見出し画像

お客様は大泥棒_02

また会った
彼女もすぐに私に気が付いた

定期的に通っている産婦人科からの帰り
彼女には私の姿がどう映っているっているのだろうか

コンビニとファミレスの前を素通りするバス停から乗ってきて
大きな駅まで行かずに早々に降りていく私を


「前に話したときのことなんですけど」

急に以前の会話の続きを始められると思ったほど
私が彼女のことをよく覚えていることを彼女が感じ取ったことを肌で感じた

「どんな人がお客さんなんですか」

「どんな人…前にも言いましたけど、泥棒を生業としている方々です」

泥棒なんだけど、なんだかものすごい敬意を感じる言い方だった
営業マンからしたらお客様なわけだから当然なんだろうか


「よく遠くに出張に行くことになります」

仕事の関係で、ということらしい
そのお客様に会いに行くのかと当たり前のようなことを尋ねると、必ずしもお客様本人に会いに行くとは限らないのだそうだ

出張、、自宅に根を張っている私からするとなんと羨ましいというか憧憬の対象である
自身の営業時代も出張、というものはなかった
どこまで聞いてよいのか悩ましいところだがつい質問を重ねてしまう


「最近多いのは札幌、函館、あとは仙台ですかね」


いいですね、うらやましいです、とつい口にして窓の外を眺める

私も一緒に行ってみたいな、とこれはさすがに心の中に収めたまま
そろそろ、、、とバスを降りる準備をする


(つづいた…)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?