中学生の女の子

地下鉄の駅のホームを、ボーッと歩いていた。
何げなく、下を見たら、ピンクっぽい小さな毛糸の手袋が。

片方、ボツンと落ちている。

ピンク、オレンジ、水色などの編み込んだ手袋が、寂しげに落ちていると、思っていたら、左前方から中学生くらいの少女が駆けてきた。

と、手袋を拾った。

なるほど。


少女は、クルッと振り向いて 
来た方に急いで走り去った。

何だよ。別に盗らないのに。

ホームの左側に電車が来ていて、もうすぐ、ドアが閉まりそうだ。

なるほど。


電車に乗りたいんだ。

仕方ないよね。

少女は閉まりかけたドアに走りながら、叫んだ。

「すみません!」

OL風の女性が振り返った。

ドアが閉まりかけた。

少女は、手に持った何かをOL風の女性に投げつけた。

女性の胸の真ん前に、それはとんでいった。

その女性はビックリしながら両手で、それを受け取った。

ドアが閉まった。

女性が手を開けたら、ピンク色の手袋。
大きく目を見開いて、笑顔になる女性。

閉まったドアの向こうで、ニッコリ笑いながら、お辞儀する女性。

ホームの少女もペコリとお辞儀をした。
見送った少女はニッコリ清々しく笑いながら、ホームを歩き出した。

僕の、二つの、なるほど、は全く的はずれだったが

僕もかなりの笑顔になっていた。

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