【漫画原作】「レイニー・タウン」第3話脚本

★第3話本文★


〇次の金曜日の夜・『ムーンライト・ルージュ』店内

ロングヘアーで、抜群のボディーラインが際立つロング丈のワンピースを着たサングラス姿の美女が、来店する。

黒服「いらっしゃいませ。初めてのご来店でしょうか」
サングラスの美女「ええ。アキラさんをお願いできますか?」
黒服「少々お待ちください」
黒服が亮に声をかける。

黒服「お待たせいたしました。こちらへ」
黒服が、サングラスの美女をテーブルに案内する。

亮がサングラスの美女のテーブルに近付く。
美女がサングラスを外す。

亮「いらっしゃい。キララ。待っていたよ」
星が微笑む。

亮M『キララは俺の幼馴染だ』
亮【回想始まり】
(2話目の続き)ヒロトのバースデーイベントで、俺はキララと再開した。
漫画家の天空寺星が、俺の幼馴染であるキララだったのだ。
正確に言うと、既に星とは会っていたから、再会ではないが。
15年振りに会ったキララは、美少女から美しい大人の女に成長していた。
次の金曜日にまた来ると星(キララ)は言い、帰って行った。
【回想終わり】

〇亮が星の横に並んで座る

星「驚いた?」

亮「もちろんだよ。いつ俺に気付いた?」

星「初めてお店に来た時に、すぐに、りょう兄ちゃんだとわかったよ」「変わってないから」

亮「俺、子供の頃から全然成長していないの?」

星「違うよ。子供の頃からりょう兄ちゃんは、綺麗でイケメンで、モテモテ具合が、今も昔も全然変わっていないってこと」「再会できて、すごく嬉しい」(はにかみながら)「大好きだったな。りょう兄ちゃんは、私の初恋だから」

亮が星を、愛おしむ表情で見つめる。

亮【回想始まり】
15年前、俺が12歳の時に、俺の街に都会から、美しい少女がやって来た。
右足に大きな火傷の跡を持つ、その少女との出会いは、貧乏暮らしだった俺の無彩色な毎日に、彩りをくれた。
少女の名は『キララ』。キラキラネームそのものだと思った。
俺の本名は『亮』と書いて『りょう』と読むが、全く良い(りょう)ことがない俺は、本名が大嫌いで、『あきら』と名乗っていた。
しかし何故かキララにだけは、本名を教えた。
そしてキララは俺のことを『りょう兄ちゃん』と呼んだ。

色鮮やかな毎日は、1年後に、突然終わりを告げた。
俺の親父が借金を返せずに、両親は俺を連れて、街から逃げた。いわゆる夜逃げだ。
数ヶ月後、俺はキララに会うために、こっそりと街に帰った。
しかしキララは、街に居なかった。引っ越し先はわからなかった。
キララは俺にとっても、初恋の相手だった。
【回想終わり】

亮M『あの頃、キララと宙の関係に、全く気付かなかった。キララが宙の妹だったなんて』

亮「それにしても」「(小声で)あの天空寺星先生が、キララだったなんて。どれだけすごい偶然なんだ?」

星「(小声で)本当だね。宙社長のおかげで、りょう兄ちゃんに会えた。宙社長には、感謝だね」「(小声で)私の素性は、誰にも内緒だからね。宙社長にも秘密だよ」「(小声で)今日は、りょう兄ちゃんの幼馴染であるキララとしての来店だから、そこのところ、よろしくです」

亮「(小声で)はい。かしこまりました。姫」
星が美しく微笑む。

亮の心情は、複雑だ。20年前の感情が蘇る。必死に1億円を思い浮かべる。
亮M『しっかりしろ、アキラ。今のこの女は、あの頃のキララではない。宙の母親を殺した愛人の娘で、俺に1億円を貢ぐ色カノ(色恋営業の恋人)にある女だ。名前は天空寺星、キララとは別人だ』

星「さて、今夜は何を頼もうかな。りょう兄ちゃん、選んでくれる?」

亮「俺、ワインが飲みたいな。ロマネ・コンティ、入れてもいい?」
亮M『ロマネ・コンティは世界一高価と言われているワインで、うちの店では500万円だ。先週の45万円から一気に10倍以上の金額は、さすがにやりすぎかな』

星「うん。いいよ。私もワイン好きよ」

亮「お酒、飲めたの?」

星「大好きよ」

亮M『ふうん。漫画家の天空寺星は、酒が飲めないキャラなのか。まあ、支払う本人が飲むのだから、500万円は妥当な金額だな』
亮が自分に言い聞かせる。黒服を呼び、ロマネ・コンティを注文する。

アナウンス「ロマネ・コンティ、頂きました!」
店内がざわつく。

あっという間にホスト全員が星のテーブルに集まり、「ミリオンコール」(100万円以上の酒を入れた客に行うお礼のパフォーマンス)が始まる。
豪華な演出と派手なマイクパフォーマンス。
星が、照れる。

亮の被り客が、星に嫉妬の眼差しを向ける。

コールの最後、星にマイクが向けられる。「姫、一言どうぞ!」
星「アキラさんとの再会を祝って」
ロマネ・コンティを開けて、亮と星が乾杯をする。

星がロマネ・コンティを飲む。
星「美味しいですね」
亮が微笑む。

コールが終わり、亮が星のテーブルから離れる。
すかさず、ヒロトが亮に声をかける。
ヒロト「あの超絶美人、何者ですか? 初回客ですよね?」

亮「昔の知り合いだよ」

ヒロト「めっちゃ、オレのタイプです! アキラさん、紹介してください。よろしくお願いします!」
ヒロトが90度お辞儀をした後に、アキラに両手を合わせる。

亮「ダメだよ」

ヒロト「アキラさんのお客さんだから、横取りなんかしません。純粋にお友達になりたいだけです」

亮「だから、ダメだって」

ヒロト「だったら自分で挨拶するから、いいです」
ヒロトが星のテーブルに向かう。

亮がヒロトの肩を強くつかむ。
亮「やめろ!」

ヒロトが振り向く。
ヒロト「わかりました。そんなに怒らなくてもいいじゃないですか」「アキラさんのケチ」
ヒロトは不満な表情を浮かべ、亮の側を離れる。遠くから星を見つめる。

ヒロトのエースである愛莉が、亮とヒロトの会話を盗み聞きしている。星を睨みつける。


亮が星のテーブルに戻ってくる。
亮「お待たせ」

星「ねえ、私の右足にある火傷の理由、覚えてる?」

亮「不慮の事故、だったんだよね」

星「表向きわね。本当は違うの。ある人が、故意で私の足を燃やしたの」

亮「何それ。初めて聞く話だな。ある人って、誰?」

星「兄」

亮「えっ?」「そ、」「そうなの?」
亮M『いけない。うっかり宙と言いそうになってしまった』

亮「キララにお兄さんがいたこと、知らなかったよ」

星「兄と言っても、母親が違って、一緒に暮らしたことがないの」「(小声で)私、愛人の娘なの」

亮「あ、そうなんだ……」

星「私が2歳になったばかりの頃、4歳上の兄が住む父の家に行ったの。私が部屋で昼寝をしていると、兄が燃え盛るロウソクの火を、寝ている私の右足に押し付けた」

亮「ええっ!」
亮M『宙がキララの足に火をつけた?』

星「着ていた洋服に引火して、右足全体が燃えたの。火傷の面積が広かったから、命の危険もあったみたい」「幸い、歩行機能は失われずにすんだけど、傷の回復とリハビリに何年もかかった」「皮膚の整形手術も何回もしたわ」

亮「ロウソクの炎って、確か1400度近くあったよね」
亮M『想像しただけでゾッとする』

亮「今はもう、大丈夫なの?」

星「今は、ね」「でも、ずっと辛かった」「傷もだけど、心がね」「りょう兄ちゃんが、突然いなくなって、私はずっと、一人だったから」

亮「え?」

星「この火傷のせいで、学校では、イジメられたり、気持ち悪がられたりしていた」「何も気にせず優しく接してくれたのは、りょう兄ちゃんだけだったよ」「それに、流行りの素足を出すファッションも、水着姿も、私には無縁だった」「だから私は夏が大っ嫌い。それなのに誕生日が7月7日で、名前が星と書いてキララ何て、最悪でしょ」「そのせいで、自然と引きこもりみたいな生活になって、絵ばかり描いてた」「それが高じて、漫画家になっちゃった」
星が苦笑いを浮かべる。

亮M『そうだったのか。俺と一緒のキララは、いつも笑顔だったから、全く気付かなかった』『キララは星と書くのか。初めて知ったな』
亮「あの時は、何も知らずに、突然いなくなってしまって、ごめん」

星が頭を左右に振る。
星「私の右足を、返して欲しい」「私の人生を、返して欲しい」「私の右足を燃やした、兄が憎い」「兄の行為を罰することもせず闇に葬った、父も憎い」

亮M『宙は妹の足に火をつけたことを、俺に隠している』

星「二人とも、全部なかったことにしている」「二人は社会的地位も高くて、何不自由なく、のうのうと生きている」「そもそも、私の存在自体、きっと覚えていない」

亮「キララのことは、お父さんもお兄さんも、絶対に覚えているよ」

星「そうかしら?」

亮M『それは間違いない』

星「ねえ、りょう兄ちゃん」

亮「何?」

星「お願いがあるの」

星が亮の横にぴたりとくっつく。
星(小声で)「父と兄に、復讐がしたいの」「手伝って欲しいの」

亮「えっ?」

星「お金なら、たくさんあるわ。全部、りょう兄ちゃんにあげる」「だからお願い」

星が亮の両手を握る。
星(亮の耳元で)「殺して」

亮が驚き両目を大きく見開く。

星(亮の耳元で)「私と一緒に、あの二人を、社会から抹殺して」

星が亮の両手を離す。
星「父である天空寺勲(いさお)と、兄である天空寺宙を」

亮と星が見つめ合う。

3話目ここまで。

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