見出し画像

ぬるい部屋

※こちら秋ごろ公開した作品です※


 朝5時、娘のお弁当を作るためにキッチンに向かうと、…むぅ。

 リビングが……、ぬるい!

 つい昨日まで冷房の効いたヒンヤリルームだったというのに、この変わり様はどうだ!
 ご丁寧に毎年毎年しっかりくっきりバッチリ同じことをする奴がいる事に心底びっくりだよ!

 大げさに毛布にくるまって、ソファの上でぐぅぐぅと……ええい、いまいましい!
 この状況を生み出した犯人……旦那だよっ!!!

 確か去年もこういう事があったのだ。
 確か去年その前もこういう事があったのだ。
 確か去年その前のその前もこういう事があったのだ。

 毎度毎度…この熱波で何らかの被害が発生してさ!

 去年は出しっぱなしの半額の刺し身が、その前は出しっぱなしのチーズケーキが、その前の前はしまい忘れてた価格高騰の煽りを受けたバターがね?!
 傷んで捨てる羽目になったりリメイクが必要になったり風味が吹っ飛んだりしてホントひどい目に……。

「おはよ〜…って!ナニこの熱い部屋!」

 うん?!
 この太ましい声は!

 ……ちょっとまて、ナゼ毛布の中にみっしり詰まっているハズの旦那が目の前でぶよぶよしているのだ?!

「え?!じゃあ…この塊は?!」

 端っこに若い猫がのっかっている毛布を勢いよくはぐと……げぇ!

「……。お、はよう…ございます…」

 ヤダ!!
 このドでかい毛布のかたまり…中身が息子だー!

 ちょっとまて、いつの間にこんなに大きく…なんだ猫が下にも二匹隠れていたからでっかく見えたんだなって、いやナゼここで寝ている?!そういえば今日は休みだから夜更かしをすると言っていたような気がする、おそらく寝落ちをしたんだな、ゲーム機が転がっているし!!
 そういえば娘もこういうことがあったぞ、血は争えないという事か。
 息子はわりとしっかりしているし、こういう失態は犯すまいと思っていたのになんてこった…。やはりB型の血は…旦那の血は、成長するにつれしっかりと顔を出してしまったのだな…。しょせん四人家族で唯一のO型の血など、儚いものだったのだ…。キチンと掃除をし清潔を心がけ規則正しく過ごそうと心掛ける私の真面目で勤勉な清らかな血はいったいどこに行ってしまったのか…。

「も〜!だめじゃん、こんなにエアコンの温度あげたら!めちゃめちゃこの部屋熱いよ?あ~ん、お父さんの板チョコがー!!わあ、棒チョコがくっついてる!!暖房にするならちゃんとテーブルの上をチェックしないと困るんだけど!!徹夜で仕事してお腹ペコペコで下に降りてきたらこの仕打ち、あーもー、テンション下がった!!今日は朝イチで焼きたてパン食べ放題行こ!!お母さん、資金プリーズ!!てゆっか、とりあえず小腹を満たすなんかを口に入れとかないと貧血おこして倒れちゃうじゃん、めっちゃ頭使ったから糖分が足りないって脳みそが…ブツ、ブツ……!!!」

 去年まであれほどやりたい放題すき放題しでかしていたヤツが!!
 私の目の前で偉そうに説教をしているんですけど?!
 どう考えても私が今まで散々口にしてきたセリフそのものでグぬぬ…!!!
 そのうえ図々しい事を宣い、さらに冷蔵庫の中を物色し始め……!!!

「…ごめんね?」

 ……素直に謝る息子は許してもいい!

 だがな!!!
 わざとらしくモコモコのトレーナーを脱ぎ捨ててキッチンに突撃した旦那、オマエは…お前は許さん!!!

「ちょっと!!!娘の弁当用のナゲットの袋、勝手に持ってくな!!それは今から握るご飯だからてんこ盛りしたらダメ!!そのプチトマトは明日の分もあるから食べ尽くしたら困るんだってば、チーズ使っちゃったら晩ごはんのハンバーグがショボくなるでしょ?!フレンチトースト用のフランスパンにはちみつかけて食べないでよ!!あ~も~!こぼれたじゃん!何やってんの?!」

「あーも―!!お母さんは朝からうるさいなあ!!いいじゃん、食べるものがここにあるなら食べたってさあ!!プンプン!!コンビニ行ってこよ!!」
「僕も行く」

 デカい人々が早朝五時に外出してくれたおかげで、無事に娘のお弁当は作ることができたわけだけれども。

「ただいまべふー!!お土産買ってきたよ~!!」
「食べすぎた…」

 コンビニに行くと言って三時間も帰ってこなかった人々に焼き立てパンの数々を差し出され……、それを素直に受け取った人がおりましてですね。

「うーん、おいしい!!これも食べちゃお!!ってゆっかこのカヌレうまっ!!ちょ…キノコグラタンパイのこのコク!!ちょっと待って、シュークリームが神がかってる!!うわ!このチーズせんべいマックスのしょっぱさ、たまらんっ!!新作のフレンチトーストめっちゃ重たい!!食べ応えの塊なのにいくらでも食べられるんですけど?!ヤバイ…いつまででも食べていられる、もっと食べたい、また食べたい、手が、手が止まらない…ぱく、ぱく、もぐ、もぐ……!!!」

 食欲の秋を満喫し過ぎて、信じられないレベルで身体重量が増加してしまった人がいたという、お話なんですけれどもね……。

↓【小説家になろう】で毎日短編小説作品(新作)を投稿しています↓ https://mypage.syosetu.com/874484/ ↓【note】で毎日自作品の紹介を投稿しています↓ https://note.com/takasaba/