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運を明け渡したかもしれない話

 ・・・俺の趣味は、小旅行。

 勤めている会社が三連勤二連休と六連勤二連休の繰り返しになっているため、休日一日目は気分転換もかねてドライブに出かけるようにしている。単調作業の多い仕事のストレスを発散するのに…ぴったりなのだ。

 地元の名産品を賞味したり絶景を眺める事は俺の中でルーティン化されたもので、欠かせない恒例行事のようなものになっている。安全運転を心がけつつのんびりとハンドルを握るのはわりと性に合っていて、下道を使って近隣の道の駅めぐりをしたり、高速道路に乗って遠くを目指しSAをめぐっては気ままに楽しむのである。

 行き先を決めずノープランで出かけている小旅行ではあるが、ひとつだけ・・・ルールと言うか、決め事をしている。

 それは、旅の終わりで・・・ロト7を買うこと。

 道の駅、サービスエリア、ショッピングモール・・・いろんな場所に訪れて、最後にロト7を買い、それで旅行を終え、帰宅すると言うマイルール。きっかけは忘れたが、毎週300円の夢買いと称して、欠かさず行っている。

 出先でクイックピックの一点買い、たまに当選してうれしくなるのも一興だ。思いがけず高額・・・と言っても2万円程度だが、当たった際には再びその地を訪れると言うようなサプライズもあったりする。俺にとっては、一種の儀式のようなものとなっているのだ。

 西方面に足を延ばした今日、いつものように出先でくじ売り場に行くと、なにやら・・・熱心に数字を選んでいるおじさんがいた。

 記入カードと鉛筆の入ったケースの前で無作法に陣取り、記入台の上には消しかすだらけのカードが何枚か無造作においてある。少々、いやかなり邪魔だな、見苦しいなと思いつつ、極力刺激しないようそっと手を伸ばす。

「あ、すみません!」

「いえいえ・・・」

 少々大げさに場所をずれてくれたので、書き終わった?カードが一枚、落ちてしまった。

「・・・たくさん買われるんですね」

 運が落ちたらお前のせいだとかいちゃもんつけられないだろうな・・・そんな事を思いながら拾って手渡し、念のために様子を伺い、声をかける。

「先週買ったロトが3万当たってたんでね、全部つぎ込もうかなって思って!あ、良かったら一枚、書いてもらえない?これもご縁って事でさ!」

 とりあえず機嫌は悪くなさそうだ。当選した人という縁起のよさに少しだけテンションが上がったこともあり、差し出されたカードの数字を適当に記入して渡してやった。

「お互い、当たるといいですね」

「ですなあ、ははは!」

 にこやかに会話をした後・・・・・・、自分もいつものようにクイックピックを買って、家に戻ったのだ。

 その週の当選番号発表日。

 いつものようにコンビニで晩飯セットを買って、テーブルの上に広げ、ロトの当選チェックをしようとスマホを手にした俺は・・・思わず。

「・・・え?」

 当選数字を見て、かたまった。

 見覚えのある数字が、並んでいたからである。

 ・・・・・・自分の手元にある、クイックピックの数字とは似ても似つかない数字だが。

 明らかに、見覚えがある数字だった。

「・・・うそ、だろ?!」

 あの、旅先で出会った、見ず知らずのおっさん。何の気なしに、数字を選んで手渡した、あのカード。その時の数字が、並んでいたのだ!!

 あの時俺は…日付にかこつけた数字を中心に選んだから、間違いはない。

 7個の数字のうち、6個が一致している。当選金額・・・俺の給料と同じ額!!!

 正直、がっかり感?驚き?なんで自分も買っておかなかったんだという後悔?そういった感情で頭の中がぐちゃぐちゃだ。

 俺はもしや・・・自分の運を、あの見ず知らずのおっさんに与えてしまったということか?!

 自分の買ったクイックピックは、ひとつの数字もかすってはいない。

 正直、今後自分が当たる気がまったくしない。というか、自分のくじ運をすべて盗まれたような感覚すらする。

 呆然としたまま、冷え始めた大盛りハンバーグ弁当をもそもそと・・・食べる。

 ・・・・・・。

 あのおっさん、今頃・・・・・・俺に感謝してるのかな。そんな事微塵も気にしないで、大当たりを喜んでいるに違いない。

 いや待てよ・・・・・・。

 もしかしたら消しかすが散らばっていたから、俺の選んだ数字をそのまま買っていない可能性もあるか・・・。

 ・・・・・・。

 とりあえず、今後は・・・日付にかこつけた買い方を、してみるか。

 そうだな、クイックピックと一緒に、買うことにしよう。

 俺は、今後・・・少々の出費が増える事を、心の片隅で覚悟したのだった。

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