道元禅師の「渓声山色」

道元禅師は、「谿声山色」の巻に、

[原文]また霊雲志勤禅師は、三十年の弁道なり。あるとき遊山するに、山脚に休息して、はるかに人里を望見す。ときに春なり、桃華のさかりなるをみて、忽然として悟道す。偈をつくりて大潙に呈するにいはく、
(……)
大潙いはく、「従縁入者、永不退失」すなはち許可するなり

*「従縁入者、永不退失」……縁より入る者は、永く退失せず

また、霊雲志勤禅師は、三十年このかた修行をしてきた人であるが、ある時、山に遊び、山麓に休息して、はるかに人里を眺めた。時春にして桃花のさかりなるを見て、忽然として悟った。そこで一詩を賦して、大潙に呈したいった。

「三十年このかた知識を訪ねて
葉落ち芽を生ずることすでに幾回ぞ
ひとたび桃花を見てよりのちは
たちまち疑いをこえて今にいたる」
大潙は、「緑より人る者は、ながく退失せず」といって、ただちに印可を与えたという。(増谷『正法眼蔵』第一、一四八頁)

と記している。

[傍注]霊雲志勤: 福州志勤の人。年寿不詳。潙山の法を嗣いだ。この一節は、「景徳伝燈録』巻十一、霊雲志勤伝による

三十年来尋剣客……剣客は善知識を意味する(増谷『正法眼蔵』第一、一四八頁)。

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