志賀直哉の徳山托鉢

志賀はまた、「老廃の身」(昭和三九年)という小品のなかでも、このことについてふれている。

徳山托鉢といふ禅の話は私は昔から大好きな話であるが、機鋒鋭い棒使いの名人が年老いて、未だその時刻でもないのに庫裡に鉄鉢を持って飯を貰いに行き、弟子の僧の一喝に会い、黙ってそのまま引返したといふ、それだけの話だが、私は自分が年をとって、腹がへって我慢出来なくなる事が時々ある。この話も実はもっと簡単に考へていい話ではないかと思ふやうになった」

徳山とは唐代の禅僧、徳山宣鑑禅師のこと。喝ー叫び声ーを多用した臨済義玄とならび称せられた、同時代を生きた禅匠である。徳山は修行者(学人、禅子)を接化する(導く)のに棒を振るったので、こちらは打棒・行棒の禅者として著名である。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?