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『銀の匙』の泉を求めて -中勘助先生の評伝のための基礎作業 (148) 昭和17年4月3日(その1)

 末子さんの没後、中先生は『蜜蜂』という末子さんを追悼する著作を出しました。この著作に書かれていることに沿って、末子さんが亡くなった4月3日の様子を振り返ってみたいと思います。この日は好天気でしたが、春によくあるようななま暑くいきれるような好天気ではなく、秋のような冴えた日でした。朝の食後の薬のあと、中先生は口直しのひときれの羊羹をもっていきました。「さ、甘いもの」と言ってさしだすと、末子さんは「氷砂糖もらったよ」と得意気に言いながら受け取って、「おいしい、おいしい」と口をすぼめてさも満足そうに食べました。中島さんに氷砂糖をもらって口直しはもうすんでいたのでした。枕元の小皿に食べ残しの串柿を、「これとっとく」と言って中先生に差し出しました。

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中勘助先生は『銀の匙』の作者として知られる詩人です。「銀の匙」に描かれた幼少時から昭和17年にいたるまでの生涯を克明に描きます。

●中勘助先生の評伝に寄せる 『銀の匙』で知られる中勘助先生の人生と文学は数学における岡潔先生の姿ととてもよく似ています。評伝の執筆が望まれ…

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