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『銀の匙』の泉を求めて -中勘助先生の評伝のための基礎作業 (88) 一年志願兵

次に引くのは「病床」の一節です。ある日の末子さんの姿が描かれています。

《姉が枕もとに坐つて小説を読んでゐる。縁日で買つてきてくれた藪柑子の鉢がある。赤い実が三十あまりついてあかりをうけた葉が蔭日向をつくつてゐる。もう三月も床についてる私はそれを森とも林とも見たててせいせいした気もちになりながら葉脈までも見落さずに眺めてゐる。》

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1,408字
中勘助先生は『銀の匙』の作者として知られる詩人です。「銀の匙」に描かれた幼少時から昭和17年にいたるまでの生涯を克明に描きます。

●中勘助先生の評伝に寄せる 『銀の匙』で知られる中勘助先生の人生と文学は数学における岡潔先生の姿ととてもよく似ています。評伝の執筆が望まれ…

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