⑧ 無謀なリリーフ オレに回せ!
オレと名セカンド北川はエース安藤の入院した病院にお見舞いに行った。
入院を教えてくれた奥さんとなった幸子も当然、居るし、横には4歳になる息子も居た。
幸子はお惣菜会社を辞めて安藤の印刷会社を少し手伝っていたが、昔みたいに綺麗で品が良かったが流石に疲れていた。
「おぉ!久富、北川!久しぶり!」と安藤はベッドの中から割と大きな声を出した。そんな大声キャラじゃないだろ。
「これで大友商業野球部の伝説のクリナップが勢ぞろいだな!しかし、俺はこんな有様です。」と安藤は笑った。
オレは「エースで4番の安藤も病気になるんだな」と茶化した。
北川は「安藤、久しぶり。なかなか「イカ天」会に顔出せなくてすまん。」とお見舞いとは思えない事を言う。
オレは「それで!いつ頃、退院するんだ?近い内なら俺たちが地元に居る内に「イカ天」会やるか!」と励ました。
安藤は「そうだな。「イカ天」会か、、、コイツも、あ、幸子も定食屋とかお惣菜とか料理屋さんが好きで、だからお惣菜屋さんに就職したんだよな!」
北川が「俺の食品会社も似たようなもんで、今はセカンドじゃなくて、店長で〜す」とコイツもキャラにない発言をする。
安藤は「そうか。しっかりしてる北川だから東京で就職した理由があるとは思ってたけど意外にも感じるな。
俺はもうこんなだし、オヤジの印刷会社に入ったからアレだけど、幸子が、いつか料理屋さんやりたいって夢があるんで叶えてやりたいんだけど」と口ごもる。
幸子は下を向いている。
オレは「やればいい!やると良いよ!」と声がデカくなる。
安藤が「もう俺には無理なんだよ。」
え?
「余命が半年なんだよ、、、、」
下を向いてた幸子の両目から涙が一気に溢れ出て、床にポタポタ、ポタ!と落ちた。
「よし!そんな弱気を言うならオレが、5番サード久富がお前らの為に美味しい美味しいお店出してやるから、病気を必ず治して、絶対に安藤夫婦と息子さんで食べに来い!約束だぞ!」
アレ?
オレ、何、言ってんだ、、、
アレ?
ただの飲食店のバイトでヒーヒー言ってるのに、、、
幸子の両目からもっと涙が落ちた。
無謀だ。
安藤はその9ヶ月後に亡くなった。
(続く)
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