雑誌、ウェブサイト「ドカント」より抜粋

2017年9月16日

境貴雄 最先端ファッション“アズラー”とは!?小豆に魅せられた気鋭の現代美術家の正体

大量の小豆粒をヒゲに見立てた奇抜なアートプロジェクト〝アズラー〟の仕掛人として脚光を浴びる若き現代美術家・境貴雄さん。常人には考えつかない発想で、思いをかたちにしていくアーティストの生態とは果たしてどんなものなのか──!? 街ゆく誰もが思わず二度見をしてしまう〝アズラー〟誕生のいきさつから、将来的な展望まで、謎めく男の〝正体〟に肉迫した。

「プロジェクト自体の広がりもぜんぶ引っくるめたものが〝アズラー〟なんです」

最先端ファッション〝アズラー〟とは!?

ヒゲに見立てた小豆を顔に装着して写真を撮る『アズラー』プロジェクトの仕掛人でもある境さんですが、そもそも、なんでまた小豆を題材に?

境:動機は単純で、子どもの頃からあんこが好きだったんですよ。で、大学3年の時に『自由に作っていいよ』みたいな課題で和菓子をモチーフにしてみたら、これが自分の中でしっくり来て。もともと敷居が高いイメージのある和菓子を、ちょっとキッチュに表現するっていう、その意外性がなんかおもしろかったんですね。

それが段々エスカレートして、最終的には小豆そのものになったと。

境:もちろん、僕自身にも『このまま突きつめていいのか』みたいな自問自答はありました。ただ、いろんな文献を読んだりしてその歴史を調べていくと、こと祭礼やなんかでは、小豆が〝魔除け〟的な意味合いで重宝がられていたこともわかってきた。言ってみれば、そういった〝伝統〟が、僕のやっていることに対する〝お墨つき〟にもなったんです。いまでもおめでたいことがあると赤飯を炊いたりするように、日本人にとっての小豆は、すごく身近で特別なものでもありますしね。

確かに「なぜ作るのか」より「なにを作りたいか」のほうが重要だったりもしますしね。ちなみに、この『アズラー』ヒゲの材料はいったい?

境:紙粘土ですね。紙粘土をひと粒ずつ手で丸めて、色を塗って、溶剤でツヤを出してます。『なんで本物を使わないの?』とも聞かれますけど、僕が表現したいのはあくまで、煮て柔らかくなった〝ゆで小豆〟のほうなんで、単純にゼロから作ったほうが手間もコストもかからないんですよね(笑)そもそも、僕自身が食べものを粗末にしたくないってのもありますし。

しかし、パッと見では「本物?」と見間違えるほどの精巧さ。とても紙粘土とは思えませんよね。

境:撮影で地方に行った時に、本物と思いこんだ知らないおばさんから真顔でお説教をされたりしたこともありますけどね(笑)でも、『作品から味覚を想像してもらいたい』っていう僕の製作意図からしたら、そういう反応も言わば作品の一部。だから、『偽物ですよ』ってことも、わざわざ言う必要はないのかなって気はしてます。

ヒゲをつけて写真を撮って終わり、というだけでなく、周囲の様々な反応も含めてアートであると。

境:そうですね。なんて言うかプロジェクト自体の広がりもぜんぶ引っくるめたものが〝アズラー〟なんです。しかも、今年でアズラー活動歴は10周年。モデルとして参加してくれた方々も総勢4000人を超えていて、その数字がまた妙な説得力にもなっている。そこからさらに広がって、『アズラーを使って映画を作りたい』とかって人が出てきたら、それはそれでおもしろいですしね。

ひとつの家族を〝アズラー〟で定点観測するのもおもしろそうです。

境:それは実はすでにやっていて、僕の同級生の家族に協力してもらって、3ヵ月に一回ぐらいはアズラーをつけて撮ってます。最初は喜んで撮ってた子どもが段々成長してきて、ある時期だけ両親だけになったり、また戻ってきたり……そういう変化もアズラーを通して追えるといいなって(笑)

小豆が紡ぐ壮大な家族の物語。時間をかける価値はありそうです。境さんご自身は今後どういう活動を?

境:イベントとかに呼んで頂いたりして、わりと忙しくさせてもらっているのでしばらくはアズラー関連がメインになりそうですけど、アズラー以外の作品づくりについても当然、続けていきたいとは思ってます。もともと僕はデザイン科の出身なので、そういう部分で、たとえば和菓子屋さんとコラボをしたりだとかも、将来的には全然ありだと思いますしね。

では最後に、せっかくなので小豆好きの境さんがイチ推しする小豆スイーツを教えて頂ければ!

境:ひとつに絞るのはなかなか難しいですけど、やっぱり子どもの頃にハマるきっかけになった水ようかんは、なんだかんだ言っても好きですね。練ようかんも美味しいですけど、口どけのよさでは水ようかんに敵わない。

そんな話をしていたら、あんこが無性に食べたくなってきましたよ。

境:きっとこの先、あんこを見るたび、否が応でもアズラーを思い出すことになるはずですよ?(笑)

https://mag.dokant.com/201709-5321

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