ゼリーキャンドル
「…ではいいですね、点火しますよ!!」
「はい」
ずいぶん冷え込むようになった晩秋のとある日。
息子とともにキッチンのテーブルに着席した私は、キラキラと輝くゼリーキャンドルにそっと火をつけた。一瞬大きなオレンジ色の火が燃え上がり…少々驚いたものの、すぐにその勢いは収まって、穏やかにゆれている様に見入ってみたり。
このゼリーキャンドルは、十年ほど前にとある水族館に行った時に製作したものだ。
お土産売り場の一角に催事としてゼリーキャンドル体験コーナーが設けられていて、当時未就学児だった息子が興味心身で覗き込んで、言葉少なにやりたいと懇願したものだから…はりきっちゃったんだよね。思えばこの頃から息子はクリエイター気質だったのだなあ。
カラーサンドを何層も重ねて、その上に好きなパーツを選んで配置し、最後にゼリー材をスタッフさんに入れてもらって…思いのほか値段が上がってしまって、ずいぶん辟易したのだけれども。
3000円もしたんだから大切に飾っておこうねと、長く玄関で美しさを誇っていた逸品である。
このまま我が家の守り神的立ち位置にあり続けるとばかり思っていたのだけれども、ずっと使わないでいるのも気の毒なんじゃないか、そういう意見が出ましてですね。中に入っているビー玉を取り出して、宝物にしたいなどとおっしゃる少年がおりましてですね。まあ、とにもかくにも、古くなってくすむ前に、腐ってしまう前に、使ってみようという話になったのですよ。
ただ燃やすだけじゃもったいないというので…卓上鍋をやる時にでも、チーズフォンデュをする時にでも使おうという話にまとまったのは夏休みのことだ。花火の時に使うかって話も出たんだけど、煤だらけになっちゃうのもなあってことで却下されてさあ。
クソ暑い夏が終わったら決行しようという事になっていて、本日、満を持してその時がやってきたというわけでしてね!
チーズ鍋はすでに準備万端、食材もきっちり用意してある。
チーズインソーセージは三袋買っといたでしょ、ぶどうパンはトーストしてカット済み、プチトマトはお気に入りのアイコを買ってきた、息子用のミニハンバーグもあるでしょ、ポテトはしっかりグリルしてある、アスパラは穂先の部分から食べちゃおう、カボチャもニンジンもブロッコリーもいい具合にゆでたし、ウズラの卵もたっぷりゆでて殻を剥いておいた、エリンギは息子がバターで炒めてくれたし……あ、クラッカーも出したいな、そうだちくわも食べちゃお。
旦那と娘は遅くなるという話なので、今日は自分のペースで心行くまで晩御飯を堪能できるぞ♡ひゃっほー!!
「よーし、じゃあね、この即席コンロの上に鍋を置きますよ!!」
「はい」
通常であればチーズフォンデュをする際は固形燃料用コンロを使うのだけど、ジェルキャンドルが大きすぎるのでセットすることができない。仕方がないので、キャンプの卓上水コンロを使うことにした。少々視線が高くなってしまうけれども、まあ使えないことはない。
「じゃあ、いただきましょう!!」
「いただきます」
いつもみたいに自分の分を確保しながら急いで食べなければいけない状況ではないこともあり、実にゆっくりと、自分の食べたいものを食べたい分だけいただいてですね。
「もう火、消してもいいかな?」
「うん」
すっかり満腹になって、鍋をコンロから下ろしてゼリーキャンドルを見たところ。
…なんか、全然……減ってないんですけど?!
ゆっくり食べていたから、多分30分くらいは燃焼していたと思うのだけれど…ゼリーキャンドルの表面?が、あまり減っていないのである!!!
通常、我が家でチーズフォンデュをする際は固形燃料を2~3個使うのが当たり前なので、非常に違和感を抱いたというか、心底驚いてしまった。なにこれ、ゼリーキャンドルって、こんなにも長持ちするものなの?!知らなかったよー!
まったく知識がなかったので改めて調べてみたところ、なんとゼリーキャンドルの燃焼時間は通常のろうそくのおよそ三倍らしい。なるほど、製作したときは高い買い物だったと思ったけれども、実は機能に見合った価格であったということか。
ネットで販売されている同じぐらいの大きさのゼリーキャンドルの燃焼時間を見ると、なんと…30時間?!……ちょっとまて、私はあと何回、チーズフォンデュをやれば良いんだ!!!
「また食べようね」
ニコニコとして、後片付けを手伝ってくれた息子だけれども。
「う、うん……」
週一で食べたとしても二ヶ月かかる…。
というか、そんなに毎週毎週チーズをたらふく食べようとは到底思えないぞ……。
鍋物で使おうか、だがしかしうちは私以外みんな猫舌で、火をつけながら鍋物を食べる習慣はなかったりする……。
私は、来年度もきっと……ゼリーキャンドルを使ってチーズフォンデュを食べることになるに違いないと、予感したのであった。