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②CHICANO SOULと私

"最初の(アメリカ)ツアーでは、私の音楽が向こうで受け入れられたことに本当に凄い!と感激しました。今もその気持ちは続いています。2021年のツアーはどこに行っても大盛況の状態が続きました。個人的には、Hello stranger LAでルーベン・モリーナ氏にインタビューされたことが非常に嬉しい体験でした。彼はチカーノ・ソウルの歴史に直結する人物であり、素晴らしいライターであり、人格者です。彼を友人と呼べることは光栄の一言に尽きます"

秋山恵里菜 訳『ボビー・オローサ/ゲット・オン・ジ・アザーサイド』
日本語テキストより

さて、ボビー・オローサにここまで言わせる「ルーベン・モリーナ」氏とは一体どんな人なんでしょうか?

というわけで、前回の続きを書いていこうかな…と思ってたタイミングでルーベン・モリーナ氏の最新インタビューが公開されました!インタビュアーは書籍「CHICANO SOUL」の日本語翻訳者で、Barrio Gold Records/Music Camp, Inc.代表の宮田信さんです。是非ともコチラをご一読下さい↓


「チカーノ」と言うと、自分なんかはどうしても "屈強で強面のメキシコ系ギャング" みたいなイメージが浮かぶのですが、インタビューを読む限りルーベンさんの人柄って怖いというよりはむしろ優しそうで人間臭い感じ(ちょっと安心した笑)。音楽への造詣が深くて知的だなぁという印象。インタビュー中の "チカーノ・ソウルには二重の意味がある" という下りには「あぁやっぱりそうなのか!」となってウンウンと頷いてしまった。音楽スタイルとしての「ソウル」と「魂」のダブルミーニング。カッコいい。

ほんじゃ肝心の「チカーノ」って一体なに?どんな人のこと?ってなりますが、そこを理解するのがなんか難しいんですよね…ステレオタイプなイメージの「ギャング」のことだけを指す言葉ではなくて、広く「メキシコ系アメリカ人」のことを指すということになるんでしょうけど、その全ての人に当てはまる言葉でもなく…参考になるかなと「チカーノ(やチカーナ)」が題材になっている映画をみたり、本や記事を読んだりと色々してはみたものの、正直知れば知るほどわからなくなってくる状態です。

ただ、ボンヤリとわかってきたのが「チカーノ」って他人から言われる言葉ではなくて、己のアイデンティティのために「自分で名乗る」言葉なのかなぁと。

まぁそんなこんなで "完璧に理解するのは無理かも" って今のとこ思ってますけど、何事も大切なのは「知ろうとする/理解しようとする姿勢」でしょ?「チカーノ・ソウル」の謎めいた魅力の秘密の鍵がその "カンタンには理解できないトコロ" にあるのは間違いない。なので、5月にルーベンさんや仲間から直接色んなお話しをきけるのをホント楽しみにしてます。

で、チカーノ・ソウルって結局どんな音楽なのよ?!ってコトで…書籍「CHICANO SOUL」に紹介されていたり、こうゆうのもそうなんじゃないのかなぁ?と個人的に思う曲をいくつかご紹介してみます。視聴のリンクも貼っておくので是非ともチェックしてみて下さい。


まずは、ルーベン・モリーナ氏がインタビューでも言っている "イーストサイドサウンド"(イースト・ロサンゼルスで生まれた若いチカーノによるR&Bやロックの演奏)の極上ソウルを5曲。

▼Cannibal & The Headhunters「Please Baby Please」(1966年)

ビートルズの初アメリカツアーのオープニングアクトをつとめたチカーノグループのトロットロな激甘バラード。ところでウィルソン・ピケットの「ダンス天国」って実はこのグループのカバーだったらしく、その時のすったもんだが書籍「CHICANO SOUL」に詳しく書かれててめっちゃ面白いです。


▼Thee Midniters「Come Back Baby」(1966年)

イースト・ロサンゼルスで最も人気があったと言われるグループで、リードシンガーのリトル・ウィリーGはイーストサイドサウンドきっての名歌手。このグループはガレージ・パンクの方面でも「Jump Jive and Harmonize」「Whittier Blvd」という名曲を残したことで有名なんですが、あの凶暴さ(笑)からは想像もできないようなロマンチックなバラードで、ほんのりラテンの香りもします。ところで、この "Thee" って冠詞は古今東西の色んなグループが真似してますよね?


▼Jade「Brown and Beautiful」(1970年)

7"シングル2枚を残しただけの詳細不明(らしい)のチカーノグループ。前述のリトル・ウィリーGがソロでリリースした "褐色の肌を持つ人々の美しさ" について歌った素晴らしいバラード「Brown Baby」(1969年)のカバーなんですが、元曲の独創性にさらに独創性を加えるという悶絶モノのカバーになってます(ラストの方の「ボニータ!」にちょっと笑ってしまった)。ぜひ原曲ときき比べてみて下さい。


▼The Majestics「It Hurts Me」(1965年)

チカーノ・ソウルってスロー&スウィートなソウルだけじゃないんだ!?となった一曲。モータウン直系のアップテンポナンバーながら、そこにメキシコ音楽伝統のマリアッチをミックスさせるという流石のセンス。前述のJadeも「The Siesta Is Over」という同じくノーザンソウルファンなら即死モノの名曲を残してます。


さて、ここからは書籍「CHICANO SOUL」で紹介されているテキサスのソウルグループの5曲。

▼Steve Jordan & Jordan Brothers「Ain't No Big Thing」(1966年)

「アコーディオン界のジミヘン」の異名をとる眼帯のテックス・メックス・ミュージシャンのスティーヴ・ジョーダン(エステバン・ホルダン)も、かつてはこんなソウル・ナンバーの録音を残していたと知って驚きました。The Radiantsというグループのカバーですが、コーラスがメキシコ系音楽の特徴の一つともいえる三重唱にアレンジされたり、ストリングスをコーラスで代用したりとホント独創的!


▼Paula & The Latinaires「Hello Stranger」(1965年)

チカーナ歌手 "パウラ(英語読みだと"ポーラ")・エストラーダ" をリードボーカルに迎えたテキサスのグループの曲。エストラーダさんはそれ以前にオールディーズポップスの大ヒット曲「Hey Paula」を書いたレイ・ヒルデブランドと言う人と一緒に音楽をやっていたそうなんですが、人種差別の憂き目に遭い、結局その曲はちがう女性歌手で録音されて全米No.1の大ヒットとなった…ということが書籍「CHICANO SOUL」に書かれています。ってコトは本当の「ポーラ」はこの人のことか!(ちなみに「Hey Paula」の歌手名「ポールとポーラ」は芸名)。なんか色々考えさせられる逸話です。


▼The Eptones「No One Else But You」(1968年)

テキサス・サンアントニオで最大の人気を誇ったグループのひとつと言われる「The Royal Jesters」にボーカリストととして加入する歌手ジョー・ジャマがそれ以前にやっていたグループのオリジナル曲。このイントロきいた時は震えましたよね…何でこんなアレンジになったのか全く理解できない笑。こうゆう謎めいたところがたまらなく魅力的。もう片面の「A Love That's Real」もノーザンソウルファンなら即死モノの無茶苦茶カッコいいアップテンポナンバーです。興味本位でこの7"シングルの取引相場を調べてみたら目玉が飛び出そうになりました…笑。


▼Sunny & The Sunliners「I Can Remember」

ご存知、チカーノ・ソウルの王様!の異名をとるテキサス・サンアントニオの名グループ。この曲はBig Crownがリリースしたコンピレーション・アルバム「Mr. Brown Eyed Soul Vol.2」の冒頭にも収録されている曲です。メキシコ〜ラテン音楽のフレーバーとソウルミュージックの見事な融合。中米から北米にかけての遠くて長い旅路の物語を、まるで音楽を通してきき手に追体験させるかのような素晴らしい演奏。哀愁漂うサニー・オスーナの歌唱がたまらないです。


▼Los Rondels「La La Ti Amo」 (1968年)

スウィートソウルの代表曲といえばコレと言っても過言ではないであろうThe Delfonicsの超名曲「La La Means I Love You」のカバー。スペイン語で歌われてます。演奏もアレンジされていますが、言語や楽器が変わるだけでこんなに曲の印象が変わるものなのかと衝撃を受けました。ちなみにこのグループは前述の「I Can Remember」もスペイン語でカバーしています。


では、最後の1曲。

▼Los Lobos「Sabor A Mi」(1978年)

ご存知イースト・ロサンゼルス出身のチカーノロックバンド「ロス・ロボス」。幻のアルバムと言われる自主製作の1st「Just Another Band From East L.A.」に収録されたメキシコの古典ボレロのカバー。なので、もちろんコレはソウルってわけではないんですが、チカーノ・ソウルを通した耳できくとやはり何か通底するものがあるように感じられて、ハッとさせられました。あと、音源化はされてないっぽいんですが、彼らはThee Midnitersの超名曲「Dreaming Casually」を映画の中でカバーしてたりします。


最後まで読んでいただきありがとうございました。次は「チカーノ・ソウル」影響下と思われる現行ソウル系ミュージシャンやグループなんかについて書いてみようと思います。ボチボチとやっていきますんで、ご興味あればよろしくお願いします!

※ルーベン・モリーナ氏の来日イベントの詳細はコチラ(画像にリンク貼ってます↓)

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