてもいいから、美味しそうに見えることを意識してみよう。もちろん肝心の味が不味かったら全ては台無しだけども。

いまいち記事に締まりがないと感じたら文字を削ろう。ただし情報は削らない方向で。締まりがない=中身が薄まっているからだ。パラグラフを丸ごと削ったら、一気に内容が読みやすくなることは意外と多い。そして、掲載された記事に編集者が何を足して何を引いたか、見返してみよう。そこから得られるものは多いはずだ。

言うまでもないが、「売り物」の体裁が整っているからと言って、売れるわけではない。例えばページビューを稼いでなんぼのネット記事では、扇情的な内容や読み手によって好きなように解釈できる「余白」がある記事が受けるように思う(良し悪しは別として)。週刊誌がやっているWeb媒体には誌面掲載記事の転載があるが、見てみるとネット向けに書かれたものと体裁が違うことに気づくだろう。紙媒体の記事にありがちなのが、肝心の面白いところが数ページ先までクリックしないと出てこないというパターンだが、紙であればすっと目線を移動すれば楽に読み飛ばしできるので、これは成立するのである。こうした違いを意識すると、媒体に合わせた記事の書き方も見えてくるだろう。

ちなみにこの記事は売り物ではないので悪しからず。

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