何を選んだのか、何を選ばなかったのか。
岩波文庫から8月に出た『大江健三郎自選短篇』の収録内容を遅ればせに確認しました。
各短篇が元々収録されていた単行本名と共に並べるとこのようになります。
I 初期短篇
奇妙な仕事『死者の奢り』
死者の奢り 同
他人の足 同
飼育 同
人間の羊 同
不意の唖『見るまえに跳べ』
セヴンティーン『性的人間』
空の怪物アグイー『空の怪物アグイー』
II 中期短篇
頭のいい「雨の木」『「雨の木」を聴く女たち』
「雨の木」を聴く女たち 同
さかさまに立つ「雨の木」 同
無垢の歌、経験の歌『新しい人よ眼ざめよ』
怒りの大気に冷たい嬰児が立ちあがって 同
落ちる、落ちる、叫びながら 同
新しい人よ眼ざめよ 同
静かな生活『静かな生活』
案内人(ストーカー) 同
河馬に噛まれる 『河馬に噛まれる』
「河馬の勇士」と愛らしいラベオ 同
III 後期短篇
「涙を流す人」の楡 『僕が本当に若かった頃』
ベラックヮの十年 同
マルゴ公妃のかくしつきスカート 同
火をめぐらす鳥 同
収録作数から見ると、最初の短篇集『死者の奢り』(5編)と、現在のところ最新の短篇集『僕が本当に若かった頃』(4編)から多く収められています。もっとも、同じく4編収録されているものとして『新しい人よ眼ざめよ』があるので、7編中5編が収められている『死者の奢り』はずいぶんと特別扱いされている、と言えるでしょう。
『死者の奢り』収録作で今回外されたのは「偽証の時」と「鳩」。前者は「偽大学生」というタイトルでよって映画化されているのに収録されていません(いや、映画化されたからこそ?)。
昔書いたベスト10的な文章、「大江健三郎、こんなのもあります」で言及したものでは、「人間の羊」、「空の怪物アグイー」、「さかさまに立つ「雨の木」」、「静かな生活」が重なっております。
発想を逆にして何が収録されていないのかという見方をすると、『孤独な青年の休暇』、『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』、『みずから我が涙をぬぐいたまう日』、それに『いかに木を殺すか』から1編も収録されていないのが目立ちますね。
特に『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』と『いかに木を殺すか』は、以前に構築していたフィクションの世界と現実世界につながる家族の物語とを融合させる試みを行った小説、後の『懐かしい年への手紙』や〈燃えあがる緑の木〉三部作につながる小説が収められているので、全く選んでいないというのは不思議な感じです。
独立した短篇小説としては読みにくいということなのでしょうか?
このような収録作自体の問題もありますが、さらに文章を書き直してもいるということなので、そこもおいおい確認していく予定であります。
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