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我孫子武丸『修羅の家』の感想【ネタバレあり】

一人の女によって洗脳され、乗っ取られた家族の話。被害者の一人である初恋の女性・愛香を救うため、北島が奮闘する姿が描かれます。

本格ミステリを読みたい気分だったのですが、心がざわつく展開が続き、ページをめくる手が止まりませんでした。

北島が愛香を助け出す具体的な作戦を思いついてからは、勧善懲悪によるカタルシスを期待し、アドレナリンが分泌されているのを意識しながら、ラストまで一気に読み終ました。

終盤の山口と対峙する場面では、北島が作戦を無事に隠し通せるのか、ハラハラさせられました。このあたりの文章は緊迫感があって流石だなぁと感じました。




以下作中に含まれたトリックについての感想です。




ハルオ視点の章と北島視点の章が交互に展開していると思いきや、「ハルオ視点の章」=「北島がハルオに似た男(晴男)になれるよう肉体改造をしてからの章」だったという大きな叙述トリックが仕掛けられています。文中でも初代の「ハルオ」はカタカナ表記であり、北島が扮する二代目「晴男」とは区別されています。結果的にすべての章の語り手が同一人物だったことになりますが、初代「ハルオ」の章だと思い込んでいた章が二代目「晴男」の章だったと理解したうえで読んでも、当然ながら違和感がない文章が徹底されています。

もう一つの叙述トリックは、冒頭で登場する強姦・殺害されたまどかがラブドールだったことです。読み始めの段階では、晴男という非道で鬼畜なキャラクターをいきなり見せつけられた印象でしたが、真相は晴男の残虐性を優子に見せつけるための北島の作戦でした。ちなみにですが、人形を人間と思わせる叙述トリックを集めたら面白そうだなと感じました。


上記の叙述トリックについては楽しめましたが、物語のオチは別のところにあり、マインドコントロールされた人間達の異常性が極まったものでした。

本書の解説では、本作品は実際に日本で起きた事件がモチーフになっており、優子のような人物によって、我々の生活が脅かされる可能性も0ではない事が示唆されています。また身の回りに「乗っ取られた家」があることを知った場合、我々はどうするべきなのかが問われています。
個人的は、とりあえずは、北島のように自分の大事な人を守れる知恵と勇気は持ち合わせておきたいところなのでした。


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