無料シャトルバス
こっちが無料だからって運転手さんは会社からお金をもらってるのだから別にいいんだけど、とはいえ目の前の事実に対して多少の申し訳なさと感謝はするべきかなとも思うので、乗り際に「お願いします」と一応頭を下げるが、運転手はどこか不機嫌そうだった。
イオンから駅前までの無料シャトルバス。「上り」と称されるイオン行きは無条件に乗車可能で、「下り」にあたる駅行きはイオンで買い物したことを証明するレシートなどを提示することで乗車でき、提示するタイミングで降車したい場所を運転手に伝える。裏を返せば変な話、1円でも買い物をすれば誰でもこの無料シャトルバスを利用する権利を手にできるので、たとえば100円のジュースを買ってそのレシートを見せて乗車してしまえば、初乗り180円の路線バスを利用するよりもはるかにコスパがいい。
自分は今日イオンで680円の買い物をした。ちょっと少ないがシャトルバスを利用させてもらうにはまずまずの金額だろう。ただ、荷物の少なさ的にはシャトルバスに乗るために100円だけ買い物をした人にも見えたことだろう。そう考えると運転手の無愛想な対応も辻褄が合ってくる。
ちなみに今日の運転手は乗車時のレシートの確認をすっ飛ばしていた。ただただ面倒だったからなのか、利用客への信頼なのか、それともたとえば過去に10円のレシートを提示され「自分は10円でこいつを乗せるのか」と嫌気がさした経験があるのかもしれないが、無料で人を送迎することがバカバカしく思えてこないための自己防衛の結果、ショッピングモールで買い物をすることが主目的だったように見えない利用者に無愛想になるとしたら至極当然な流れであり、受け止めてあげたいとすら思えてくる。
そんなことを考えていると1人のサラリーマンが乗ってきた。「山形駅」とぶっきらぼうに言い捨てながらズカズカと乗ってきた。明らかに態度が悪い。運転手もまさかこんな挨拶もなしに降車駅だけを言い放つとは思わなかったのか彼の言葉を聞き取れず、そして態度の悪さに呆れたように「どちらまでですか?」と声をあげる。サラリーマンはハナから傲慢だった上に「さっきも言ったけどなぁ」と更に傲慢を上乗せしたような態度で「山形駅!」と繰り返す。悲しそうに「承知いたしました」と承る運転手さんを見てとても悲しくなった。
ぼくは降り際、気持ち少し声を張りめに「ありがとうございました」と言ってみた。これくらいしかできない自分が惨めに思えたが、運転手さんは「はいおつされさーん」と通常の愛想を取り戻したような声で返してくれた。