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『銀の匙』の泉を求めて -中勘助先生の評伝のための基礎作業 (100) 野尻湖畔再訪

 重い風呂敷包みを左手にさげ、格子を閉めて門のほうに歩いたとき、末子さんはふと思いついたように、「裏の畑を見ていらっしゃい」と後ろから声をかけました。中先生が仕方なく裏にまわり、もとの花壇のあたりに立っていると、急いで下駄をひっかけた末子さんが追いついてきました。畑は広く耕されてなにか蒔いてあるように見えました。末子さんが蒔いたのでした。去っていこうとする中先生を少しでも長く引き留めておこうとして、友だちが送ってきた香を用箪笥から取り出してかがせたりしました。

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1,371字
中勘助先生は『銀の匙』の作者として知られる詩人です。「銀の匙」に描かれた幼少時から昭和17年にいたるまでの生涯を克明に描きます。

●中勘助先生の評伝に寄せる 『銀の匙』で知られる中勘助先生の人生と文学は数学における岡潔先生の姿ととてもよく似ています。評伝の執筆が望まれ…

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