Microsoft Research Internshipの思い出とそこで得たもの、失ったもの

はじめに

こんにちは、Microsoft Research Internship アルムナイ Advent Calendar 2020 4日目を担当します平木です。アドベントカレンダーから来られた方の多くは「誰だお前は?」という感じだと思うので、僕のプロフィールを知りたい方は下のwebを見てみてください。かんたんに言うと主にプロジェクタを使った拡張現実感 (AR) やヒューマンコンピュータインタラクション (HCI) の研究をしている研究者です。

実は僕は過去のアドベントカレンダーでMSRA滞在関連の記事を2本も書いているので、滞在中どんな感じだったかとか、これがTipsだという話はもうそっちでかなり書きつくしてしまっています。(今日までの3日間はみなさんアメリカ・RedmondにあるMicrosoft Researchでインターンをされていましたが、僕は中国・北京にあるMicrosoft Research Asiaでインターンをしていました。いた場所自体が全然違いますので注意してください。)

博士(2016-2017)でMSRAインターンに行った時の話

去年(2019)にVisiting ResearcherとしてMSRAで研究した時の話

こんな記事読んでられるか!という方にかんたんに説明しておくと、接触式のスピーカとマイクを壁などの広い面に貼り付けて、そこに超音波を伝播させることで接触を検知するタッチインタフェースの研究をしていました。最終的にインターンではUIST2017に投稿してRejectされ、その後博論の関係もありpendingしつつもISS2018のDemoで発表し、ジャーナルを書いて供養すべく去年も1ヶ月弱MSRAにVisitingしたりして、いまでもちょっとずつ取り組んでいます。(おそらくインターン研究をひきずっている最長記録ではないかと思われます。諸方面には申し訳無さしかない。)

ということで、今回はこれまでの記事で触れていなかったMSRAインターンでの個人的な思い出と、今振り返ってそこで得たもの、失ったものについてつらつらと書いてみようと思います。

なお、この記事はMicrosoft Research Internship アルムナイ Advent Calendar 2020の4日目の記事です。(メンバーがとても豪華なのでぜひ他の方の記事も読んでいただくとよいかと思います!)

Microsoft Research Asia の思い出

アドベントカレンダーでここ3日記事を書かれていた方々(樋口さん、落合先生、平井先生)は同時にMSRインターンに参加されており、同じキラキラ写真をみなさんが使っていたので、負けじと僕も当時の写真を紹介することにしました。

画像1

中央で縞々のセーターを着ているのが僕ですね、THE東大生ファッション。ベイエリアな雰囲気であるMSRインターンのキラキラ写真とくらべるとなんか冴えないですが、この時期の北京は大気汚染がひどかったので、外で写真を撮る気にはならなかったのでしょう。

そしてもう一枚

画像2

eeic2012ってなんだよ、と思われるかもしれませんが、実はこの5人、東京大学 大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻の同期だったんですね。しかも工学部電子情報工学科/電気電子工学科からずっと同期で、その略称がeeic、学部3年で進学した年度が2012年度だったのでeeic2012という訳です。これまでたくさんの人が日本からMSRインターンに参加していたと思いますが、さすがにこの多さで集結したのは僕たちくらいじゃないでしょうか。経験としてそれがいいのか悪いのかはともかく、長期合宿みたいでめちゃくちゃ楽しかったです。

写っている人たちとの思い出とその後を少しだけ語ってみたいなと思います。写真の一番右に写っている石渡くんは、マンガの自動翻訳サービスを提供するMantraを、左から二番目の日並くんといっしょに起業しています。

石渡くんはNLPの、日並くんはCVの研究者としてたくさん実績を残しているので普通にドリームチームですね。まだ起業して2年も経っていないのに未踏アドバンスドに採択されたり、VCから多額の投資をゲットしたり、いろんなメディアに取り上げられたりしていてすごいなぁと思っています(小並感)。このあたりは8日目に石渡くん本人が語ってくれるんじゃないかと思っています!

石渡くんは中国からの帰国子女で、中国語が流暢だったのに加えて元来のコミュ強、それでいてとても面倒見のいいナイスガイだったので滞在中はすごくすごくお世話になりました。当時使っていたXperiaの画面が割れた時、謎の業者に修理してもらったんですが、その時の交渉も一手に引き受けてくれたことにとても感謝したことがいまでも印象深いです。あのときはありがとう…!

日並くんは実は大学では面識がなかったんですが、一時期同部屋で過ごしていたのでとても仲良くなりました(と僕は思っています)。研究への視点・ひらめきと、集中したときの爆発力がすさまじい一方で、ちょっと抜けているエピソードもあったのがとても魅力的だったなぁと思います。MantraのCTOとしてバリバリ活躍しつつ、AAAI2021(AI分野のトップカンファレンス)に1stで論文がacceptされたと聞いてその研究パワーは健在だなと改めて感じました。

右から二人目の吉橋くんは僕と同じ苗村研究室に所属していたのでまさに戦友という言葉がぴったりかなと思います。修士・博士の5年間を共に過ごしましたが、吉橋くんが怒ったり声を荒げたりする姿を見たことは1回もなく、常に紳士で仏のように穏やかでやさしく、面倒見のよい友人でした。それでいてユーモアも豊かで、どういう環境で過ごせばこのすばらしい人格が形成されるのかが不思議に思うくらいでした。今はYahoo!でCV研究者としてバリバリ活躍されています。Yahoo!の人から「吉橋さんっていう超強研究者の方がいて…」という話を聞くたびに「実は吉橋さんは僕の研究室同期なんですよ(ドヤ」というのが密かな楽しみです。

一番左に移っているのが古田くん、もとい古田先生で、相澤・山崎研究室(現 相澤・山崎・松井研究室)で博士を取った後、東京理科大学の助教を経て、この10月から東京大学 生産技術研究所 佐藤洋一研究室で助教をしています。(21日目に書かれる菅野先生が准教授をされているラボですね、そう考えるとMSR Internの輪、強すぎでウケる。)相澤・山崎研究室は僕がいた苗村研究室の隣のラボだったのにも関わらず、インターン前は「なんか優秀な人が博士に行くらしい」という話を聞いたくらいで面識はなかったです。が、インターンで友人になり、またお互い千代田線の綾瀬駅近くに住んでいたことが発覚して終電でいっしょに帰ったりしたのは今となってはいい思い出だなぁと思います。結局ここに写っている中でアカデミアに進んだのは僕と古田先生なので、分野は違えどいつかコラボレーションできれば楽しいだろうなぁとひそかに思っています。

そして1枚目の写真で前に寝て写っているのは大谷くんで、京都大学の修士でインターンに来ていました。大谷くんも石渡くんと同じくNLPが専門で、帰国子女という訳でもないのに中国語で他の中国人学生インターンと普通にコミュニケーションをとっていたので、当時、NLPを研究している人はみんな多様な外国語を操れるのかと驚愕していました(これは後に一般性皆無であると判明します)。京大を出た後はCMUのPh.D.に入って、第一線でバリバリ研究されています。すごい。9日目に記事を書いてくださるみたいなので近況を知れるのが楽しみです。

この写真には写っていないですが、他にもたくさんの日本人や台湾人、韓国人(そういえばこの人はMSRAインターン後にUC BarkleyのPh.D.を出て、この間Googleに入ったとFackbookで読みました、強い。)、インド人インターンとさまざまなメンバーで日々を過ごしていました。社内の食堂やEC Mallというショッピングモールの中のレストラン、またスペシャルな日には遠出して塚田農場(北京に1店舗だけありました)までご飯を食べに行ったりと研究以外にもいろんな思い出がありました。なつかしくて涙がでそうです。僕は研究があんまりうまく進まなかった方だったのですが、この友人たちとの生活を経験できただけでもインターンに行った価値はあったと今となっては感じるくらいに貴重な経験だったなと思います。

この話を書いていると、みんなの近況を聞いてみたくなったので、ぜひとも品川のアラムナイイベントで会ってみたいなぁという気持ちが強くなりました。僕が呼ばれていないだけかと思っていましたが、平井先生も書いておられましたが、最近は行われていないんですよね…?(ふたりして呼ばれていないだけ…?)

MSRA Internshipで得たもの

いま振り返ってみるといろんなものを得た気がしますが、こういう機会でもないとまとめないので書いてみます。

友人

なんといってもこれが一番大きかったと思います。さっきまで長々と思い出を書きましたが、博士になって深い関係性を築ける友人を得る機会というのはそうなくて、貴重な機会だったなといまでも思っています。まさに戦友という表現がしっくりきます。

研究者としての気合と覚悟

恥ずかしながら、僕はMSRAの研究をUISTに投稿するまで、自分で仕上げた研究をフルペーパーにして投稿するという経験をしたことがありませんでした。また、修士時代は助教の先生方におんぶにだっこという感じで、研究をどう仕上げてどう見せるかというところを、メンターである福本さんの指導の下ですが、自分できちんと考えて取り組んで、死にそうになりながら実験して執筆して、(Rejectされたものの)UISTの投稿まで持っていけたのは自分の中でそこそこ自信になりました。ここで得た気合と覚悟がなかったら、もしかすると博士を取った後の進路にアカデミアを選ぶことはなかったかもしれません。

福本チルドレンのつながり

福本チルドレンとは、僕のメンターだった福本 雅朗 博士をメンターとしてMSRAでインターンを経験した人たちを指して僕が勝手につけた呼称です。福本さんはユーザインタフェース研究のプロフェッショナルであり、MSRA以前はNTTドコモ研究所にいらっしゃった関係で日本人研究者とのつながりも多かったためか、日本の大学に所属している学生が福本さんの下でインターンをして、博士取得後にさまざまなところで活躍されています。

例えば、アドベントカレンダーに参加されている方だと14日目の池松先生や16日目の西田さんは僕より後に福本さんの下でMSRAインターンを経験されていて、他にも筑波大学の蜂須先生や産総研の尾形さん、東京大学のTungさんなどがいらっしゃいます。みなさんとは学会をはじめ、いろんな機会でお会いすることがあるのですが、初対面の際はやはり「僕も福本さんのところでインターンしてました」からMSRAの話題で盛り上がっていたので、このつながりにはとても助けられました。

中国への視座

聞くと見るでは大違いと言いますが、やはり中国という国家が一足とびに情報化社会へと変貌していく時期に滞在できたことはいい経験だったと思います。2016年当時、QRコード決済もフードデリバリーもシェアサイクルも日本ではほとんど使われていなかったので(個人の感想です)、その波を感じることができたのはこの時期にいたからこそだなと思いました。だからといって、中国の方が日本よりすべてにおいて優れているとか言う気はないですが。

英語コミュニケーション能力

英語はもともとできない方ではなかったのですが、大学で留学生があまりいない環境だったというのもあり、あまり英語でコミュニケーションする機会はありませんでした。ただ、メンターの福本さんとの会話は日本語(関西弁)だったものの、その他のインターン生との会話は英語だったので、たくさん英語をつかって話すことになりました。この経験はその後に英語でコミュニケーションを取るときに結構効いているなと感じていて、とてもよい経験だったと思います。また、メンターが日本人ではなかった場合、研究ディスカッションも英語になるのでもっと鍛えられるのではないでしょうか。

Microsoft Research Internshipで失ったもの

人は何かを得るとき、往々にして何かを失うものです。得たものを書いた以上、失ったものも書いておくべきだと思ったので書きます。当然ですが一般性は皆無の話です。

健康

僕は2016年-2017年と2019年の2回MSRAに滞在しましたが、そのどちらの期間もかなり体調を崩しました。1回目の滞在では2017年1月におそらくインフルエンザになり、2回目の滞在では滞在後数日で咳が止まらなくなりました。

今考えると病院に行くと良かったのですが、かかっている当時は風邪では?という感じだったのと、(保険には入っていたものの)北京で病院に行くプロセスが不明すぎて踏ん切りがつかず、インフルエンザについては死にそうになりながら自然治癒で治しました。ちなみにインフルエンザにかかったのはMSRAの暖房が壊れて、ビル内が極寒になっているにも関わらずずっと研究していた後のタイミングだったので、もし冬にビルの空調が壊れたら素直に研究を休んだほうがいいと思います。

咳については夜も寝られないくらい悪化して、これも死にそうになったんですが、北京から羽田空港に帰ってきて、すぐに空港のクリニックに直行、飲み薬やら抗生物質やら喘息の吸引薬やらを処方していただいて、用法用量を守って飲んでいたら2日で治りました。国民皆保険はすごい!

ちなみにMSRAの方々はどちらのときも薬をくれたり様子を聞いてくれたりしてすごく親身に接してくれました。(が、インターンは社内のドクターには診せられないきまりとかで、診療はしてもらえませんでした、つらい。)

所属大学での研究時間

これは当然といえば当然なのですが、3年間の博士課程において、インターンに行くと所属大学で研究する時間はその分減ります。特に僕はMSRAインターンでの研究が博論に入らない(入れない)ことが早々に確定していたので、純粋に博士論文に載る研究をする時間が減少しました。かといって、博士論文がギリギリだったとかでは特になかったので、それがクリティカルに響いたというわけではなかったです。また、この博論でインターン研究の内容をどう扱うかという問題は、インターンで取り組む研究内容のマッチングや根回しなどで回避できるとは思いますが、所属大学で指導教員の下じっくり研究する、というのも戦略としてはありだと思います。もちろんインターンの価値は研究だけではないので、トータルで考えると僕はチャレンジする方をおすすめするとは思いますが。

おわりに

この内容をインターネットに公開して誰か喜ぶ人がいるのかという、個人の思い出日記状態になってしまいました。(そんなに長く書かないつもりが6000文字以上書いてしまい、0時の投稿予定がけっこう遅くなりました…。)

いろいろ書き連ねてきましたが、僕がいまこうしてアカデミアでほそぼそと生き延びているのは、MSRAの経験があったからだというのは間違いなくて、そこで得た経験や友人を支えに僕はこれからも研究をがんばっていこうと思います!

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