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『銀の匙』の泉を求めて -中勘助先生の評伝のための基礎作業 (134) はしばみの詩(うた)

 中先生のエッッセイ集『しづかな流』が岩波書店から刊行されたのは昭和7年 6月25日です。冒頭の一文は、

《しづかに時の過ぎてゆくのをみるのはしづかな流をみるやうにしづかである。》

というのですが、ここに「大正十四年一月一日」という日付が添えられています。日々の生活が日付とともに綴られています。日付を追うと、1月1日の次は1月15日、1月26日、3月28日と続き、それから4月某日、某日、某日と4月の某日が三度続き、4月18日、4月27日、4月29日、4月30日と、だんだん記述の密度が高まっていきます。5月2日の次は5月5日。この日は「ほほじろのこゑ」の詩が書き留められました。 11月3日には、「家の用事のために一日に出京して二日に帰つてきた」と記されています。家というのは東京の赤坂の中家のことで、中先生の母と金一さんと末子さんが住んでいます。続きを見ると、

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1,360字
中勘助先生は『銀の匙』の作者として知られる詩人です。「銀の匙」に描かれた幼少時から昭和17年にいたるまでの生涯を克明に描きます。

●中勘助先生の評伝に寄せる 『銀の匙』で知られる中勘助先生の人生と文学は数学における岡潔先生の姿ととてもよく似ています。評伝の執筆が望まれ…

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