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「あれはなんだろう。」
「え?ああ…ホントだ、なんだろうねえ?」

 少し前から……、いつも公園に行くときに通りかかる一軒の住宅が、気になっている。

 築50年くらい?少々古いデザインの木製の壁と柵が、純和風の大きな家屋と庭、敷地全体を囲んでいて、豪勢な玄関には大岩が置かれている…一昔前の、やや裕福な一般家庭が住むような、お宅なのだが。

 住宅の横の一部と壁の僅かな隙間から、庭部分が見えるのだけど、そこに明らかに異質な物体があるのだ。

 敷地内を囲っている壁は、表側の通路に面している部分がルーバータイプ…細長い羽板を隙間を開けて垂直に並べた構造のもの…になっているのだが、隣の喫茶店の駐車場に面している側の一部は低めの柵しかない。おそらく、今は駐車場になってはいるが、昔住宅が建っていて、プライバシーを守るような壁は必要なかったのだろうと、推測される。

 すぐ横の駐車場には自動販売機が並んでいるので、普通に通りかかる場合は庭の中を伺い知る事はない。しかし、視界を遮る建物が無くなってしまった箇所は、交差点を曲がったあたりで住宅を望むと、庭に植えられた木々やおしゃれな大岩がバッチリと見えてしまうのである。

 別にのぞこうと思ったわけではないのだけど、交差点の信号が赤になってる時に、たまたま息子が不審物?に気が付いてしまって…以降このお宅の前を通るたびに、信号待ちをするたびに、なんとなく気になってねえ……。

「あれ、なんなんだろうねえ。」
「うーん、謎だね!!」

 丁寧に手入れのされている松や桜、つつじ?種類はわかんないけど丸く刈り込まれている低木が庭を演出しており、恐らく花壇になっているであろう場所には白い花が咲き、緑色の絨毯のように見える芝生の上には…丸くて大きなモノが転がって?いる。

 遠目に見ると、かなり大きなまんまるの…白っぽくてつるつるした感じの物体が低木に囲まれているのが、なんとなく確認できる。およそ100メートル離れた位置にある交差点から望んでずいぶん大きく見えるから、近くで見たら相当大きそうなのだけど…イマイチその正体がなんであるのか、よくわからない。

「今日も正体がわからなかった。」
「まあ、謎は謎のまま、語り継がれて行くもんなんだって!!」

 なんかのオブジェかな?もしかしたらシェルターみたいなものかもしれない。ごく普通の家に見えるけど、もしかしたら芸術家で…ものすごい作品だったりするのかも。真ん丸に見えるけど、周りは木や草で一部隠れているからなあ、実はたまたま丸く見えるだけで、近くで見たら何の変哲もない荷物入れだったりするかも、そうだなあ、キャンプの一人用コテージっぽく見えなくもない……。

「やっぱり今日もある。」
「いきなりなくなる方が怖いじゃん!」

 色々推理しながら、考察を重ねながら、毎日この家の前を通過するのがすっかり日課となっていたりする。時に息子にトンデモ展開の持論をぶつけ、時に息子の子供らしい意見を受け止め、時に冷静に分析し、時に事実を知るために何をすべきか討論し…わりと毎朝のウォーキングを楽しいものにする話題提供箇所として優秀なポイントとなっていたりするのだ!!

 人様の庭についてひとしきり盛り上がって、テンションをあげて帰宅し、美味しく朝ご飯を食べて学校に行くという黄金パターンがですね!!!

 近くで見たら正体がわかりそうなものだが、家の真横を通る時は板が目隠しの役目を果たすため、庭の様子を窺い知ることはできない。壁の隙間から見えそうだとは思うのだけど、さすがに人様のお宅の壁に顔を擦り付けて覗き込むわけにもいかないので、何となくもやもやとしたまま、毎日この場所を歩いているという……。

 まあ、知らない人のお家だし、謎は謎のまま解ける事はないに違いない、そう思いつつ、本日も信号待ちで息子と謎とき大会を開催してみたり。

「あれ、なんだと思う?」
「あれは宇宙船なんだって!!ごく普通の住宅に潜む未知のテクノロジー!!君乗せてくださいって頼んでみたらどお!!」

「一人乗りかも知れない!」
「ふふん、あれは空間圧縮装置があるから、いわゆるガリバートンネル的な仕組みがね!どーよ、いよいよ重力の呪縛を逃れて宇宙へと旅立つ時が来ましたよ!!」

「飛び立つ瞬間が見たい。」
「ムム、なんだ君は!!地球外に飛び出るチャンスを無下にして自由を求めて旅立つ人々を見送るに留まるというのかね!!高い所から地上を見下ろしたいとは思わないのかね!!少年よ大志を抱けというでしょう、若い頃は何事にも貪欲に挑戦をして…」

「あれはねえ、ふふ!!科学館のてっぺんにあった、ポールの先端なんだよ、あはは!!」

 ノリノリで息子に適当な暴走話を語っていたら、やけに穏やかな声が聞こえてきた…。何事かと思って横を向くと、丸眼鏡をかけた、オシャレなネクタイ姿のおじいちゃんが、くだんの家屋を指差して…めちゃめちゃ笑っとるがな!!!!!!

「知らない?昔ね、公園の中央に科学館があったんだよ。30年前に取り壊しになって…職員だったあそこのおじさんが記念にもらってねえ。ふふ、ここから見ると確かに、宇宙船に見えるかもしれないねえ……。」

「そうだったんですね!!!ありがとうございます、いえね、ここからいつも見えるもんですから、ええと、ふふ、気になっちゃって!!!アハハ、宇宙船だったらヤバいですもんねえ、いやあ良かった、教えて下さって!!感謝します、ええとありがとう、あ、信号変わった、ではでは!!」
「ありがとう!」

 いきなり話しかけられてびっくり、悪ノリしてた会話を聞かれて赤面、息子の前で慌ててはならぬと冷静を装い、信号が変わったのをいい事に、そそくさと逃げ出す、私、私イイイイイ!!!

「謎が解けて良かった!」
「そ、そうだね、これでスッキリしたね、うん、あはは…」

 そういえば大昔、いつも行く公園には科学館があったと聞いたことがあったような。市民祭りで市長がなんやかんや蘊蓄を言っていたのを聞いた気がする。ポールのてっぺん…昔の写真をネットで探したら、見つかるかも?よーし、家に帰ったらさっそく検索してみるか。貴重な情報を下さったおじいちゃんには感謝をしなければねえ。……もう一回くらい頭下げとくか。

 信号を渡り終わった私は、改めて情報提供してくれたおじいちゃんに、お礼の気持ちを伝えておこうと、後ろを、ふり返った。

 ……あれえ?

 確かに五秒前まで、信号の真下で語り合っていた…おじいちゃんの、姿が、ない。え?もうどこか行っちゃった?意外と素早いな…私たちよりも歩行速度が速いとかさ……。

 ……ちょっと待て。

 道路の向こう側には人影がない。

 十字路に停まっていた車は…通りすぎたから、車の影になってるって事は…ない。
 信号の周りは、畑、喫茶店の駐車場、先月更地になった区画、中小企業のビルと搬入倉庫…。

 ……おじいちゃんって、どれくらいのスピードで…動く?

 まさか、モノの五秒で、100メートル離れた家に、帰る?
 いきなり猛ダッシュとか、しないよね?
 そもそも、足音1つ聞こえやしなかったよね?
 通りかかった車が強奪してったとかも、ないよね?

 ……。

「全然謎じゃなかったね」

 たった今、新たな謎が発生したことは……うん、黙っておいてあげようね!!!

「ホントだねえ!!じゃあさ、今日は家に帰ったらネットであの玉の在りし日の姿を探してみよう、うんそうしよう!!!」
「いいねえ。」


 その後、無事科学館の写真を見つけることができたわけですけれども。

 ポールの先端を見ても、いまいちピンとこなかったっていうか。

 ……まあ、当時の科学館の館長さんの顔写真を見た時、ちょっとだけ、ピンとくるものがあったような気が、しないでも、ないけど。

 丸眼鏡に、オレンジ色のネクタイなんて…きょうび、あちこちに、溢れているものだから……ねえ?!

 大正生まれの、元気なおじいちゃんなんて…きょうび、あちこちに、いるよねえ?!

 また、あのおじいちゃんに会ったら、なんでそんなにお若いんですかとか、いろいろ聞いてみたい気もするけどね?!

 謎は、謎であるうちが、一番たのしいってね?!

 しみじみ、思ったという、お話ですよ…((((;゜Д゜)))

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