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電気代の値上がりで室内LED栽培について考える

こんにちは、金成コーデックスの三浦です。

ここ数年のアガベや塊根植物のブームは「植物用LEDの普及」が大きな役割を果たしていると思います。

光要求量の多いアガベなどの植物を、LEDを使わずに栽培することを考えると、沖縄などに住んでいて大きなバルコニーや庭をお持ちのごく一部の方を除いて難しいと思うので、やはりLEDは偉大です。

ただそうは言っても昨今の電気料金の値上がりと共に「このままいくと電気代がやばいことになるな」と、LED栽培について考え直している人もいることと思います。そもそもが違う国・違う環境の植物を育ててるのですから、どこかに無理が出てしまうのは当然と言っては当然かもしれませんよね。

そこで、植物と光の関係についてと、LED栽培について少し考えてみたいと思います。


1・植物育成LEDの電気代はどのくらい?

我が家のLED栽培の様子

電気代については電力供給会社によっても差があるので一概には言えませんが、消費電力(W)×1日の使用時間×使用日数で求めると概算がでます。

ここではアガベを栽培する方が良く使っている「AMATERAS(アマテラス)」というLEDライトを参考に計算してみます。

そもそもが20Wの単灯なのに約14000円もする時点で驚きますが、電気代を計算(1日15時間点灯)だとすると、約330円/月になります。1日当たり33円。

アガベ1つに対してLEDを1つ使うような設置をしている人もいるので、電気代がバカにならないですよね。

2.植物と光の関係について

サボテン晃山の花

植物の成長に光が欠かせませんが、植物の種類によって必要な光の量が違ったりします。

アガベだったりアデニウムだったり光要求量の多い植物もあれば、ハオルチアのようにあまり強い光を必要としない植物もあります。

(ざっくり言うと)植物の葉などに含まれるクロロフィルなどの光合成色素の量だったり、葉の窒素含有量だったりが関係していて、光合成における酸化還元エネルギーの需要と供給のバランスが保たれていると植物は元気に成長します。

しかし、そのバランスが崩れて需要を供給が上回ったときなどに、

クロロフィルの分解葉緑体の破壊細胞が死ぬ

という「葉焼け」の現象が起きます。

ネットで「葉焼け」について調べたときに、「急に直射日光に当てたことで、葉の表面が火傷をした状態」という説明をしているものを見ますが、私はこれ、ちょっと不正確で誤解を招く表現だなと思ってしまいます。(※高温障害や冷害で葉に症状が出た場合も葉焼けと表現することがありますし)

”急に”直射日光に当てた、、という”急に”という部分は結構重要で、植物には強い光が当たってもその光に耐えられるように変化する「光順化」という仕組みが備わっています。

「急な環境変化は葉焼けの原因になりやすいため、少しずつ明るい環境に慣らしてから、日光に当てるようにしましょう」という説明があったりします。これは間違いではないのですが、植物の種によっては明るい環境においても光合成能力を高めなかったり、逆に低下するものなどもあるので、光順化のメカニズムや葉焼けの起きやすさには種間差があるのがややこしいポイントです。

「アガベで大丈夫だったから、この植物も同じ棚に置こう!」とかやると、失敗する可能性があります。難しいですよね。

3.光順化には形質的変化をともなう?

植物の多くは、明るい環境にあると、葉は厚く、窒素含有量や葉緑体の多い、光合成能力の高い「陽葉」という型になり、

逆に、暗い環境にあると、葉が薄く、窒素含有量や葉緑体の少ない、光合成能力の低い「陰葉」という型になることが知られています。

光に慣れるための光順化の過程では、植物は葉緑体の数が増えるなど形質的な変化が伴っていることが知られているのですが、その変化能力や仕組みが植物種によって大きく違うようなんです。

そしてその植物種間の光順化の能力や仕組みの違いが、LED栽培下では相当センシティブな問題だなと、実際にLED栽培を行うようになってから思うよになりました。

3-1.LED栽培下で分岐が増える現象

ユーフォルビアギラウミニアナ

LEDで栽培している植物と自然光下で栽培している植物とを、同種間で比較したときにLEDで栽培している方が「分岐が多い」ものが多く見られました。

私が好きで数多く育てている tylecodon pearsonii(白象)という品種ですが、種まき直後からLEDで栽培し、多くに葉焼けの症状が出たので屋外管理に切り替えました。その中で、一株だけLEDで葉焼けの症状を起こさなかったので、そのまま継続してLEDで育てたらこのようになりました。

↑ずっとLEDで栽培していたチレコドンペアルソニー
↑屋外管理に切り替えて、その後ずっと自然光で栽培していたチレコドンペアルソニー

このようにLED栽培によって分岐が増える現象は、パキポディウム(カクチぺスとグラキリス)、ユーフォルビア(ギラウミニアナ)でも見られました。

観葉植物に関しては分からないのですが、LEDから近距離で塊根植物を育てたときの現象としてよく見られたので、分岐の少ない株を作りたい方は注意が必要かなと思います。

このように分岐が増える原因は(素人考えではありますが)、十分な光量を獲得できると判断した植物が、上に光を求めて伸びるよりも横に広がったほうがより多くの光量を得られると判断したのかも知れません。
もしくは、光に一番近い成長点付近が枯れて脇芽が伸びるように分岐が増える個体もあったので、単に主幹の成長点が極度の葉焼け状態でつぶれてしまった可能性もありますね。

3-2.外栽培からLED栽培に切り替えた場合の変化

私がハウスで栽培しているアガベの実生株(みしょうかぶ:種から育てた植物)の中に、形の良いものを見つけたときに「成長を近くで見守りつつ、カッコいい株に育てたい!」と思って室内のLED栽培に切り替えたことがあります。

すると、それまではゆっくりながら順調に成長していたのに、ハウス栽培からLEDに切り替えたとたんに徒長してだらしない株になることが何度かありました。需要を供給が上回って葉焼けした、、という訳ではなく、徒長してしまった理由がわかりにくくて謎のまま。

3-3.LED栽培から外栽培に切り替えた場合の変化

先ほどとは逆で、LED栽培をしばらくしたのちにハウス栽培に切り替えると、たいてい成長が鈍化してしまいます。

おそらく、毎日の長時間の光の照射によって、葉の性質が陽葉になっていて、光の需要がものすごく高い状態になっている。そして天候によって左右される自然光ではその需要を満たせず成長が鈍化する、、という状態かなと考えています。

ただしこの場合だと、すでに葉の状態として沢山の光を処理できる状態になっているので、前述の「葉焼け」のような状態にはならないのですが、LEDと太陽光の違いとして「熱(日光で鉢が熱くなるなど)」という条件が加わるため、どっちにしろ急な直射日光のもとにさらすのは植物が傷んでしまう危険性は高まります。

3-4.LEDによる急速な成長がもたらす自生地株との形質的な違い

先日モンソニア(旧サルコカウロン)栽培で知られているデザイナーのMoriさんとSNSでチャットする機会がありまして、「自生地のモンソニアとLEDで急速に栽培したモンソニアでは、若干ロウ状の物質が少ない(薄い?)感じがする」とおっしゃっていました。

モンソニアムルチフィダの実生

Moriさんの栽培メソッドは、自生地で長年かけて成長するモンソニア属をLEDで急速に開花株まで仕上げられるという画期的なものですが、植物体内での形質的な差は見た目以上に大きいのかもしれませんね。

4.さいごに

植物と光の関係はとても密接で、外見からは分からないような変化が植物体内で起きていることが想像できます。

最初からLEDで栽培する場合でも、途中からLEDを購入して使ってみるにしても、電気代が気になってLEDから自然光栽培に切り替える場合でも、環境が変わることで植物にも変化が生じるわけですよね。

私自身もLEDの数を減らさなきゃなと思っているので、自然光での栽培に切り替えたときの影響を予測しておかないといけないなぁとぼんやり思っています(そしてなかなかLEDをやめられない!!)

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