拝啓、顔も名も知れぬあなたへ。

 春も深く、桜が緑に染まり始める季節になった。その陽気は昼の眠気を誘い、また時に暑く、時に寒い、そんな肌触りの悪い空気の中、僕は生きている。

 話を聞いてもう一年が経つ。こんな僕が、話を聞いただけのあなたにこんなにも何か想うことが許されていいのかどうかすらわからず、自分と向き合い続けた。あなたが絶ってから、ずっと自分が生きていいのかわからなくなった。あなたは僕ができなかったことを成し遂げたのだ。僕はそれをあなたの「強さ」だと思ってる。人としての本能を超えた強い意志が、僕は持てないままだった。そんな弱い僕が生きていいのか、ずっとわからないままだ。

 僕とあなたは、おそらくどこか似ている。大まかにとらえれば、同じ想いをしたはずだ。社会は生きにくく、時に環境を憎み、時に他者の才能を妬み、時に自分の過去を呪い、時に自分の親を嫌った。生きたくないと、そう何度も思った。僕とあなたとの違いは、生きているかどうかだけ、言い換えれば成し遂げたかどうかだけだ。

 なぜ自分が生きているのヵわからなくなる。僕なりに、色々試してきた。冷たい水に浸り、包丁を手に持ち、足が震える高いところに立った。そして、酸素の薄い車にも乗った。でも、僕は全部逃げて終わった。あなたは、車に居続けた。それが正しいかはわからないが、僕ができなかったことをやって見せた。僕はあなたが、羨ましく思う。

 他人に自ら命を絶ってほしくない理由も、これで分かった気がする。僕ができなかったことを他人がした時、僕は自分の弱さを再確認するからだ。勇気もなくて、意思も弱くて、そんな自分を見せられるから、だからやって欲しくないと願った。この他人と違う理由を持つということは、僕が弱いからだと思ってる。

 僕は、生きてる自分をいまだに許せないでいる。あなたが死んだのに、自分が生きてることに違和感を感じている。どうしてあなたは死んだのに、僕が生きているのか。どうして僕は一酸化炭素の部屋から逃げで。あなたは死ねるまで居続けれたのか。答えは、僕が弱いからだ。弱い僕が生きて、強いあなたは死んでいる。僕は生きていていいのだろうか。

 あなたが生きることで、幸せになる人がいる。僕なんかよりも、あなたのほうが幸せにできるんだ。だから、もし願うなら、僕の命を代償にあなたが生きればいいなと思う。僕なんかよりも、あなたのほうが愛されるから。だから、僕が死んで、あなたが生きればいいなって、そう思ってる。あなたは必要とされてるんだ。僕なんかよりもずっと。

 お願いだから、生き返ってくれ。代わりに、僕が死んだっていいからさ。

たけぽんず。

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