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「I LOVE U」第1話/創作大賞2024/漫画原作部門

第1話

◯あらすじ

15年前。悠の姉・愛華は父を殺して逃亡した。
「お父さんの仇を必ず討つ。」
悠は殺人犯である愛華は裏社会で生き続けていると考え、愛華の情報を得るために世界の裏社会を牛耳るテロ組織・メシアへ潜入しようと動いていた。
そんなある日、死を望む女性・美愛と出会い、お互いの目的を果たすため協力関係を結ぶ事となった。ギャングやマフィアから情報を集める内、悠は愛華の想い、父の恐ろしい計画、そして自分に隠された秘密を知る事となる。

◯世界観

架空の国・陽国。
日本をモデルにしているが、現代よりも貿易が活発だったりと海外との
交流が多い。貿易の中心であるサンティアの町はアメリカに近いイメージ。

◯大まかな展開(最後まで)


父を殺した姉・愛華を恨んでいる悠(主人公)は、殺人犯の愛華は裏社会で生きていると考えており、世界の裏を牛耳るテロ組織・メシアに潜入して愛華の消息を掴もうと考えている。

そんな中、死を望む女性・美愛と出会ったことで、裏の組織・月光の一員となって、愛華を追うことになる。

月光としてギャングやマフィアに潜入する中で愛華がメシアの2代目ボスである事がわかる。

悠はメシアに潜入。メシアのテロ活動の目的が謎のウイルス・フェニックスウイルスを世界にばら撒く事だと知る。

フェニックスウイルスについて調べていくと、それは死んだ父が作り出したものだと言うことがわかる。

父のことを調べると、母が悠を生んですぐ亡くなったことで、悠を恨んでいたことがわかった。

父の研究室(作中の秘密の小屋)に行くと、隠し部屋があり、そこにはフェニックスウイルスの研究資料、悠へのウイルス投与の記録が見つかる。

フェニックスウイルスとは300年間、何があっても死なない体になるということ、悠がそれに感染していたことで、今まで車に轢かれたりしても死ななかったことなどが明らかになる。

愛華は悠を1人にしないためにフェニックスウイルスを世界にばら撒き、人々を感染させようとしていたのだ。

自分のせいで、愛華が人生を捨てたことを知った悠は愛華に自分の正体を明かし、彼女の計画を止めようとする。

愛華は計画を進めることを選び、悠と対立する。

そんな中、悠は謎の組織に連れ去られ、フェニックスウイルスの感染者として人体実験をされ、悠の体からフェニックスウイルスが生成される。

そこに愛華が助けに来て、悠を庇って死んでしまう。

悠は謎の組織と戦い、フェニックスウイルスを奪うと燃やして始末する。

全ての戦いが終わり、ついに美愛を殺す時がやってくる。
美愛から受け取った拳銃で彼女の胸を貫き、泣き崩れる悠。

そんな中、美愛がむくりと起き上がる。

実は愛華は少量のフェニックスウイルスを所持していて、それを美愛に託していたのだ。悠と美愛は2人で生きて行く。

◯登場人物(主要)

※年齢は物語の主である15年後
道宮 悠(20)
主人公。身長156cm。黒髪。アイドルっぽい可愛い顔。
フェニックスウイルスの影響で身長など伸びるのが遅く、緩やかに伸び続けている。
姉・愛華の事が大好きだった分、憎しみも大きくなってしまい愛華を殺すことに生きる意味を見出しているのだと思う。
愛華が殺人犯になってから人並みの生活ができていなかったため、ご飯を食べさせてくれる人は全員良い奴だと思っている。
幼少期とは違い口が悪い。幼少期からずっと寂しがり。

道宮 愛華(33)
悠の姉。昔は金髪だったが、再登場時は地毛の黒髪になっている。
テロ組織・メシアの2代目ボスであり、世界中に父が作ったフェニックスウイルスをばら撒いて、悠を1人にしないようにと考えているし、そのために何百、何千の人間を犠牲にしてきた。後悔はしていない。
悠がくれたネックレスを今でも大切に着けていて、死ぬ前にもう一度だけ悠を抱きしめたいと思っている。
悠のためならどこまでも非情になれる。

道宮 悠馬(没)
悠と愛華の父親。悠を出産して妻が亡くなったので、悠を恨んでいた。
死を救済と考え、死ねないウイルス・フェニックスウイルスを作り出し、悠を感染させた。

秋兎あきと(33)
15年前、愛華の彼氏だった。
愛華と悠のことを心から大切に思っているが、現在は別の女性と家庭を築いている。

美愛みあ(21)
オレンジ色のロングヘアー。大きな目と豊かな胸。
明るい女性。小動物のような守ってあげたい見た目だが、体術などすごく強い。
10歳の時、少し目を離した隙に弟が連れ去られ、殺されてしまった。
そのせいで母は自殺。父は酒に溺れ、美愛をよく殴っていた。
そんな父も美愛が15歳の時に急性アルコール中毒で他界。
飛び降り自殺をしようとしたところでKと出会う。
美愛は父を恨んでおらず、全て自分の責任だと感じていて、現在も死を望んでいる。

響(23)
明るい茶髪に縁無し眼鏡の堅物。
Kを慕っていて、最早信者。頭脳派に見えてゴリゴリの肉体派。細マッチョ。

詩音しおん(27)
バイオレットカラーの艶やかな髪が特徴的な綺麗なお姉さん。
一見やる気のない奴に見えるが、飢えや性虐待に苦しんだ過去を持っており、本当にこの国が、世界が良くなってほしいと思っている。

カイル(18)
筋骨隆々とした肉体。坊主頭で眉毛には剃り込みが入っている。
両親に育児放棄され、パンチの効いた爺ちゃんに育てられた爺ちゃんっ子。
爺ちゃんの教えは絶対。素直な子。

K(47)
月光のボス。全体的に色素が薄い。若く見える。
美愛を娘として可愛がっている。

◯本文 ★は作画イメージ

◯陽国・森の中の小屋内(深夜)
3畳分ほどのスペース。
壁際のデスクには試験管や何かの資料が散乱している。
男は手に持つ試験管、正確に言えばその中にあるオレンジ色の液体を見て笑う。
男「やったぞ……!ついに完成した!これで奴を……あの悪魔を地獄へ突き落とすことができる!ハハッ……ハハハハハッ!!!」
★笑った口元は描くが、顔全体は描かない。誰だかわからない状態。

〇陽国・森の中の一軒家(悠の家)・1階リビング(夕)
悠(5歳)と秋兎(18)がソファーに座っている。
悠「あっくん、姉ちゃんまだ?」
秋兎「今日は遅くなるって言ってただろ。悠は本当に愛華が好きだな〜。」
悠「(照れながら)ち、違うもん!お腹空いただけだもん!姉ちゃんの事好きなのはあっくんでしょ!!」
秋兎「そうだぞ。俺は愛華のことが大好きなんだ。もちろん悠のことも大好きだよ。」
秋兎はそう言って悠の頭を優しく撫でる。
秋兎「夜ご飯も俺が作るから安心しな。」
悠「スパゲッティしか作れないでしょ。」

〇同(夜)
悠はソファーでウトウトしている。
秋兎「そこで寝たら風邪ひいちゃうからお布団入りな。」
悠「......やだ......」
秋兎は少し困ったように笑う。

愛華「ただいまー」
悠の姉・愛華(18)はリビングに入ってくるなり目を丸くする。
愛華「悠!まだ起きてたの?」
悠「姉ちゃん......」
愛華「姉ちゃんのこと待っててくれたの?」
愛華が悠の隣に座ると、悠は両手を広げる。
悠「抱っこ......」
愛華は悠を膝の上に座らせて抱き締める。
愛華「寂しい思いばっかりさせてごめんね。」
悠「姉ちゃん......悪くないよ......」

〇悠の家・1階玄関(朝)
悠が階段を降りると、玄関に愛華と秋兎が居た。
愛華「悠!おはよう!」
悠「姉ちゃんもう行っちゃうの?」
愛華「うん!姉ちゃんお仕事頑張ってくるね!」
悠は愛華の服の裾をぎゅっと掴む。
悠「今日も遅いの?」
愛華「ごめんね。」
悠「姉ちゃんは悪くない……」
愛華は悠を抱き上げる。
愛華「なるべく早く帰ってくるね。」
悠は目に涙を溜めながら寂しそうに頷く。
愛華「姉ちゃん頑張るから、帰ってきたらいっぱいぎゅーってしてもいいかな?」
悠「うん。」
愛華「愛してるよ。」

〇悠の家・1階リビング(昼)
悠は母の仏壇の前で手を合わせる。
悠「お母さん、明日はお父さんが帰ってくるよ!」
秋兎「悠、ご飯できたぞ〜!」

秋兎「じゃじゃーん!!」
秋兎は得意げに焼きうどんを悠の前に置く。
悠「あ!スパゲッティじゃない!」
秋兎「これが俺の実力よ!」
悠と秋兎は焼きうどんを食べ始める。
悠「美味しい!」
秋兎「そうだろ〜、やればできる男なのさ!」
悠「でも夜ご飯はスパゲッティでしょ?」
秋兎はニヤリと笑う。
秋兎「今日は特別なご飯にするから楽しみにしてな!」
悠「特別?」

◯悠の家の前(夕)
悠はヘルメットを被って秋兎の自転車の後ろに乗る。
悠「あっくん、どこ行くの?」
秋兎「それは着いてからのお楽しみ。しっかり掴まってるんだぞ。」

◯陽の町「サンティア」(夕)
比較的洋風な町並み。
テロップ「陽の町・サンティア」

悠と秋兎は手を繋ぎながらサンティアを歩く。
悠「ここって姉ちゃんがお仕事してる町?」
秋兎「お、よくわかったな。サンティアは初めてだろ?」
悠「うん!あ!何あれ?!」
悠は初めて見る噴水や路上ライブに目を輝かせる。
秋兎「鈴野音町にはない光景だろ?サンティアは海外のモノが多いからな。」
悠「うん!すごい!」
悠はそう言って走ると、小石に躓いて転んでしまった。
秋兎「悠!大丈夫か?!」
悠はすぐに立ち上がる。
秋兎「怪我は?」
悠「大丈夫!怪我なんてしたことないもん!」
悠は腰に手を当てて得意げな表情を見せた。

◯サンティア・お菓子屋「marutto」・店内
店内には300種類以上のお菓子が並んでいる。
悠「うわああああ!お菓子がいっぱい!」
秋兎「好きなの選んで良いからな。」
悠「お小遣い持ってきたから自分で買う!!」

きょろきょろと店内を見回していた悠だったが、1つの菓子を手に取る。
秋兎「それにするのか?」
悠「うん。」
★この時、悠が何のお菓子を選んだかはまだ描かない。
秋兎「もう一個選んできな。」
秋兎は優しい表情でそう言った。

◯サンティア・商店街(夜)
食べ歩きにぴったりな店や八百屋など様々な店が並んでいる。
賑わう人たちの中を悠と秋兎は歩く。
悠「あっくん!チョコバナナ食べたい!」
秋兎「特別なご飯の後で、食べられそうだったら買いに行こう。」
悠「特別なご飯って何なの?」
秋兎「もうすぐわかるよ。」

◯サンティア・商店街・レストラン「リーベ」(夜)
悠と秋兎が店内に入ると、愛華の姿があった。
悠「姉ちゃん!」
悠は愛華に駆け寄ってぎゅっと抱きつく。
愛華「悠!どうしてここに?」
ウエイトレスA「もしかして愛華ちゃんの弟君?」
ウエイトレスB「あら〜可愛い♡お名前は?」
悠は愛華の後ろにサッと隠れて、顔だけひょこりと出した。
愛華「こら、ちゃんと挨拶しなさい!」
悠「……道宮悠です。」
★ウエイトレス達が「ズキュンッ」とハートを撃ち抜かれるコマを入れる。
愛華はしゃがみ込んで悠に視線を合わせると、そっと頭を撫でる。
愛華「ちゃんと挨拶できて偉いね。さっすが姉ちゃんの弟だ!」
悠「うん!」

悠と秋兎は厨房の見えるカウンター席からフライパンを振るう愛華を見ている。
秋兎「なあ、悠。」
秋兎は顔をほんのり赤く染めながら、悠に真剣な眼差しを向けていた。
悠「何?」
秋兎「悠はその……俺が兄貴になったらどう思う?」
悠「え?それって……」
秋兎はこくりと頷く。
悠「あっくんなら良いよ。」
秋兎「本当か!?本当に良いのか!?」
悠「うん。」
秋兎「そうかそうか!」
悠「でもスパゲッティとうどん以外も食べたい!」
秋兎「悠の好きなもの全部作れるようになるさ!最高の日だ!」
秋兎は水を一気に飲み干すと、悠の頭を撫でてから厨房にいる愛華をじっと見つめた。

愛華「じゃじゃーん!」
愛華が厨房から運んできたのは、3人前はありそうな大きなオムライスだった。
悠「おっきいオムライスだ!」
秋兎「なんか俺に作ってくれる時より大きくない?」
愛華「あったり前でしょ!悠、いっぱい食べなね!」
悠「うん!」

◯悠の家・1階リビング(夜)
悠と愛華はソファーに座っている。
愛華「お店来る前はどこに行ってたの?」
悠「姉ちゃん目瞑って!」
愛華「え?わかった。」
悠はポケットから買ってきたお菓子の箱を取り出すと、中から玩具のネックレスを出して愛華の首にかける。
悠「目開けてみて!」
愛華は首元のネックレスを見て嬉しそうに目を輝かせる。
愛華「可愛い!これ、姉ちゃんのために買ってきてくれたの?」
悠「うん!お小遣い持って行ったんだ!」
愛華「ありがとう。姉ちゃん、すっごく嬉しい。」
愛華は悠を膝の上に座らせると、優しく抱きしめる。
愛華「愛してるよ。」

◯同(朝)
悠がリビングに入ると、愛華がキッチンで料理をしている。
悠「おはよう!」
愛華「おはよう!早起きだね。」
悠「うん!だってお父さんが帰ってくるんだもん!」
愛華「よーし、じゃあお父さんが帰ってくる前にリビングの玩具片付けよう!」
悠「えー!それは嫌だ!」
愛華「お父さんと遊ぶ時間減っちゃうよ。」
悠「片付ける!」

悠は片付けを終えると、仏壇周りを掃除していた愛華に抱きつく。
悠「できたよ!」
愛華「すごく綺麗にお片づけできたね。」
愛華は悠を抱き上げる。
愛華「悠。お母さんもね悠のこと愛してるんだよ。」
悠「それ何回も聞いたよ!会えないけど空から見てるんでしょ!」
愛華「そうだよ。悠がお母さんのお腹の中にいる時も、今も、この先もずっとずっと悠のことが大好きなんだよ。」
悠「それも何回も聞いた!」
愛華「大切なことだから、これからも何回も言うよ。」

〇同(昼)
悠「お父さんまだー?」
愛華「もうすぐ帰ってくると思うよ。」

悠馬「ただいま。」
悠「お父さんだ!」

◯悠の家・玄関(昼)
悠は玄関に向かうと、父・悠馬(40)に飛びつく。
悠「お父さん、お帰りなさい!」
悠馬「急に飛び付かないでくれっていつも言ってるだろ。腰やっちゃうよ。」
悠「お父さん、早く遊ぼう!」
悠馬「少ししたら散歩でも行くか。」
悠「うん!」

◯悠の家・リビング(昼)
悠馬「ただいま。」
愛華「お帰りなさい。」
悠馬は愛華の頭をそっと撫でてから妻・楓の仏壇に手を合わせる。
悠馬「楓、ただいま。」

◯悠の家・玄関(昼)
悠と悠馬は森へ散歩に出かけるために靴を履いている。
悠「姉ちゃん、行ってくるね!」
愛華「待って!」
愛華は悠の手袋、マフラー、ニット帽を持ってきて、悠に身につけさせる。
悠「自分でできるもん!」
愛華「わかってるよ。姉ちゃんがやりたいの。ほら、手出して。」
愛華は悠に手袋をつけてやると、手をぎゅっと握る。
悠「姉ちゃん?」
愛華「もしお父さんとはぐれちゃったり、何かあったらモリ爺の小屋に行って、お家に電話かけさせてもらってね。姉ちゃんがすぐに迎えに行くからね。」
悠「わかってるし!」
愛華「そっか。そうだね、悠はちゃんとわかってるね。」
愛華は悠の頭を撫でる。
愛華「お父さん。悠のことお願いね。」
愛華の真剣な眼差しに悠馬はにこりと微笑んで返す。
悠馬「ああ、わかっているさ。行ってくるよ。」

◯森の中(昼)
悠と悠馬は森の中を歩く。
悠「お父さん!」
悠が手を差し出すと、悠馬はゆっくりとその手を握る。
悠「お父さん、来月からはもっと早く帰ってきて!今日だってすっごく早起きしたんだよ!」
悠馬「そうだったのか。頑張ってみるよ。」
悠「うん!」
悠馬「愛華や秋兎くんとは森で遊んだりしたか?」
悠「うーんとねぇ、お家の前で鬼ごっこしたり、ヒーローごっこしたりしたよ!」
悠馬「そうか。」

悠「あ!モリ爺だ!おーい!」
悠が大きく手を振るとモリ爺(73)が小さく手を振り返す。
悠「こんにちは!」
モリ爺「こんにちは。おっと、道宮先生もご一緒でしたか。」
悠馬「いつも娘達がお世話になっています。」
モリ爺「こちらこそ。いつも悠くんと愛華ちゃんには元気をもらっています。そうそう、先ほど川魚が取れましてね。後でおすそ分けに伺いますから。」
悠「ねえねえ、俺も釣りしてみたい!
モリ爺「お、そうかい。じゃあ、もう少し大きくなったら一緒に釣りに行こうね。」
悠「うん!」
モリ爺と別れ、悠と悠馬は再び歩き始める。
悠馬「今日は左の道から行くぞ。」
悠「何でいつも道が違うの?」
悠馬「誰にも道を覚えさせないためだよ。」
悠「そっか!2人だけの秘密の小屋だもんね!」

◯森の中・秘密の小屋(昼)
悠の家から歩いて20分程の距離にある古びた小屋。
★秘密の小屋は物語中盤あたりにも登場する。外観や内観をしっかり描いておく。

小屋のドア付近には弓矢や斧など狩りで使えそうな道具が置いてある。
小屋の中は外観の古びた印象とは異なり、リノベーションされているため綺麗。
小さめのキッチン、本棚、ダイニングテーブル、ベッドが置かれている。

悠は本棚から一冊絵本を選ぶと、悠馬に差し出す。
悠「今日はこの絵本が良い!」
悠馬「わかった。」
悠馬がベッドに座ると、悠はその膝の上に座る。

絵本を読み終わるとおやつの時間だ。
悠馬はキッチンでドーナツを皿に出し、シュガースティック(物語中盤~後半辺りで睡眠薬だったとわかる)を悠のホットミルクに入れる。
悠馬が出したドーナツとホットミルク、角砂糖の盛られた皿に目を輝かせる。
悠馬「砂糖はもう入れたけど、足りなかったら入れたらいいよ。」
悠「うん!」
悠は一口飲んでから角砂糖を二つ足した。

おやつの後、2人はベッドに入る。
悠「……夜もお父さんと寝たい……」
悠馬「私の部屋には仕事で使う大事な資料が多いから、駄目だと言っているだろう。」
悠「ごめんなさい……」
悠馬「さあ、お昼寝の時間だよ。」
悠「ぎゅーして……」
悠馬は少し困ったように笑ってから悠を抱きしめた。

◯悠の家・玄関(夕)
悠「ただいまー!」
愛華「おかえり!今日は何も無くしてないでしょうね?」
悠は手袋のない右手を見せる。
愛華「もう!また手袋無くしたのね!」
愛華は悠をくすぐる。

◯悠の家・1階キッチン(夕)
悠馬が料理を作る横で悠はクリスマスの話をする。
悠「それでね、起きてようって思ったのに寝ちゃったからサンタさんに会えなかったんだぁ。お父さんはサンタさんに会ったことある?」
その時、リビングから愛華の声がする。
愛華「悠!キッチンに入ったら駄目っていつも言ってるでしょ!」
悠「今は良いの!」
愛華「姉ちゃんがどうして駄目って言ってるかわかるでしょ?」
悠「……火とか包丁とか危ないから。」
愛華「外は寒かったでしょ。お父さんとは後でお話しできるから、先にお風呂入っておいで。」

◯悠の家・1階リビング(夜)
お風呂から上がった悠は愛華と一緒にテレビを見ている。
悠馬「ご飯できたぞ〜。」
愛華「先にお母さんのお花変えないと。お父さん、お母さんのお花持ってきてくれた?」
悠馬「もちろん。」
悠「お母さんのお花交換する!」
悠はそういうと、ダイニングテーブルに置かれていた花束に手を伸ばす。
すると、悠馬が慌ててキッチンから出てきて、花束を掴んだ。
悠「お父さん?」
悠馬「いつもお前が花を取り替えているのか?」
悠「うん!姉ちゃんがね、俺ができるようにって割れない花瓶にしてくれたんだ!」
悠馬「……そう……だったのか。今日は私がやるよ。」
悠「俺、ちゃんとできるから見てて!」
悠が再び手を伸ばすと、悠馬はその手を叩く。
悠馬「触るな!」
悠「うわぁぁぁぁん……!」
愛華「悠!大丈夫?!お父さんなんてことするの?!」
悠馬は何も答えずに楓の遺影とハンバーグを2皿持って2階へ上がっていってしまった。
泣いている悠を愛華がぎゅっと抱き締める。

少しして泣き止んだ悠は愛華と2人で悠馬が作ったハンバーグを食べる。
愛華「もう手は痛くない?」
悠「……うん。」
愛華「悠は何も悪くないからね。」
悠「本当?」
愛華「うん。お父さんが悪い。」
悠「仲直りできるかな……?」
愛華「ご飯食べ終わったらお父さんのお部屋行ってみようか。」
悠「うん!」

◯悠の家・2階悠馬の部屋前(夜)
悠はドアをノックして悠馬に呼びかける。
悠「お父さん……」
中から返事はない。
悠の目から涙が溢れると、愛華はそれを優しく拭う。
愛華「よーし!今日は姉ちゃんと寝よう!」

◯悠の家・2階愛華の部屋(夜)
部屋の中は整頓されており、悠の描いた絵や悠の写真がたくさん飾られている。
愛華「悠、おいで。」
愛華は悠をベッドに招き入れると、ゆっくりと頭を撫で始める。
悠「姉ちゃんは俺のこと嫌いにならないで……。」
愛華「なるわけないよ。ずっとずっと愛してるよ。」
悠「……絶対?」
愛華「絶対の絶対!」
悠「ぎゅーして。」
愛華は悠を優しく抱きしめる。
愛華「悠はお父さんのこと好き?」
悠「姉ちゃんもお父さんも大好き……。」
愛華「お父さんとは明日お話ししようね。」
悠「うん。」

◯同(朝)
悠が目を覚ますと、愛華の姿は無かった。
悠「姉ちゃん……」

◯悠の家・1階廊下(朝)
悠が階段を降りてリビングに続く扉を開けようとすると、中から愛華と悠馬の言い争いが聞こえる。
愛華「信じられない!お父さんは自分が何をしたかわかってるの?!」
悠馬「ああ、正しいことをしたさ!」
愛華「正しくなんかないよ!第一、お母さんがそんなこと望んでないってわかってるでしょ!」
悠馬「可哀想に……。楓を、お母さんを失ってお前は精神を病んでしまったんだ。それはお父さんにも責任がある。そばにいてやれなくてごめんな……。でももう大丈夫だぞ、愛華。私達には救済がある。」
愛華「ふざけたこと言わないで!おかしいのはお父さんの方だよ!」
悠馬「お父さんに全部任せておけば大丈夫だからな!愛華!」
2人が揉み合う声が聞こえる。
愛華「私は……あなたを許さない……!」

バンッ(銃声)

言い争いは止んで、リビングが静かになった。
悠はゆっくりとリビングのドアを開ける。
悠「姉ちゃん、お父さん……」
愛華「悠!来たら駄目!」

リビングでは悠馬が心臓を撃ち抜かれて死亡しており、愛華が拳銃を握っていた。

悠「う、うわああああああああ!!!」
愛華「悠……」
愛華は拳銃を持ったままゆっくりと悠に近づく。
悠「く、来るなぁぁ!」
悠は後退りするが、尻餅をついてしまう。
愛華は悠には何もせず、リビングから出た。
愛華「ごめんね。」
★愛華の後ろ姿のコマ

◯15年後・陽国・サンティア・どこかのコンビニ(夜)
テロップ「15年後」
悠「88番一つ。」
悠(20)がレジで煙草を買おうとすると、店員が怪訝な顔をする。
店員「いやいや、ちょっと僕。大人を揶揄うもんじゃないよ。」
悠「は?」
店員「煙草は20歳になってから。中学生のうちから煙草なんて絶対に駄目!大人しくココアシガレット買って帰りなさい!」
悠は大きなため息をつくと、免許証を雑に置く。
店員「え?20歳?!うっそだー!」
悠「あぁ?」
店員「大変申し訳ございませんでした!お酒でも煙草でも何なりと申し付けくださいませ!」

◯サンティア・どこかの路地裏(深夜)
悠はギャングの男の後を付けている。
ギャング「ふふふ。待っててね、まなみたん♡」
ギャングの男はスマホの待受画面にキスをする。
悠はギャングに背後から忍び寄り、ポケットから何かを抜き取る。
ギャング「おい!てめぇ今何しやがった?!」
悠「さあね。」
悠はそう言って抜き取ったUSBを見せつけながらニヤリと笑う。
悠「まなみたんによろしくな。」
ギャング「返しやがれ、クソガキ!」

悠はサンティアの町を逃げ回る。
そこは幼い頃に悠が見た景色とはまるで違う、汚い場所。
薬物に溺れる輩や、餓死した子どもの死体にハエが集るサンティアの裏側だ。
悠「ついに手に入れたぞ!これで俺はあの悪魔をぶっ殺せる!ハハ!ハハハハハハッ!!!」
悠が笑いながら角を曲がると、そこには一台の車があって、勢いよくぶつかる。
運転手「キャー!!!」
悠の体は勢いよく地面に叩きつけられた。
悠「な……んで……」
車には初心者マークがついている。
悠「クソ……が……」
ギャング「あーあー、痛そう。全身ボッキボキだろ。」
ギャングはしゃがみ込んで悠の頭を拳銃で小突く。
ギャング「USBを返せば助けを呼んでやっても良いぞ?まあ、お前はどうせ死ぬだろうけどな!」
悠がむくりと体を起こすと、ギャングは目を丸くする。
ギャング「車に轢かれたくせに、なんで立ち上がれる?!」
悠「怪我なんてしたことねぇよ。」
ギャングは悠に拳銃を向ける。
ギャング「だったら銃で打たれたこともないだろう?」

バンッ(銃声)
★悠が反射的に目を瞑るので、黒いコマで。

運転手「きゃー!!!」
悠が目を開けると、ギャングの男が頭から血を流して倒れていた。
悠が横に視線を移すと、拳銃を持った女性・美愛がいた。
美愛「ひどい怪我!ってあれ?無傷なの?」
美愛は悠に近づくなり、体を隅々まで観察し、首を傾げる。
美愛「ボク、運が良かったね。」
悠「ボク?」
美愛「それにしてもギャングに追われるなんて、そのUSB拾っちゃったのかな?お姉さんが交番に届けておくね。」
美愛がUSBに手を伸ばすが、悠はその手をパシッと叩いた。
悠「ボク、じゃねえよ!お前と大して歳は変わらねえ!」
美愛「え?いくつ?」
悠「20歳!」
悠はそう言って煙草を蒸して見せる。
美愛「えー!そうなの?!こんなに可愛い成人男性がいるなんて!!」
美愛は悠の顔をじっと眺める。悠は自分の顔が熱くなったのを感じて美愛から顔を背けた。
悠「もう良いだろ。」
悠がその場を去ろうとすると、美愛が腕を掴む。
美愛「待って!そのUSBが必要なの!」
悠「これはもう俺のもんだ。諦めろ。」
悠がそう言って再び立ち去ろうとした次の瞬間、体が地面に倒され、美愛が馬乗りになる。
悠M「なんだコイツ?!」
美愛「じゃあ、1つ賭けをしようよ。」
美愛はそう言って悠の額に銃を突きつけた。


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