ラジオ「Groovin’×Groovin’」より抜粋

2013年7月22日-26日 ラジオNIKKEI第2 (RN2)
出演:境貴雄

7月22日
はじめまして。アズラークリエイティブディレクターの境貴雄と申します。
まず「アズラー」と聴いて、はて何でしょう?という人がけっこういると思うんですが、まずはこのラジオを聴きながら、ネットでカタカナで「アズラー」と検索してみてください。そうするとアズラーのウェブサイトとか、あと変な写真がいっぱい出てくるので、それを見ながら僕の話を聴いてください。今日は初回なので、僕の自己紹介と、アズラーについて簡単に説明したいと思います。
僕、境貴雄は、2007年に東京藝術大学のデザイン専攻というところの大学院を出ました。普通はデザイン科出身だと、就職したりデザイナーになったりすると思うんですが、僕はフリーランスとして、和菓子や小豆をモチーフに作品を作っています。小豆ということで、ちょっとピンと来たかもしれないのですが、アズラーとは何か?と。今、ネットで調べた人は分かると思うんですが、なんかヒゲを付けた人たちの写真がいっぱい出てきたと思うんですね。実はこれは僕の作品でアズラーと言いまして、まさに小豆のアズから来てまして、これは何かと言いますと、小豆のヒゲなんですけど、小豆のヒゲを付けたファッションが日本で流行っているという架空の物語を作りまして、それを実際にいろんな方々に装着していただいて、僕が写真を撮ってポートレート作品にして、世の中に広めていく、一種のフェイクドキュメンタリー的なプロジェクトというのがアズラーなんですね。
2007年から活動を開始しまして、現在までに約1600名以上の人々にモデルになっていただきました。約1600名と言ったのは、僕も正確な人数を把握していないんですよ。人数が多すぎて、集合写真で撮ったりもするんですけど、だいたい1600名くらいかなって感じなんです。
なんでこんなことをしているのか謎だと思うんですが、僕は先ほど言ったように和菓子や小豆をモチーフに作品を作っていまして、学生の頃は、お饅頭だったりお団子だったり身近な和菓子を、彫刻作品に近いようなオブジェを制作していたんですが、その流れの中で頭にかぶる作品であったり、身に着ける作品を作り始めたんですね。
それで2007年に小豆のヒゲを試しに作ってみて、当時アートスクールで講師をやっていたんですが、そこに作品を持っていったら、学生が面白がって小豆のヒゲを勝手に付け始めたんですよ。本来は僕個人が付けて、作品として完結するはずだったんですけど、学生が小豆のヒゲを付け始めて、勝手に記念撮影し始めたので、これは僕よりも他の人が付けたほうが、より面白いんじゃないか?とひらめいて、試しにウェブサイトで「モデルやりませんか?」と募集し始めたら、徐々に広まっていって、その年にテレビの取材が来たり、じわじわ浸透して、結果的に1600名になってしまった、ということなんです。
和菓子をモチーフに今も作っているんですが、やっぱり和菓子にとって小豆というのは、和菓子の命みたいなものなんです。小豆自体のマテリアルの面白さ、僕の作品を写真で観てもらったら分かると思うんですが、つぶつぶしている感じが一見ギョッとするんですけど、ギョッとするのが目に焼きつくような、そこらへんのインパクトも含めて、小豆の面白さが造形として魅力的に思えて、今は続けているという感じです。

7月23日
今日は「小豆」について、おしゃべりしたいと思います。小豆というのは和菓子のあんこに使われることで、皆さん知っていると思うんですけど、実は日本人にもあまり知られていないんですが、小豆というのは古来より魔除けの意味があるんです。赤という色が魔除けの由来なんですが、例えばおめでたい席でお赤飯を食べたりしますよね。和菓子を季節ごとに食べるのも、実は小豆を食べることに意味がありまして。季節ごとに健康を祈願したり、邪悪なものから身を守る古来からの言い伝えが現代まで残っているということで、小豆の存在があるわけです。
あとは神饌というものもありまして、神様にお供えをする食べ物なんですね。お米であったり、お餅とかも一般的だと思うんですが、地方によっては小豆を神様に供えるところも多いんです。それは魔除けの意味から、神様に祈願することで身を守ってもらえるんじゃないか、という信仰で小豆を供えるところが多いわけです。
僕の作品というのは、ビジュアルの面白さが目を引くということはあるんですが、今言ったような魔除けの意味を知った上で作品を観ていただけると、おそらく見方が変わると思うんです。僕の作品は「境貴雄」で検索するとウェブサイトが出てくるので、それを観てもらえれば分かると思うんですが、いろんなものに小豆を付けているんですね。それは質感の魅力もありつつ、魔除けの意味だったら「小豆とこの素材(モチーフ)の組み合わせだったら、こういう物語があるんじゃないかな」と想像させるところが、小豆の作品を観ることの面白さにつながっていると思います。
アズラーという活動に関しても、小豆のヒゲのファッションというだけではつまらないので、魔除けの意味があったという物語を作っているんですね。例えばタトゥーやピアスも、元々は宗教的な意味があったんですね。けれど、宗教的な意味が徐々に排除されて、結果的に今はファッションとして残っているんです。僕のアズラーという架空のファッションも、魔除けだったものが、その意味が排除されて、結果的に小豆のヒゲのファッションになったという架空の物語を作っているんです。
ちなみに雑学ですが、実は現在、お赤飯は小豆じゃないんです、ほとんどが。ササゲという違う豆を使っているんですね。なぜかというと、江戸時代くらいまでは魔除けの意味ということで小豆を使っていたんですが、小豆は炊くと皮が破れやすいんです。それで江戸の武士が切腹を連想させるということで、縁起が悪いということになり、小豆と見た目が似ていて皮が硬い、ササゲという豆が代用されるようになったそうです。
ということで、これから小豆料理やお赤飯、和菓子を食べたりすると思いますが、今日言ったような魔除けの意味を知った上で食べていただけると、元気になったり、邪気が祓われるんじゃないかなって気持ちになってもらえると思います。

7月24日
今日は「和菓子」について、お話したいと思います。僕は和菓子や小豆をモチーフに作品を作っているんですが、よく「なんで小豆なんですか?」「小豆が好きなんですか?」って聞かれるんですよね。まぁ好きじゃなかったら作っていないと思うんですが、いつから好きなのかなってことを思い出してみると、かなり幼少の頃からあんこが好きだったんです。和菓子に詳しいとか、この店のっていうことではないんですが、とにかくあんこばっかり食べていて、あんこ好きの少年だったんですね。特に好きなのが水羊羹なんです。水羊羹が好きな小学生なんて相当渋いなぁというか、そんな人は今まで会ったことがないので、かなり僕自身、珍しい人間だと思っているんですが、元々食べるのが好きだったんです。甘味すべてが大好きというわけではなくて、チョコレートや洋菓子も嫌いじゃないんですけど、やっぱり和菓子のあんこ、小豆自体の味が好きなのかなぁと思っています。
ではなぜ和菓子の作品を作り始めたのか、というきっかけの話をします。僕は東京藝術大学の出身なんですが、大学3年生のときに古美術研究旅行という授業に行ったんですね。それは京都と奈良に2週間くらい旅行して古美術の勉強をするんですが、デザイン科では課題を出されまして、旅行で得たものを作品にしなさいということで、「伝統とデザイン」という課題だったんです。「伝統とデザイン、、、和菓子じゃん!」って思ったんですよ。もう和菓子以外ないと思ったんですね。伝統といったら和菓子というのは、京都では京菓子と呼ばれていて非常に歴史が深いですし、デザインという観点でも、和菓子は意匠という言い方をしますが、和菓子の意匠も凄く歴史が深くて、調べれば調べるほど面白いものがあると、もう和菓子しかないな、、ということで最初のきっかけは大学の課題だったんですね。
ただ、課題をこなして作品を完成させて、普通だったらそれで完結して終わりになるんですが、僕はその後も課題とは関係なく、自主制作するときも和菓子をモチーフにした作品を作り続けたわけです。最初はなんか面白いなぁと思いながら、手探りで作り続けていたんですが、2年、3年と続けていくと「何でこんな続けているんだろう?」と自己分析し始めるんですね。元々、和菓子を食べるのが好きで、見た目も綺麗で、作品にしやすかったというのが理由でしたが、たぶんそれだけでは続けていないと思って、和菓子の歴史を調べ始めたんです。和菓子は伝統的なものなので、専門書を漁ると、和菓子にはこういう歴史があって、こんな用途に使われて、、ということを知ることになります。和菓子というのは洋菓子と比べると、高尚なイメージがあるんですね。ケーキ屋さんは入りやすいけど、和菓子屋さんは敷居が高くて入りづらかったりしますよね。その和菓子の高尚なイメージと、僕が普段やっている悪ふざけみたいな、高尚なものと正反対な安っぽいイメージや、笑いの要素を組み合わせることで、結果的に和菓子の面白さが引き立っていることに気づいたんです。そして、それに気づいてからは、和菓子をモチーフにした作品の方向性が具体的に定まったという経緯があります。

7月25日
今日は僕の作品の制作方法について、お話したいと思います。僕は和菓子や小豆をモチーフに作品を作っているんですが、作品の見た目は非常にリアルなので、作品を観た人からは「本物の小豆を使っているんですか?」とか「本物の和菓子なんですか?」と聞かれることが多いんですね。でも実はすべて偽物なんです。素材は紙粘土と発泡スチロールという身近なもので作っています。
この素材になった経緯は、僕がデザイン科出身ということが大きいと思っています。例えば工芸科では染色や漆、陶芸など、ある技法や素材がベースにあって、そこから作品を作るということが主なんですね。彫刻科も大理石や木材など素材ありきなんです。でもデザイン科というのは、将来デザイナーとして社会に出ていく仕事の中で、クライアントから依頼が来て、この案件だからこの素材にするという考え方なんですね。そういう思考で大学時代は学んできたので、和菓子や小豆をリアルに作ると考えたときに、当時は学生なのでお金がなくて、高価な素材では量産できないので、いかに安価な素材で作るか。しかも大学の設備が必要な作品になってしまうと、大学を出たあとに作れなくなるので、それも嫌だと。そう考えた結果、紙粘土でいいじゃん、発泡スチロールでいいじゃん、という選択肢になったわけです。
僕の作品でよく登場する小豆も紙粘土なんですが、100円ショップで売っている軽い紙粘土を使っています。そして紙粘土を一粒一粒、手で丸めるんです。小豆を作り始めた初期の2004年頃はまだ慣れていなかったので、両手の平に小さい紙粘土を置いてコロコロ丸めて粒にしていたんですが、今はかなり慣れたので、右手の親指と人差し指と中指の先端だけで、紙粘土をクルクルクルと丸めてポイっと作れるようになりました。かなり早く、職人のような感じで作っているんですね。それで紙粘土をひたすら丸めて乾かします。
本物の小豆は自然物なので煮ると一粒一粒、微妙に色が変わって黒ずんでいたり、赤っぽいとか白っぽいとかの差があります。そのような微妙な色の違いを表現するために、僕が色を塗るときも、乾いた紙粘土を一粒一粒、串に刺しまして、一粒一粒、筆で塗って微妙に色を変えていく、というプロセスを踏んでいるわけです。これはものすごく手間がかかるんですが、このプロセスを踏むことでリアルな質感になり、作品を観た人が「えっ、これは本物の小豆なんですか?」と思うくらいの質感や存在感になるので、僕がこだわっているプロセスなんです。

7月26日
今日は「アズラー」という僕がライフワークで行っている活動について、お話したいと思います。アズラーというのは、小豆のヒゲのファッションが流行っているという架空の物語を広めるために、いろんな方々にモデルになっていただいて、僕がポートレートを撮影しているんですけれども、そのモデルさんをどうやって見つけてくるのかということなんですが、基本的にはウェブサイトで募集しています。あとはTwitterやFacebookでも募集しています。モデルさんは会社員や学生さん、主婦など一般の方が中心です。たまにテレビなどで芸能人にもアズラーになってもらいますが、モデルさんの9割以上が一般の方です。しかも圧倒的に女性が多いんです。女性は写真を撮ったり撮られたりするのが好きなんですね。プリクラも女子高生の文化ですし、最近はチェキも流行っています。変顔やマカンコウサッポウも女子高生の文化ですね。あとアズラーはヒゲを付けるので、変身願望という意味でヒゲを付けた自分の姿を見てみたいということで、女性が多いんだと思います。
それでモデルをやりたいという方からメールが送られてきます。僕の撮影はスタジオではなく、何気ないシーンのアズラーが撮りたいので、街中で撮影するんですね。撮影場所もモデルさんが「こういう場所で撮られたい」とか「私は普段ここに住んでいるので」ということで、モデルさんの希望する場所に僕がお伺いします。
モデルさんと言っても一般の方なので、写真の作品のモデルになる経験も初めての人が多くて、最初は緊張しているわけですよね。そこでいきなり「じゃあヒゲ付けてください」とか「早速、撮りましょう」となってしまうと表情も硬くなってしまうので、まずは「散歩しましょう」ということで、そこらへんを散歩するんですね。それで「普段は何をされているんですか?」とか「アズラーはどこで知ったんですか?」とか「アートとか興味あるんですか?」という日常会話をするんです。そして徐々にモデルさんも緊張がほぐれてきて、僕のほうもモデルさんはどんな方なのか分かってくる。
それで程良い感じになったときに「じゃあ、ヒゲいっぱい持ってきてるんで、好きなヒゲを選びましょうか」ということで、道端でヒゲを並べまして、ヒゲを選んでいただいて、装着して撮影が始まるという感じなんです。街中で撮影するのでモデルさんが緊張しないように、トークや場の空気作りで撮影を楽しんでもらいます。僕にとって撮影自体は作品に必要なことですが、制作においてモデルさんとのコミュニケーションが一番重要だと思っています。
ということで「アズラー」と検索していただけるとウェブサイトが出てきますので、アズラーの撮影に興味を持った方は、僕にメールをいただければ撮影にお伺いしますので、ご連絡をお待ちしております。

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