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アンダーグラウンド

地下室から這い出た私は、今風に言うならば、ツインソウルを探し求めるスピリチュアル迷子のように、自分の居場所を確たるものにしようとさまよい歩いた。
それは、つまり、彼氏探しだった。
いや、彼氏じゃない。夢中になれる何か、いいも悪いも受け入れてくれる何か、いいんだよと言ってくれる何か、、、自分探しをしていたのだろう。それはごく最近になるまで、ずっと握りしめていた。自分以外に自分を求めるコントみたいなことをし続けて来たのだ。
とにかくエキセントリックガールの本領発揮始まり始まりであった。

誰が最初だったのか記憶も定かでない。地方から出てきた青年達もエキセントリックで純朴で私と同じように本当の自分を探し求めていた。
兄にくっついて男の子とばかり遊んでいた私は、その懐にさりげなく入っていくのが、自分で言うのも何だが上手いのである。何のことはない、女子女子していないので、相手も男らしく!とか男として!とか気負わなくて済むので気を許しがちなのであろう。
ところが、仲良くなってその先へ進むと途端に私は少女のように戸惑い固まり柔軟ではなくなってしまい、相手のリードが必要不可欠になってしまう。
もしも私が男なら、めんどくせーオンナ!と思うだろう。そうさ、つい最近、何なら今でもめんどくさいオンナなんだ!
今ならわかるのだ。それは、欠けてる前提で始めようとしていたからだ。欠けてるモノをオトコで埋めようとしたならば、間違いなくめんどくさいオンナになるのである。

ま、そんなこんなで何人か渡り歩いたわけです。(大胆な省略をしようとしているぞ?オイ、出せ!勇気を!)


T青年は、北摂地域からの通学組だったので、帰る方向が同じだった。何キッカケとかは忘れてしまった。大人しく真面目そうに見えてはいたが、そんな学校(!)を選んでくるぐらいだから、何か変わりたいとか、今の自分はダメだとか、劣等感とそれを押し隠そうとする強がり、ポーズみたいなものがあった。その学校に来ている人達はほとんどがそうだったのだろうけど。
とにかく彼は無理に悪ぶっている感じかあって、「ちょっと悪そう」がフェロモンのように惹きつけ要素であった当時の私のアンテナに引っかかっててしまった。

当時阪急梅田のターミナルに、人気のない歩く歩道があった。乗り換えの人でごった返えすターミナルだが、まるで忘れ去られたかのように人気のないスポットがいくつかあったのだ。そこは、そこから別々の路線や鉄道に乗り換えるためそこでバイバーイまた明日ね〜とは別れがたいカップルが、イチャつくスポットでもあるのだ。ある時そこでイチャついていたかどうかはともかく、結構な時間話し込んでいたのだ。
すると、若いオトコが数人こちらを窺う様子が視界にチラチラ入ってきたのだ。何となく頭の中でアラームが鳴る。
なんか、ヤバイ感じ、、、?人気のないところにただいるだけで、特に迷惑を掛けた訳でもない相手にジロジロとしかもジワジワと近づいて来られるとは、これはそーとーヤバイヤツなんじゃ?と思った時に、不意にT青年が「タローさんがさぁ!!」とやや大きな声で喋り出したのだ。するとジワジワの足がハッと止まるのだ。察した私が「ああ!そうだねータローさんたらさー!」とタローさんとは仲良しですよ的な会話に持っていく。
しばらくして恐る恐る周りを確認すると、不穏なオトコ達の姿は見えなかったのである。

タローさんとは、学校の先輩で、本人曰くセミプロの男娼、ゲイなのだった。
ゲイの世界は狭く、相手探しはかなり難しいらしい。そして彼曰くだが、意外や意外、公務員とか医師、弁護士、学校の先生などお堅い仕事の人にゲイが多いのだそうである。そういう方たちはゲイであること、ゲイのパートナーがいることをひた隠しにするのだが、それを逆手にとってそのパートナーがバラすぞと脅したり悪いことの為のネタにしちゃったり、結構あるらしいのだ。
オレはそこまで悪くないけどな、といいながら複数人のパトロンさんがいたのだ。飲酒状態で学校に来たりあまりに素行が悪かったのでほとんど通学しないままにやめてしまったが、その安くない学校の費用もパトロンさんに出してもらったのだとか。
その彼の拠点がキタ界隈で、それと名が通っていたのだ。
後でタローさんに話を聞くと、その人気のないスポットは、いわゆるゲイのハッテンバでもあったのだ。ノーマルのアベックがウロつくのを非常に疎ましく感じるらしく、時折弱そうなアベックに嫌がらせしたり、時には金品を脅し取ったりというようなことがあったらしく、その世界で有名なタローさんの名前を出したことは正解だったらしい。

その後T青年とはすぐに別れてしまい、彼はねーさんと呼ばれるヤンキーのねーさんと付き合い出しなんと卒業まで仲良く楽しそうに過ごされ、それはそれでなによりでした。
私はまたツインソウルさがしの泥沼へ泳ぎだしたのだった。

T青年との付き合いで(多分すっごく短かった)覚えているのは、タローさんがらみのこの件だけである。タローさんはカタギの私たちには穏やかに接してくれていたが、そうではない裏の顔も容易に想像がつく。アンダーグラウンドな都会の一面を垣間見せてくれた一件だったのである。

ちなみにその後そのスポットは改修され(やはりいろいろ事件が多発したらしい)、今はもうない。

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