目標設定とパフォーマンス-メタモン座談会によせて-
大好きなコンテンツにファンとして貢献しようとしたが、目の前に転がっていた最高のオチを掴み取れなかった。
起こり
2022年4月2日、第3回ゆる言語学ラジオ公開収録に参加した。
抽選で6名のみというごく少人数での開催だったが、僕は運よく当選し参加することができた。
公開収録の2日前、パーソナリティの堀元さんから参加者に以下のメッセージが届いた。
僕はすぐにメタモンを発揮した。
メタ認知とは「視点を切り替えて考えること」と言い換えることができると思う。
例えば、「好きな本は?」と聞かれて回答に困る人は、相手の視点から見たときに自分がどう映るかを考える。そして、想定される無限の可能性に対して適切な解が出せない(発散してしまう)場合にメタモンになってしまうのだと思う。
僕は公開収録参加に際して、堀元さん・水野さん・他の参加者・ライブ視聴するDiscordコミュニティの方々・一般公開後に視聴するリスナーの方々など、あらゆる視点で思いを巡らせてみた。
その結果、僕の視点は「ゆる言語学ラジオのディレクター(架空の存在)」に落ち着いた。
目標設定
公開収録の内容は、後日YouTubeやSpotify(Podcast)などで公開される。
そう考えると、公開収録がコンテンツとして面白くなった方がいい。
また、-これはディレクター視点ではないが-残念ながら当選しなかった用例諸氏のことを思うと、つまらない話をして場をしらけさせてしまっては申し訳が立たない。
そこで、僕は公開収録で起こりうる事態(リスク)を想定し、リスクを回避すると到達できる最低合格ラインを設定した。
そして、その最低合格ラインに到達できるように振る舞うことが自分のミッションだと考えた。
Aシナリオ
用例たちは皆メタモンなので、当日もメタ認知が暴走し、誰も何も話すことができないという事態が考えられる。
これはもはや放送事故である。何としても避けなければいけない。
幸いにも、このシナリオを回避することは簡単だ。
僕が軽めなエピソードを披露し、他の参加者の心理的ハードルを下げれば良い。そのために、無難なネタを1つ用意した。
自分がクリシェを披露することは不本意だが、Aシナリオを回避できるのであればそれでいい。
Bシナリオ
Aシナリオを回避した後に考えなければいけないリスクは、参加者のメタモン体験談が似たり寄ったりで、抽象化すると全部同じ、という事態が発生することだ。
これではコンテンツとして面白みがないし、堀元さん・水野さんも反応に困ってしまうだろう。特に堀元さんは「今日はいい用例集まらなかったなー、情報量少なくてやってらんないわ」とか思いそうである。
このシナリオを回避するために、観点が異なるメタモン体験談を4つ用意した。似たようなエピソードが続いたら挙手して披露するつもりだった。
Cシナリオ
Aシナリオ、Bシナリオを回避すれば自ずとたどり着くのがこのシナリオだ。
様々なメタモン体験談が参加者から提供され、それを堀元さん・水野さんがうまく料理して、それなりに面白いコンテンツが完成する。
僕はこのシナリオを最低合格ラインとして、公開収録当日はこれを実現するために振る舞うことにした。
収録開始
堀元さん・水野さんによる導入が終わり、参加者のメタモン体験談披露タイムが始まった。
すると、すぐにAchiさんが挙手した。
この時点でAシナリオは回避された。
Achiさんはドラえもんオタクで、おすすめのひみつ道具などを聞かれると答えに窮するという話だった。
好きなジャンルに関する質問に答えづらいという話は、多くのメタモンが共感できるだろうし、良いスタートだ。
次に、pangorillaさんが挙手した。
(将来の)夢について聞かれると答えに詰まるという話だった。
これも多くのメタモンが共感できる内容だし、堀元さんが話を膨らませてくれて結構盛り上がった。
その裏で僕は「まずい、質問への回答に困る話が続いている」と思っていた。この流れが続くとBシナリオに収束してしまう。
次も同じような話が続くようであれば介入しようと考えていると、南村さんが挙手した。
南村さんのエピソードは、自己認識は「現代アート作家」ではないのに、「現代アート作家」とラベル付けされることが多く、それについてモヤモヤしているというものだった。
「会社員」という、自分の認識と他人の認識が一致している職業に就いている僕には思いつかない話で、興味深かった。
そしてこれは「質問への回答に困る」以外のエピソードだ!ナイスプレー!
次は、にんじんさん。
友達から勧められた本を読めないという話で、「友人間の情報量」のような概念が導入され、なかなかこじらせている面白い話だった。
順調にメタモン体験談のバリエーションが増え、この時点でほぼCシナリオが実現できたと言ってもいいだろう。
5人目は、あんさん。
外国人ならではの観点から、回答に困る質問について色々と話してくれた。
街行く外国人に無邪気な質問を投げかけるテレビ番組の関係者に正座して聞いてほしい。
自分も外国人の方と話す機会があったら気をつけなくてはと思った。
「質問への回答に困る」話からスタートし、南村さん・にんじんさんの尖ったエピソードの後に「質問への回答に困る」に回帰する美しい流れだった。
すでにCシナリオの達成条件はクリアしているので、あとは僕が用意したエピソードから他の方となるべく被らないものを披露すれば良いだけだ。
しかし、このとき別のシナリオが浮かんできた。
それは、「頼まれてもいないのに勝手にシナリオを考えて収録の流れをコントロールしようとしていた」ということをメタモン体験談として話すことだ。
こっちの方が絶対に面白い!話にオチをつけることができる!
こうして、僕は想定外のシナリオ-Dシナリオ-に突入することになった。
Dシナリオ
直前に思いついたので、喋りは完全にアドリブだ。
収録慣れしていない(というか初体験)ので、かなりたどたどしかったが、初めてにしては悪くなかったのではないかと思う。少なくとも、意味不明ではなかったはずなので及第点を与えたい。
収録現場でも笑いを取れていたと思うし、Discordコミュニティのテキストチャット(収録の様子がライブ配信されていた)の反応も結構良かったと思う。
無事にオチをつけられて安堵していると、水野さんから「せっかく5つも考えてきてくれたので、1つくらい披露しませんか?」と提案された。
ここで僕は選択を誤る。
動画を見てくれた方なら分かると思うが、この部分はカットされている。
僕がこのときに披露したエピソードが完全に蛇足で、グダってしまったからだ。というか、公開収録後に「あの部分要らなかったなぁ」と思い、カットしても構わない旨を堀元さんに伝えたのだ。
では、僕はどうするべきだったのか。
後から振り返って考えると、僕は最高の手札を持っていたのだ。
幻のΩシナリオ
Ωシナリオ、つまり究極のシナリオは、Aシナリオを再現するという茶番をやることだったと思う。
Aシナリオ回避のための僕が準備していたメタモン体験談は「いろいろ考えすぎて配偶者をどう呼んだら良いのかわからない」という話だ。
擦られ尽くした話題なのでもはや説明不要だと思うが、「奥さん」は本来他人の配偶者(女性)に使う言葉だし、「嫁(さん)」は本来子の配偶者にに使う言葉だし、「妻」だとなんか堅苦しい感じがするし、時流を意識して「パートナー」というとなんか気取ってるヤツだと思われそうで、最終的に「彼女というか、奥さんというか、細君というか、妻というか」ってなっちゃうヤツである。
これに対して「ひろゆきさんじゃん!」ってツッコんでもらえばもう一回オチを作れたはずだ。(堀元さん・水野さんなら絶対にやってくれるはずだ)
ただ、僕の選択ミスにより、このΩシナリオは実現しなかった。
目の前に転がっていたオチ-プルス・ウルトラ-をみすみす逃してしまい、非常に悔しい。
目標設定の誤り
なぜ僕はΩシナリオを掴むことができなったのか。
現場での対応力がなかったと言ってしまえばそれまでだが、一番の問題は最低合格ラインをクリアすることだけに意識を集中させてしまったことだと思う。
最高得点を取ることも意識できていれば、自分以外の参加者によりCシナリオの達成条件をクリアしたケースを想定し、その上でさらに面白い展開を考えることができたはずだ。
これは目標設定のミスだと思う。
初期段階で「最低合格ラインに到達すること」を目標として設定してしまったため、検討のスコープが絞られてしまったのだ。
Googleなどの有名企業が採用していることで有名な「OKR:Objectives and Key Results(目標と主要な結果)」という目標設定手法がある。
このOKRを紹介している本として『Measure What Matters(メジャー・ホワット・マターズ) 伝説のベンチャー投資家がGoogleに教えた成功手法 OKR』(以下、『Measure What Matters』と表記)がある。
日本語サブタイトルがすごく胡散臭いが、著者のジョン・ドーアは今をときめく数多くのIT企業に出資した実績のある本物のベンチャーキャピタリストで、序文がGoogle共同創業者のラリー・ペイジなので、何も嘘は言っていない。
本書の第12章で、高い目標を設定することの意味について触れられている。
とても耳が痛い。
僕は完全に「きわめて容易な目標を設定した結果、パフォーマンスが低い人」だった。
こんなにありがたい本が家にあったのに、ちゃんと読まずに放置していた自分を呪いたい。
不本意な形ではあるが積読が発酵したので、これを機に一字一句をこの身に刻み込むつもりで熟読しようと思う。
以上、ここまで読んでいただきありがとうございました。
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