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『銀の匙』の泉を求めて -中勘助先生の評伝のための基礎作業 (149) 昭和17年4月3日(その2)

 中先生が末子さんに向って「息ができない?息ができない?」と問いかけても返事がありませんので、いつもの発作と思い、大きな声で中島さんを呼びながら茶の間から薬をもってきました。これが夕方5時ころのことです。薬をもってきてももう飲み込む力はありません。中先生はすぐにお隣の先生を迎えに行かせましたが、留守で夜まで帰らないとのこと。近所にもうひとり医者がいて、急を要するときに隣の先生が留守という場合のために電話番号を控えておきましたので、その番号を書き留めておいた手帳をとりに書庫に入っていると、中島さんが激しく呼びました。

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中勘助先生は『銀の匙』の作者として知られる詩人です。「銀の匙」に描かれた幼少時から昭和17年にいたるまでの生涯を克明に描きます。

●中勘助先生の評伝に寄せる 『銀の匙』で知られる中勘助先生の人生と文学は数学における岡潔先生の姿ととてもよく似ています。評伝の執筆が望まれ…

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