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暗闇の中で

 ……真っ暗な闇の中で、少女は目を開けた。

 ……ここは、どこだろう。
 戸惑う、少女。

「誰か、いますか」

「私が、いますよ」


 真っ暗な空間に、少女と誰かの声が響く。


「ここは、どこですか」

「ここは、どこなんでしょうね?」


 真っ暗な空間に、少女と誰かの声が響く。


「どうして、ここにいるんでしょうか?」

「どうして、ここにいるんでしょうね?」


 真っ暗な空間に、少女と誰かの声が響く。


「私、何も見えない」

「私も、何も見えないわ?」


 真っ暗な空間に、少女と誰かの声が響く。


 目を閉じても、開いても……変わらない景色に、少女は恐怖を感じた。
 自分の体に触れ、布、肌、歯、爪、髪……すべて、ある事に、安堵した。


「あなた、どこにいるの?」

「私は、ここにいますよ」


 真っ暗な空間に、手を伸ばす、少女。


「ねえ、どこにいるの?」

「ここに、いるわ」


 真っ暗な空間に、手を伸ばす、少女。


「ねえ、手を、繋いでもいい?」

「……動かない方がいいと思うの、何があるかわからないもの」


 真っ暗な空間で、身を縮める、少女。


「とても、こわい」

「私も、こわいわ?」


 真っ暗な空間で、身を縮める、少女と、誰か。


「怖い……」

「そうね、怖いわね」


 真っ暗な空間で、身を縮める、少女と、誰か。

 少女は、沈黙が、怖くなった。

 真っ暗な空間で、身を縮める、少女。


「ねえ、お話をしない?」


 真っ暗な空間で、身を縮める、少女。

 沈黙が、怖い、少女。

 真っ暗な空間で、身を縮める、少女。

 沈黙が、怖い、少女。

 真っ暗な空間で、身を縮める、少女。


「あなたは、何が好き?」


 真っ暗な空間で、身を縮める、少女。

 沈黙が、怖い、少女。

 真っ暗な空間で、身を縮める、少女。


「私は、月が、好き」


 真っ暗な空間で、身を縮める、少女。


「今日は、新月だから、何も見えないけれど」

 ……沈黙が、怖い、少女は。

 ……真っ暗な空間で、口を、開いた。


「……新月?」


 少女は、真っ暗な空間で、身を縮めながら、耳を傾けた。


「空に、月が輝かない夜があるの」

「月が光らないから、何も見えないの?」


 少女は、真っ暗な空間で、耳を傾けた。


「そうね、ここには、月の明かりしか、光が届かないから」

「今は、夜なの?」


 少女は、真っ暗な空間で、耳を傾けた。


「そうね、まだしばらく、夜だと思うわ?」


 少女は、真っ暗な空間で、耳を傾けた。

 時折、ジーと、聞こえるのは、虫の鳴き声か、ネズミの鳴き声か。


「ここは、外?」

「星が見えないでしょう?ここは、建物の中ね」


 少女は、真っ暗な空間で、目を凝らしたが、……何も見えない。


「夜が明けたら、見えるようになると思うわ?」

「夜は、明けるのかしら?」


 少女は、真っ暗な空間で、目を凝らしたが、……何も見えない。


「ええ、必ず、明けるから、安心して?」


 少女は、真っ暗な空間で、目を凝らしたが、……何も見えない。


「夜が明けるまで、おしゃべりをしましょうか」


 少女は、真っ暗な空間で、耳を傾けた。


「いいの?」

 少女は、真っ暗な空間で、口を開いた。


「もちろん」


 真っ暗な空間に、会話を楽しむ、声が響いた。

 真っ暗な空間に、会話を楽しむ、声が響いた。

 真っ暗な空間に、会話を楽しむ、声が響いた。


「……少し、眠くなってしまったみたい」

「じゃあ、おやすみなさいな」


 少女は、真っ暗な空間で、目を閉じた。


「おやすみ、いい夢を」


 少女は、真っ暗な空間で、眠りに落ちた。

 少女は、真っ暗な空間で、夢を見た。
 少女は、真っ暗な空間で、華やかな夢を見た。
 少女は、真っ暗な空間で、色とりどりの花に囲まれた夢を見た。


 真っ暗な空間に、闇が差した。

 真っ暗な空間に、光が差した。


 少女は、真っ暗だった空間で、目を覚ました。


 薄明りに照らされた空間が、少女の目の前に広がっていた。

 薄明りに照らされた空間を、少女はぼんやりと見渡した。


 土壁に、板の間。

 開いている扉。

 扉の向こうに、誰かの足。


 ここは、どこなのだろうと、少女は思った。

 扉の向こう側にいる、誰かに声をかけようと、立ち上がった。


「動いたら、ダメ。」


 少女と暗闇の中で言葉を交わした、優しい声が、響いた。


「どうして?」

「もうじき、お迎えが来るから、それまで待ってて?」


 薄明りの中に、少女と暗闇の中で言葉を交わした、優しい声が、響いた。


「どうして?」

「とても、……怖いの。お願い」


 薄明りの中に、少女と暗闇の中で言葉を交わした、優しい声が、響いた。


「わかった」


 薄明りは、どんどん眩しさを増していった。

 少女が、差し込んだ朝陽の眩しさに目を細めた時。


「もう、大丈夫。……ありがとう。」


 眩しすぎる朝陽の中に、暗闇の中で言葉を交わした、優しい声が、響いた。


 目のくらむような、まばゆい光の向こうに……何かの、影を、見た、少女の耳に。


「いたぞ!!!!!!!!」

「大丈夫ですか!!!!!」


 明るい空間に、人がたくさんなだれ込んできて……少女は、気を、失った。



「そんな、ことも、あったわね」

「そんなことも、あったのよ?」


 真っ暗な空間に、誰かの声が響く。


「ありがとう、あの時、助けてくれて」

「どういたしまして?」


 真っ暗な空間に、誰かの声が響く。


「私を、守ってくれたんでしょう?」

「さあ、どうだったかな?」


 真っ暗な空間に、誰かの声が響く。


「ずっと、感謝をしていたのよ?」

「いつも、ここに来てくれていたわね?」


 真っ暗な空間に、誰かの声が響く。


「また、会いたいと思っていたの」

「ええ、知っているわ?」


 真っ暗な空間に、誰かの声が響く。


「あなたに会いたいという気持ちが、あふれてしまったみたいなの」

「その気持ちに、応えたいと思ったから……出てきたのよ?」


 真っ暗な空間に、誰かの声が響く。


「今日は新月ではないから、少しだけ、目が見えるわ」

「そう、じゃあ、私の姿が、見えているのかしら?」


 真っ暗な空間に、誰かの声が響く。


「老いてしまったこの目では、ぼんやりと霞んだ姿しか見えないわ?」

「……そう、残念。私、ずいぶん、美しい体を、持っているのに」


 薄暗いこの場所が、真っ暗に見えてしまうぐらい、少女だった人の目は、衰えていた。


「私、ずいぶん、自分をなくしてしまったのよ?」

「今はずいぶん、取り戻しているようよ?」


 真っ暗な空間に、誰かの声が響く。


「時折、思い出したように、自分を取り戻すのよ?」

「今は、思い出せているのかしら?」


 真っ暗な空間に、誰かの声が響く。


「もう間もなく、自分をなくしてしまうと思うのよ?」

「帰らなくても、良いのかしら?」


 真っ暗な空間に、誰かの声が響く。


「帰れるかな?」

「……お迎えが来てくれると思うわ?」


 真っ暗な空間に、誰かの声が響く。


「じゃあ、それまで、お話をしていてもいい?」

「もちろん」


 真っ暗な空間に、誰かの声が響く。


 真っ暗な空間に、会話を楽しむ、声が響いた。

 真っ暗な空間に、会話を楽しむ、声が響いた。

 真っ暗な空間に、会話を楽しむ、声が響いた。


「……少し、眠くなってしまったみたい」

「じゃあ、おやすみなさいな」


 時折、ジーと、聞こえるのは、虫の鳴き声か、ネズミの鳴き声か。


「……ねえ、いる?」

「いるよ?」


 真っ暗な空間に、誰かの声が響く。


「ここは、どこ?」

「ここは、私の、居場所よ?」


 真っ暗な空間に、誰かの声が響く。


「どうして、ここにいるの?」

「ここに、いたいからよ?」


 真っ暗な空間に、誰かの声が響く。


「……何も見えない」

「私は、見えているから」


 真っ暗な空間に、誰かの声が響く。


「あなた、どこにいるの?」

「私は、ここに」


 真っ暗な空間に、手を伸ばす、少女。


「ねえ、手を、繋いでもいい?」

「……いいわよ?」


 真っ暗な空間で、手を握る、誰か。


「ありがとう」

「どういたしまして?」


 真っ暗な空間で、手を握る、誰か。


「おやすみ、いい夢を」




「いたぞ!!!!!!!!」

「大丈夫ですか!!!!!」


 明るい空間に、人がたくさんなだれ込んできた。

 人気のない、朽ち始めた古い社殿に、足音が鳴り響く。


「ああ……間に合わなかった」

「……なんだ、何か、握っているぞ?」


 明るい空間で、たくさんの人が、見つけたのは。


 白いへびの抜け殻を握って、少女のような笑顔で眠る……老婆の姿であった。


わりとへび好きな者です。


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