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「ベッドルーム・ポップ」という曖昧な音楽ジャンル④:boylifeの『gelato』という終着点

今年「ベッドルーム・ポップ」というジャンルの音楽性の広がりについて3回に分けて触れてきました。

「ベッドルーム・ポップ」の起源やルーツ、サウンドの広がり、そしてストリーミング時代での波及について追ってきましたが、「ベッドルーム・ポップ」のムーブメント自体がどんどん飽和状態になり、ポップスにも落とし込まれるようになります。今回「ベッドルーム・ポップ」の終着点について書いていこうかと思います。



ベッドルーム・ポップの最盛期

惜しくも2022年に解​​散となってしまいましたが、BROCKHAMPTONの影響力は絶大で、新たな時代を創り上げたのは明白ですね。そんなわけで一つの時代が終わりを迎えたわけですが、そこから1年間2023年は特に顕著でベッドルーム・ポップのようにジャンルでは括れない、ジャンルレスな時代になったのは顕著というか当たり前になりました。
このジャンルの最盛期は、2019年でBillie Eilishの『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』、Clairoの『Immunity』、Steve Lacyの『Apollo XXI』、Rex Orange Countyの『Pony』、Kevin Abstractの『ARIZONA BABY』など多くの名作がリリースされた年です。2020年が始まるとコロナ禍に突入して、さらにスタジオで制作することよりも、自室で制作するベッドルーム・ポップ自体が世界的にさらに注目されるようになります。

2020年とboylife

そんな2020年に急にBROCKHAMPTON界隈から急に現れたのが、Ryan Yooによるプロジェクト、boylifeです。もちろん突然現れたわけではないですが、とにかくboylifeとして2020年の2月に初めてリリースしたシングル「peas」を聴いたときの「なんだこのアーティストは…」とぶっ飛んだ記憶を如実にいまでも覚えています。渋く淡さ溢れる美声と、Frank Ocean以降を感じられるミニマルで美しいサウンド。終始天才という言葉しか出てこない、そんなアーティスト。

Ryan YooはもともとLAを拠点にNick Velezというプロデューサーと共にCommon Soulsというデュオを組んでいました。2016年にEPを出していて、そのあとアルバムを制作していてその先行シングルも出していましたが、残念ながらそのアルバムは日の目をみることはありませんでした。

そして彼らRyan YooとNick Velezは別のバンド・プロジェクトでも動いていて、知っている人も多いmmmonikaです。彼ら以外のメンバーにはJohn DeBoldというBROCKHAMPTONの『TM』や、Remi Wolf、Dora Jarなどのプロデュースに関わっている人物や、自身でもGrant Millikenとして活動するアーティスト、Dangの5人からなるバンドです。mmmonikaでは完璧にインディー・ロックを振り切ったサウンドで、これもかなりかっこいいです。

Ryan Yooという人物

南カリフォルニアの韓国系アメリカ人の家庭で育ったというRyan Yoo。彼は幼少期にblink-182をよく聴いていたそうで、他にもラジオで流れていたものなんでも聴いていて、Maroon 5の1stアルバムも大好きなよう。両親はクラシックを聴いていて、父親はジャズプレイヤーでよくいろんなところで演奏してたそうで、そこでジャズに触れたそう。そしてboylifeの音楽活動での核となるのがPrinceだとインタビューで語っています。特にPrincesの「If I Was Your Girlfriend」には最も影響を受けたそう。

彼はいろんなベッドルーム・ポップのアーティストと関わりを持っていて、Clairoはもちろん、Zack Villere、Dijon、そしてBROCKHAMPTONのメンバーKevin Abstract、Bearfaceとは特に仲良いらしい。Deb Neverと3人で一緒にいることもSNSであげています。そこからBROCKHAMPTONの『ROADRUNNER: NEW LIGHT NEW MACHINE』でプロデューサーとして関わりはじめて、BROCKHAMPTONの解散前の最後の作品『The Family』でもプロデュースで参加しているという、やはり彼の才能はずば抜けていることはわかりますね。

2021年に産み落とされたアルバム『gelato』

2021年はベッドルーム・ポップ界隈でも多くの名作がリリースされた年で、Clairoの苦しみから解放されて発表された『Sling』やDijon のデビューアルバム『Absolutely』、underscoresの『fishmonger』などさまざまな作品が発表されました。

その中で待望のリリースとなったのが、boylifeのデビューアルバムにして21世紀の名作になること間違いないアルバム『gelato』です。作品にはシングルでは客演のいなかった「dio」にはBROCKHAMPTONのBearface、そして香港を拠点に活動するアーティストcehryl、そして共同プロデュースには長年彼と作品を制作しているNick Velezが参加しています。

個人的にこの作品は、2016年から始まったベッドルーム・ポップのムーブメントの終着点であり、これ以上にない最高傑作だと感じています。ポスト・Frank Ocean的なミニマルで耽美なR&Bサウンド、そして歌声のピッチ・アップやピッチ・ダウンの使用。ノイズやインダストリアル、ゴスペルなどの要素を絡めた新感覚な「church」。Tyler, The CreatorやKevin Abstractなどからの影響を感じられるカラフルなトラックに、彼の軽快なフロウなラップが特徴的な「bummy」。インディー・ロックやポップ・パンクなどのエッセンスを絡めた疾走感あふれるChildish Gambinoの面影も感じられる「superpretty」。

極め付けは「lush」の神々しく天に召されてしまうような癒しの1曲。
収録されているどの12曲を切り取っても最高の一言に尽き、聴き終わったときには心が洗われるよう。実験的な試みもしながら、しっかりとポップな作品にまとめあげた、全てのベッドルーム・ポップのムーブメントの要素を詰め込んだ、ある意味”終着点”のような作品だと個人的に思います。これ以上の最高傑作の作品は生まれないし、ここで一区切りが打たれていると感じます。

やっと「ベッドルーム・ポップ」のこの曖昧なジャンルについてのコラムを4回に渡って書いてきましたが、いかがだったでしょうか?この恐ろしく曖昧で訳のわからない「ベッドルーム・ポップ」というジャンルは人によって感じ方は異なるし、正直定義はできないです。
ただ1リスナーとしてこのムーブメントをずっと追ってきた身としてはこの流れをまとめたいという想いでこのコラムを4つに分けて書いてきました。「ふーん」「そんなことがあったのね」というくらいで読んでいただけたら嬉しいです。
今後も僕自身はこのジャンルがどのように変容し姿を変えていくのか追っていこうと思います。それでは良いお年を。

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