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自作解説『ファッションランナー』

 Stranger、第七藝術劇場での『野球どアホウ未亡人』上映に際し、私が大学3年生のときに監督した短編映画『ファッションランナー』が併映される。

 映画を作る大学に行きたい、と日本大学芸術学部映画学科に入った。3年目は課題として10分程度の短編を撮ることに。
 その際、16ミリフィルムかデジタル、どちらで撮影するのか選択するのだが、私は迷わずフィルムを選んだ。フィルムで撮れるなんて滅多にない機会だし、フィルム代は高価だったが、10分の作品だから大したことはないだろうと考えたのだ。大学の課題ということで、機材は大学の所有物なのでタダ、人件費も(学生は)タダ、大学の校舎内のスタジオも使えるということで、フィルム代が多少掛かっても何とかなったのである。

 大学1年生、2年生の頃はカブ研究会として『不倫OL 濡れ銀河』『幼獣シラスドン』を監督したが、カブ研が休止期間に入ることもあり、初めてカブ研を離れ、単独で制作することになった(脚本の相談などはしていたと思う)。

『ファッションランナー』(2018)

 撮影は2017年。その年の2月に鈴木清順監督が亡くなり、都内の名画座で追悼上映が行われた。私は足繁く通い、また、大学近くのTSUTAYAでは清順作品が充実していたので毎日浴びるように観た。

 また、この頃から蓮實重彦氏の映画評論を読むようになり、ジョン・フォード、リチャード・フライシャー、ロバート・アルドリッチ、ドン・シーゲルなどなど、アメリカ映画も貪るように観た。ジャン=リュック・ゴダール 、黒沢清監督の作品に注目し始めたのもこの頃である。

 蓮實氏の著作『シネマの記憶装置』(フィルムアート社刊)に収録されている鈴木清順監督『悲愁物語』の評論は、今でも「演出」を考えるときの私の指標となっている。

『ファッションランナー』(2018)

 脚本家の福田卓郎先生(『就職戦線異状なし』『仮面ライダーセイバー』)の指導の下、脚本は二転三転したが、何とかOKを貰い、制作に入った。この頃、照明の及川凱世君(『熱のあとに』)、録音の田中柊子さんと親しくなり、その付き合いが『野球どアホウ未亡人』まで続いている。

 とにかく「鈴木清順がやりたい!」この欲望に突き動かされていた。壁の色を赤や黄色にしたいという私の注文に、照明の及川君は困惑しながらも楽しそうにやっていた。こんな要求をする監督は周りにいなかったからである。

 ノリノリでただやりたいことだけをやっていた。正確には、たとえば「説明するだけ」の、面白くない場面でも、面白くしようと工夫し、やりたい方向に持っていった。短編だから許された。今だったらもっと控えめに、たとえば『野球どアホウ未亡人』であれば普通の場面は普通に撮るように心がけている(つもりだ)。

 2018年初頭、『ファッションランナー』は完成し、同級生や先生たちの前で審査が行われた。同級生のウケは上々だった。このときはまだ若者にウケる映画を撮れたのである。

『ファッションランナー』(2018)

 その年のPFFアワードに応募し、一次審査は通ったが入選はしなかった。以来、映画祭にはほとんど縁がない。

 池袋シネマ・ロサで一度だけ上映したが、割とウケていたように記憶する。

 及川君や田中さんからは「お前はいまだに『ファッションランナー』を超えられない」と言われ、複雑な気分ではあるが、『野球どアホウ未亡人』を上映した折、観た人から「小野監督の過去作も観たい」という声が上がったので、上映することにした。

 『野球どアホウ未亡人』に共通するモチーフも出てくるので、ぜひ面白がってもらえたら幸いである。

『ファッションランナー』(2018)

『野球どアホウ未亡人』+『ファッションランナー』上映情報

Stranger :3/29〜4/4
都営新宿線 菊川駅 A4出口 徒歩1分
半蔵門線 都営大江戸線 清澄白河駅 徒歩13分
住所:墨田区菊川3-7-1 菊川会館ビル1F
電話:080-5295-0597
(3/29・3/30は『ファッションランナー』の上映はナシ。なお『野球どアホウ未亡人』関連のイベントあり)
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第七藝術劇場:4/1
住所:大阪市淀川区十三本町1-7-27 サンポードシティ6F
電話:06-6302-2073
「MOOSIC LAB 2024」の企画として1日限定上映。上映後舞台挨拶アリ。
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