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渡米29日目 パパは今、お金がないの?

昨晩帰宅後からずっと事務的な作業を続けている。エマーソン大学から撮影機材をチェックアウト(借りる)するための初歩的な作業なのだが、さすがアメリカは契約社会。撮影や機材の取り扱いに関する様々なプロトコル(取り決め)に合意しなければならず、撮影場所も細かく申告が必要で、最終的にはそれが承認されてようやく機材が借りられることになる。特に年度初めには記入しなければいけないフォームが多いと聞いていたが、その圧倒的な物量に辟易する。クリエイティブなことをするために、なぜこんなにクリエイティブではないところで時間を取られなければならないのか。以前、ニューヨーク大学のジャーナリズム大学院にいた頃は、機材の貸し出しはここまで煩雑ではなかった。もっと学生の持ち時間をリスペクトするべきではないか。

だが、文句を言っていても始まらない。郷に入っては郷に従えというところだろう。こういった作業がここエマーソンでは常に付きまとう。それで機材をチェックアウトすることが億劫になって、撮影に出るフットワークが鈍るなら本末転倒だ。早くこうした作業に慣れて、、まるで靴紐を結び直す程度のスムーズさで機材をチェックアウトできるようになれればと思う。

昨晩夜中の2時ぐらいまでかかって全ての申告書類を出し終えたのたが、いざ機材を借りようとするとまたもやエラーが発生してしまった。やれやれ、本当にこの繰り返しだ。全てがオンラインになったのはいいが、バグなのか、こちらが何かの手順をすっぽかしているのかも判別がつかず、昨晩はすでにチェックアウトに向けて一歩先を進んでいるクラスメイトにメールし、加えて今朝子ども達を見送った後で、金曜日のFoundationクラスの教授のDavidにも状況を報告した。

「今週金曜日の課題に向けて、遅くとも明日の午後には機材をチェックアウトしたいと考えています」

そうメールで伝えるとすぐにDavidから返信があり、申告が受理されるまでおそらく一日はかかるので、少し待ってみるようにとレスポンスがあった。明日の午後には間に合うはずだという。

加えて、ここ最近の忙しさにかまけて僕にはずっと放置していた宿題があった。それは、フルブライトに到着後30日以内に求められている在籍証明などの提出物だ。ふと気が付けば明日で到着後30日となる。提出物としてザクっと何が必要か、すでに目を通していたつもりではあったものの、実際にしっかり目を通してみると僕が把握していたのは氷山の一角で在籍証明書以外にも、やはり健康に関する情報や様々なメディアへの露出に感する同意書、大学で追加で加入した家族の保険に関する情報の登録、税の申告に必要となる情報など、提出物が盛りだくさんだった。

「期日までに提出を怠ると、あなたのビザやアメリカ滞在に深刻な影響を及ぼす可能性があります」

そうした内容の警告も記されている。そして、中にはこのオンラインの時代にわざわざプリントアウトして、サインを記入後、スキャンして送り返すことを求めている書類まである。家にはプリンターもスキャナーもないし、大学でもどこでその作業ができるのか。おいおい、果たして今から始めて、明日までに全て間に合うのか・・・。

「ふー」

ひとまず僕は深呼吸した。慌てても状況は変わらない。落ち着こう。一つ一つやっていくしかない。やらなければならないタスクをリスト化し、ひとつひとつのタスクに取り組み始めた時間を記入して、そのタスクをこなすのにどれだけ時間がかかったか、まだクリアしていないタスクには赤い丸を、クリアしたタスクには緑色の丸をつけて可視化し、ゲーム感覚でクリアしていく。決して楽しい作業ではないことをどうすれば、少しでも手応えを感じながら、進められるか。僕が編み出した一つの手法だ。

まずは大学のレジスターオフィスにメールして、フルタイムの学生であることを示す証明書をすぐに発行してもらえるようにお願いした。その後、金曜日のFoudationクラスに求められている自己紹介ビデオの収録の原稿をライティングチューターのゾイとZoomしながらブラッシュアップし、さらに大学に向かう電車の中でもさらに提出物タスクの「緑の領域」を広げる作業を続けた。

大学に到着後、念のためレジスターオフィスに立ち寄り担当者にいつフルタイムの在籍証明書を発行できるか、念押しに確認したところ、今日の夕方5時までには送り返してくれるという。また、機材の貸し出しに向けて必要となる撮影地の承認が降りたことを示すメールが届いていたので、その足で、実際に機材をピックアップするEDC(Equipment Distributio Center)に赴き、Foudationクラスで割り当てられているシネマカメラのCanon C70Fuji XT3を明日の午後ピックアップできるように予約した。また学内に、無料で食品などを配布してくれるPantory(食品貯蔵室)の存在を知り、トマトソースなどの缶詰や子ども達が学校に持っていくポテチやポップコーン、コーンフレークなどをカバンに詰め込み、その後、留学生向けの無償のビジネス英語クラスに参加。夕方、同じビルの一角にある大学の図書室に立ち寄ったところ、大学で働く学生チューターがとても親切に印刷と署名が必要な書類をスキャンしてくれた。また、在籍証明書もちゃんとメールで届いていた。まだ全ての書類が整ったわけではないが、なんとか明日の提出には間に合うのではないか・・・。

帰宅後、子ども達に大学のPantoryでもらってきたお菓子や食品類を渡すととても喜んでいた。もうこの3日間ほど、毎日食品をゲットしてきている。

「ねえ、これってなんでもらえるの?」
「ほら、学生ってお金がないでしょ。特に日本と比べてアメリカの大学は学費が高いし。日本だと100万円ぐらいだけど、アメリカだと学費だけでも年間500−600万円はする。だから、ご飯を買うお金がない学生も沢山いる。そういう人たちが勉強に集中できるようにこうして配布してるんだよ」
「パパは今、お金がないの?」

ふと長男がそう尋ねた。決して蓄えがないわけではないが、会社は休職中だし、フルブライトからもらえる月々の支給金もそのほとんどが日本円で50万円近くもする家賃に消えてしまう。子ども達が小学校に持っていくスナック一つにしても毎日2、3ドルするし、日々の積み重ねを考えると少しで節約したい。そんな思いでお菓子をもらってきていたが、素朴な長男の疑問にその時なんだかとても痛いところをつかれた気がして侘しくなり、うまく答えることができなかった。

DAY29 20230920水4D+0758-0856-0915


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