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『銀の匙』の泉を求めて -中勘助先生の評伝のための基礎作業 (156) 兄金一の死

『中先生と和子さんの結婚式は昭和17年10月12日と決まりましたが、それまでにも手伝ってもらいたいことがたくさんありました。式の前に嶋田家の人たちと会っておくのが望ましくもありますし、日取りの打ち合わせのためもあって和子さんに幾度か来てもらいました。大きな問題はやはり兄のことで、兄の身につけるものの世話には一番困ったと中先生は言っています。和子さんにそのことを頼むとき、「兄は私より身なりが悪いと気にするからなるべくいいのを着せてあげてください」と言い含めたりしたものですが、自分でおねがいしておきながら忘れてしまいました。それからまもなく、ある日のこと、茶の間に坐った兄がひどくぴかぴかするものを着ていました。


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中勘助先生は『銀の匙』の作者として知られる詩人です。「銀の匙」に描かれた幼少時から昭和17年にいたるまでの生涯を克明に描きます。

●中勘助先生の評伝に寄せる 『銀の匙』で知られる中勘助先生の人生と文学は数学における岡潔先生の姿ととてもよく似ています。評伝の執筆が望まれ…

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