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あきふかし、となりはなにを、するひとぞ

 ・・・とす、とす、みしっ、みしっ。

 大の字になって寝転がる僕の耳に、三階の住人の足音が聞こえる。

 このステップは…今はやりのダンスかな?
 上に住むのは…、少々小太りの女性だったな。
 身を引き締めるために、運動しているに違いない。

 ……そうか、スポーツの秋だもんな。
 僕も、思いっきり体を動かしたいな。

 希望を胸に、目を閉じた。


 ・・・どす、どすん、ばりっ、ばばっ。

 大の字になって寝転がる僕の耳に、右隣の住人の乱暴な所作の音が聞こえる。

 この音は…田舎から送ってきた野菜を開封する音かな?
 右隣に住むのは…、やせ細った男性だったな。
 ようやく食えるものが届いたと、歓喜しているに違いない。

 ……そうか、実りの秋だもんな。
 僕も体調が良くなったら、芋掘りとかしたいな。

 わくわく感を胸に、目を閉じた。


 ・・・くす、くす、ぺらっ、むふ、むふふ。

 大の字になって寝転がる僕の耳に、左隣の住人の笑い声が聞こえる。

 この感じは…待ちかねたシリーズの新作を楽しんでいるのかな?
 左隣に住むのは…、いかついマッチョのおにいさんだったな。
 そういえばたしかラノベのタンクトップを着ていた、相当ファンに違いない。

 ……そうか、読書の秋だもんな。
 僕も動けるようになったら、好きだった本を買いに行きたいな。

 希望を胸に、目を閉じた。


 ・・・じゅう、じゅう、ざっ、ざざっ。

 大の字になって寝転がる僕の耳に、一階の住人が料理をする音が聞こえる。

 このフライパンのぶつかる音は…やきそばかな?
 下に住むのは…、ごく普通の男性だったな。
 ずいぶんたくさん作ってるみたいだ、意外と大食いなんだな。

 ……そうか、食欲の秋だもんな。
 僕も動けるようになったら、おいしいものを食べたかったな。

 絶望を胸に、目を閉じた。


 あきふかし、となりはなにを、するひとぞ……ってね。

 ちょっと・・・身動きが、取れなくなってしまった、僕。

 こうして、ひがな近隣住民達の音を聞きながら、様子をうかがうことしかできなくてさ。
 外には出られないけど、季節が変わったのを確かに感じるよ。

 もう、蝉の声は聞こえないだろうね。
 今頃は、気温もずいぶん下がっている事だろうね。

 そろそろ、空気の匂いも変わっているかもしれないね。

 ……そろそろ、近隣住民が締め切った窓を開ける頃だし。
 ……そろそろ、この部屋の中の匂いが、外に、漏れ出す頃だし。

 あきふかし、となりはなにを、するひとぞ……ってね。

 ……そろそろ、近隣住民が。

 隣で、何もできずに転がっている、僕の、気配に。


 ピン、ポ――――――ン!!!

 ―――スミマセーン、いらっしゃいますかー!!!


 コンコンっ!!

 ドン、どんどんっ!!


 突然ドアが振動し、思いのほか大きな音を、たてた。

 微睡む僕の耳に届く、現実を知らせる破壊音。


 ……びっくりするなあ、もう。

 驚いて……思わず、飛び起きちゃったじゃ、ないか。


 僕は、乱暴な客人に、一言文句を言ってやろうと思い。


 足音も立てずに、すうっと玄関へと……向かった。

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