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稀代の馬主孝行種牡馬、パイロがこれからも伝えるもの

2023年、パイロの種付け頭数は前年度から61減の70頭。
まだまだ現役とはいえ御年18歳。

同世代のシニミニやヘニーヒューズが大レースを勝つような産駒を輩出し、ホッコータルマエなどの次世代ダート種牡馬の台頭もあり、徐々に影が薄くなりつつあります。

ここにきてメイショウハリオが現在一線級で活躍しているとはいえ、獲得賞金順で言えば次がもうミューチャリーですから、やはりシニミニやヘニーと比べるとインパクトに欠けるのは否めませんもんね。

パイロの直近10世代の勝ち上がり率は38%。
ヘニーの48%、シニミニの44%と比較すると、悪くはありませんがこれもややインパクトに欠けます。

しかし、このパイロという種牡馬、実はとてつもなく馬主孝行な種牡馬なのです。


【種牡馬パイロが伝えるもの】

パイロ産駒と言えば皆さん何を思い浮かべるでしょうか?
馬券派の方なら『新馬のパイロ』『芝替わりで人気を落としたパイロ』なんかでお世話になっている方も多いのではないでしょうか?

パイロ産駒の特徴としては主に、

・新馬から走る(調教動いてなくても走る)
・スプリント~マイルが主戦場
・ダートがメインだがたまに芝もこなす
・2歳から走る割に、高齢まであまり衰えない

と言ったものが挙げられます。

初年度産駒のシゲルカガは芝の1200mで新馬勝ち。
その後も芝1200mのみでオープンまで駆け上がったものの、ダート転戦2戦目の北海道スプリントカップで優勝し重賞初制覇。
その後中央では奮わなかったものの、7歳にして盛岡に移籍すると移籍初戦を除いて8連勝。高齢まで活躍しました。

他にも2歳から最前線で活躍しながら、9歳の浦和記念で4着に入ったタービランス。

新馬勝ち後小倉2歳Sで3着に入り、その後ダートに転戦して準OPまで出世。
晩年に園田に移籍して8歳でグレードレースのゴールド争覇で2着に入ったバーニングぺスカ。

新馬から2連勝ののち準OPまで勝ち上がり、9歳まで中央で走りきって約2億弱稼いだオーマイガイなど、とにかく『早くから使えて高齢でも急激に衰えない』という馬主孝行な馬がとても多いんですね。

そのパイロの秘密はまさに血統表の中に詰め込まれています。


パイロの父はA.P. Indy系のPulpit。
自身の競走成績は目立つものではないですが、現役時から能力を高く評価されておりスタッドイン。
直仔はまずまずの活躍を見せましたが、その中の1頭であるTapitが種牡馬として大成功をおさめ、サイアーラインを伸ばしています。

母の父はNorthern Dancerを通らないNearctic系のWild Again。
母の母Carol's Wonderは主流血統から外れた異系で固められています。

パイロ自身は現役時代、GⅠは1400m戦のフォアゴーSの1勝のみでしたが、3歳時には1700mのリズンスターS(GⅢ)やルイジアナダービー(GⅡ)も勝っているように、マイルぐらいまでは守備範囲にしていました。

レーズぶりを見てもアメリカの短距離馬にしては柔らかさを感じさせ、逃げ先行一辺倒と言う訳ではなく、追ってからもしっかりと加速しています。
特にリズンスターSで見せた末脚はなるほど流石A.P. Indyだなと感じさせますね。


さて、突然ですが、種牡馬には大きく分けて『打率型』『一発型』の2種類に分けられると個人的には考えています。

パイロは完全に打率型。これを否定する人はあまりいないでしょう。
反論がある方はあとで校舎の裏に来てください()

この、打率型、一発型の特性を語る上で、まず外せないテーマが『そもそも、競馬というものにおいて勝つために絶対不可欠な能力とはなにか』という部分です。

もちろん条件の違いによって多少の差異はあるでしょうが、不可欠と言えるのは、
①推進力
②前進気勢
この2つだと私は考えています。

まず①の推進力。スピードとも言いかえれますが、これは芝とダートで求められる体質に違いはあれど、いずれにせよ推進力が必要なのには変わりません。
スポーツカーもオフロード車も活躍する舞台が違うだけで、推進力がモノを言うことには変わりませんよね。

そして②の前進気勢。これは言い換えてみればレースに対してのやる気みたいなものです。
サラブレッドというのはレースに特化した品種ですからね。
それはフィジカル面だけでなく、気性面にも言えることです。

そして、繁殖牝馬というのは種牡馬と違い、これらの質に大きな差があります。
GⅠ馬もいれば未勝利馬もいるし、良血馬もいればブラックタイプすかすかの馬もいるからですね。

つまり、こういった条件下で打率型種牡馬になるためにはある程度どんな繁殖牝馬が相手であっても、『推進力』と『前進気勢』をコンスタントに伝える必要があると言えます。

逆に言えば、『推進力』と『前進気勢』をあまり伝えない、それらを母方に依存せざるをえない種牡馬が、相対的に『一発屋タイプ』であると言えます。


パイロという種牡馬はその2つの点において優れた伝達力を持っていて、まず父のPulpitがA.P. Indy×Preachという極めて軟質なアメリカ血統。

ただ、母のPreachがMr. Prospector譲りの才気あるスピードを伝えており、それがPulpitの短距離性能と仕上がりの早さに一役買っています。

一方で母の父Wild AgainはスプリンターであるIcecapadeの産駒で、そこにHyperion直仔のKhaled×Nearco直仔の英ダービー馬Danteという累代。

血統に詳しい人ならこの血統表で少し違和感を持ってもらえるかも知れないが、父と母で血統の更新が1世代ほどズレているんですね。

これは母のBushel-n-PeckがWild Againを産んだのが22歳時(!)だったためで、しかしそれでいてHyperionやNearcoだけはほぼ同位置の3×4でクロスしているのだから良い意味で気持ちの悪い、明確な意図が感じられる素晴らしい配合だなあと感心してしまいます。

前進気勢が強く如何せん単調になりがちなIcecapadeを、母方の一昔前の異系で補うという配合は見事奏功し、Wild Againは記念すべきBCクラシックの第1回優勝馬となるなど活躍。
また、種牡馬としてはリーディングこそないものの毎年のように活躍馬を輩出し、ステークスウイナー率9%という大成功をおさめます。

ちなみに、Wild Again自身は古馬になって活躍したものの、産駒の特徴としては2歳から活躍し、かつ高齢になってもなかなか衰えず息長く走る馬が多くいました。


…はい、ここで気付いた方もいるでしょう。
そうなんです!パイロの特徴とめちゃくちゃ似てるんですよ。

つまりですね、端的に言えばパイロというのはPulpitから早熟性と柔軟性と短距離向きのスピードを拝借したWild Againである、と言えるわけです。

更に言えば、母のWild VisionはWild Againの異系の部分であるKhaledやDamaの部分を増幅していて、またBull Lea=Sir Gallahad+War Admiralを持つMiss Grundyが、Pulpitの数少ないパワー血統であるBusandaと脈絡しており、全体的なバランスを整えることに成功しています。

その一方でA.P. Indyらしい柔らかさも脈々と伝えていて、2~3歳時に芝で通用する馬が多いのも納得のいくところ。
また、この軟質さが高齢になっても硬くなりすぎないという長所に転化してします。


ダート種牡馬でありながら、こういった構成は現代ではなかなか貴重であり、今後パイロの直仔は減少していくでしょうが、母の父としても大いに資質があるものと僕は見込んでいます。

まだ産駒は多くありませんが、既に母の父としてもディスクリートキャットとの間にコンバスチョンやメズメライザーなどのダート短距離馬を輩出。

一方で、ゴールドシップとの間に産まれた芝の2600mを勝って3勝クラス入り。
ドゥラメンテ産駒サクセスドレークは芝の中距離で2勝。

ネロ産駒のセイウンダマシイは新潟直芝1000mの閃光特別を勝っています。


この懐の深さがこそがまさにWild Againであり、この柔軟さがA.P. Indyだなあと改めて感じているところです。

大物がなかなか出なさそうなところがまたパイロらしくもありますが、母の父となってもまた馬主孝行な馬をたくさん出してくれそうです。


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