ワンピースの怪
娘から誕生日にもらった、インド綿のワンピースが、おかしい。
どうにもこうにも、ごく普通の衣服の常識を逸脱している。
グリーンとブルーの、タータンチェック。
肩の部分がひも状になっている、Aライン。
ポケットが二つついている、優れもの。
もらった日に大喜びで着た瞬間は…マキシ丈だった、ワンピース。
……はじめは確かに、足首まであったはずなのだ。
わりと背が高い部類に入る私は、ロング丈を買っても微妙に短いと感じることが間々あって…この長さが良いと褒めちぎったのだ。
真夏の暑い時期、ほぼ毎日着用していた。
朝のウォーキングに着て行って、帰ってきて洗濯機に入れて、乾いたものをまた翌日に着て。
毎日毎日、洗って干して、洗って干して、洗って乾燥機に入れて、洗って干して。
おかしいなと思ったのは、夏休みに入った頃だろうか。
たまたまウォーキング中に市民クリーン作戦が開催されて、参加賞目当てで飛び入り参加した時に…やたらと蚊に刺されたのだ。すねの部分に、ふくらはぎ…ボコボコと赤く盛り上がる皮膚を目の当たりにして、そのときワンピースの丈が明らかに短くなっている事を自覚した。
日を追うごとに……丈が短くなっていく、ワンピース。
なんとなく違和感はあったものの、きちんと立ち向かおうとしなかったというか…気がつかないでおこうとしていた節があった。
せっかく娘がくれたものなのだ、いちゃもんをつけるなんてとんでもない。
かくして、だんだん短くなっていくワンピースをそのまま着用した結果。
「ねえ!!なんかそのスカート短すぎない?!って言うかはじめもっと長くなかった?!ヤバイ、お母さんその年齢でひざが出るのはちょっとどうかと思う!!」
送り主までツッコミを入れてしまうほどに短くなってしまいましてですね?!
一体このワンピースはなんなんだ、なんでこうも短くなるのだ。
明らかに20センチは縮んでいる、だというのに横幅はやたらと大きくなって…ぶかぶかとしている。
食欲の秋に突入してはや半月、肩ひも部分がずいぶん窮屈になっているのは、決して自分が肥えたわけではない。
明らかに、生地が縮んでいる。
明らかに、生地が伸びている。
全体的にしわしわとしていてごわついているような気がする、確かはじめは滑らかな布だったはずなのに。
縦方向に縮み、横方向に伸びている?
柔らかかった肩ひもはやけに硬くて細くなったし、すっと広がっていたすそ部分はやたらとズドンドカンとした布地になっている。
ああ…このワンピースは、ひと夏の幻だったのかもしれない。
……ずいぶん冷え込むようになった、秋の日の夕暮れ。
来年はチュニックとして着用することを決めた私は、お気に入りさんを丁寧に畳んで、衣装ケースにしまいこんだのだった。
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