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たらふく食べた日は……

 ……11月某日。

 私は、とある食べ物に出会った。

 朝、六時四十分。
 公園でラジオ体操を終え、某コンビニに寄った際にたまたま目に入った…商品。

 何の気なしにちょっと買ってみるかと思って手を伸ばした結果…、思いがけない感動を呼ぶことになろうとは、いったい誰が予想することができただろうか……。

 セルフ方式のホットスナックコーナーに大人しく陳列されている……、ただそれだけなのに、なぜか、惹かれるものがあった。その商品に……魂(ソウル)に訴えかける、何かを感じたのだ。

 カラリと揚がった出来立てである事を、空いているふたが物語っていた。
 ラーメンのような、ややこってり系の香りを振り撒いていた。
 温かい品物がずらりと並ぶ陳列棚の中飛び切りうまそうなオーラを放つ。
 限界まで減った腹がぎゅるぎゅると鳴り響くレベルだった。
 食い意地の張った貪欲な胃袋が騒がしくて…落ち着かない。
 ん?最後の一個だ…今日今この場所で買えたのは、正に奇跡だとしか!
 本格派の雰囲気を醸し出しているのにこの値段…侮れないぞ……。
 量がちょっと少ないのが残念ではあるが…買えただけで御の字だ。
 ニンニク臭がちょっと気になるかもだけど、そんなのは些細な事。
 しょうがない、朝一で出会ってしまったんだから。
 美味いものには、何かしらリスクが付きまとうものなのだ。
 まぁ…美味いんだからすべて許されようて。
 好きなだけ食べたいものを食べられる幸せに今こそ浸るべし!
 ぎゅっと拳を握りしめ、オーバーカロリーと戦う準備をし。
 留守番中の息子の分も買ってってやらねばなるまいな……。

「ただいまー!」
「おかえりなさい」

「ちょっと君、いいもん買ってきたよ!!さあ、一緒にいただきましょう!!」
「・・・なんだろう?」

 テーブルの上にずらりと温かい食べ物の数々を並べ…、息子とともに囲む。

「ぐふふ…なんかめちゃめちゃうまそうなのあったから、ついでにいろいろ買ってきたのさ!今日はお父さんもお姉ちゃんもいないから、好きなだけ食べられますよ!!さあ、好きなものからおあがりなさい!!!」
「いただきます」

 息子が手を伸ばしたのは、大ぶりの肉まんだった。
 ……彼は肉まんが大好物だ。大好物を目の前に、かぐわしい逸品のオーラは届かなかったらしい。

 今日は爆食食い尽くし系の家族がいないので、安心して食べたいものを自分のペースで楽しめそうだ…ああ、なんという良き日かな。

 戦利品を封じ込めている忌々しいセロテープを剥がし、ふたを開け、付属されている爪楊枝でを使って戦利品を突き刺し…口の中へ招き入れると。

「これは……美味い、ウマすぎる、うーまーいーぞ―!!!」

 ピッタリ一口サイズのやわらかい肉塊がほのかなカリッと感と共に存在感をアピールし、もぐもぐと咀嚼をするたびにややスパイシーな風味を振り撒いて…飢餓状態の体内に取り込まれる気満々でこなれてゆく…なんだ、この、絶妙な濃すぎる塩加減、黒コショウのピリリとしたツンデレっぷり、それでいてわりと従順な態度を貫く柔らかな食感は!!!他のフレーバーと比べてやや茶色味の強い、黒い雀斑が目立つボール状の風味豊かなジャンクフード。人はこの食べ物を高級料理とは呼ばないだろう、だがしかし私の中では極上の食べ物としてたった今認識されたのだ!!今まで食べてきたコンビニレジ前ホットスナック界のオールスターの中でも明らかに違う風格を感じる、これはまさに伝説に残る超ウルトラスペシャルハイパーフレーバーとして一億年先まで残るレベル!!!おそらく食事を必要としないAIの皆さんにも愛されて…長くこの星と共にあり続けること間違いなし!!!おお、おお…たった今、飲食業界に伝説が生まれたのだ!!!

「おいしいねえ」

 ほのぼのとした息子の声に、はっと我に返り、大暴走していた妄想炸裂の私の脳内イチオシレビューざんまいにストップがかかった。

 ……危ない危ない、もう少しでトリップして無言で食事に勤しんでしまうところだった。私は、ごはんは楽しくにこやかに穏やかな会話を楽しみつつ食べたいと…考えているというのに。すぐにこう、大脱線しておかしな感情がシッチャカメッチャカになるんだよなあ……。まぁいいや。

「うん、これは確かに美味い、ホントに美味いわ…あれだな、今度この商品のネタ元になってるスパイス、絶対かお!!肉にまぶして焼いたら絶対旨い!!!あ、チーズも一個食べたい、残しといてね?レッドは辛いからいいや、フランク一口残しといてね、丸じゃが食べちゃっていい?マスタード残しといてね、全部かけてアメリカンドッグ食べたいし!メンチカツにソースかけてもいい?あ、ウーロン茶作ってこよ!!」
「僕は牛乳にしよう」

 ……朝もはよから揚げ物をたらふく食べた結果、午後から消化不良を起こして寝込む羽目になったものの。

 それでも私は、ずいぶん久しぶりに、ご機嫌な休みの日を過ごすことができたという、お話。


どこかに縦読みが仕込まれていたり(*'ω'*)

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