「週休3日制」が組織に及ぼす効果とは:科学的な実証研究から分かったこと
1. 話題の「週休3日制」で語られていないこと
社員の「週休3日制」。最近いくつかの企業が先進的に取り組み始めて注目を集めています。
その背景として、ここ数年間、企業人事の領域で“働き方改革”のテーマが上る中、新しい施策として話題になっているようです。
ただ個人的には、この成り行きは、話題先行となってしまっている感が否めませんでした。
というのも、これまで「週休3日制」については、いくつかの先進事例は発信されるものの「実際、週休3日制にどんな意味があるのか」については"体験談"や"経験則"の域を出ないものがほとんどと感じていたからです。
・「週休3日制」が企業に及ぼす影響とは何か?
・本当に「週休3日制」は組織・社員にとって価値があるのか?
この点について、エビデンスのある、地に足の着いた議論が必要だなぁと感じていたのですが、それを先進的に実証した研究を発見しました。
それが、ニュージーランドでの調査を基にした
・Overview of the Perpetual Guardian 4-day (paid 5) Work Trial
・Perpetual Guardian’s 4-day workweek trial:Qualitative research analysis
という2つのペーパーです。
企業と協働し、週休3日制によって組織や社員にどんな効果(良くも悪くも)があるのか、定量・定性データを組み合わせて、実施前後の変化を調査した研究です。
2. 実証研究から分かったこと:“経験則”を越える発見
この研究に協力したのは、パーペチュアル・ガーディアンという遺書作成や遺産管理のサービスを実施する会社です。
今回の実践については、CEOの音頭で週休3日制のトライアルを始めたそうです(その開始時の様子は下記の動画でも見ることができます)
トライアル方法としては、社員240名を対象に2カ月間で実施し、事前/事後に量的なアンケートや質的なインタビューを通じて、実施前後の社員の変化を検証する、という内容でした。
(賃金については「週休3日制でも週休2日時と変わらない」という設定で実施しています)
気になるトライアル検証の結果ですが、まず週休3日制を実施した本人たちの回答から以下のような変化が見られました。
・組織からサポートされ、心理的に安全であると感じるようになる
・ワークライフバランスをできていると感じるようになる
・ITの活用により、より上手いチームワークを感じるようになる
・自分の生活・健康・余暇・コミュニティとの関わり方に、より満足感を持つようになる
これらの点については、特に意外性のあるものでは無いように見えます。
本調査以前にも、週休3日制を通じて心理的な安心やワークライフバランス、ITを駆使してオンラインのワークスタイルができ、プライベートを充実させることができた、という言説は皆さんもご覧になったことがあると思います。
他方、週休3日制を実施した社員の上司からの回答では、とても面白い結果が分かりました。
上司による評価では、
・「チームパフォーマンス」については、週休3日制の社員の方が高くなる
・その結果、週休3日制になっても、社員の仕事のパフォーマンスは変わらない(=仕事のパフォーマンスは下がらない)
ということが明らかになったのです。
これまでも「週休3日になっても仕事のパフォーマンスは落ちない」という言説はありましたが、その理由は「短い時間で集中し、生産性が上がるから」というものが主流でした。
しかし、今回の調査結果からは、週休3日でも仕事のパフォーマンスを維持できるメカニズムが明らかにされています。
具体的には、週休3日制の社員は限られた時間の中で、チームとして「より時間に正確になる」ことに加え「お互いの仕事の範囲に限らず、それを超えて協力的に行動する」ようになったのです。
その結果、「より質の高い顧客サービスを提供」を「より創造的なやり方」で遂行できるようになっていたことが分かりました。
この行動様式の変化によって、週あたりの勤務時間が短くなっても、それまでと同等のパフォーマンスを実現することができたのです。
3. リサーチから見える「週休3日制」実践の本質
この結果は、個人的にとても示唆深いものでした。というのも「週休3日制」は制度のキャッチーさに目を奪われがちですが、週休3日制の意義はより人間の行動心理に踏み込むものであることが分かったからです。
本研究を通じて、週休3日制の目的は「生産性向上」に矮小化されるものではないということがよく理解できました。
確かに、週休3日にすれば、生産性「も」向上するのかもしれません。
しかし調査を実施したジャロッド・ハー教授も、報告書の中で
「週5日分のパフォーマンスを週4日でできた。しかし、だからといって週5日に戻しても、さらに20%のパフォーマンス向上を見ることはできないだろう」(Jarrod Haar 2018)
と述べています。
むしろ、この研究の意義は、短い時間の中で同等のパフォーマンスを実現できるよう、チームで様々な工夫がされていたという発見にあるように思われます。
つまり、週休3日制の価値の本質は、「生産性の向上」自体にあるのではなく、短い時間の中で、高い成果を実現するチームの"仕組み創り"を推進するという点にあるといえるのです。
そして、そのことは、週休3日制の実践が、企業の風土改革/組織開発に近い営みであることを意味します。
もう1人の研究実施者ヘレン・ディレーニー博士は、週休3日制を実践するためのポイントとして、
■追加的なオフの時間に対する期待を明確にすること:
追加された3日目の休日に社員は一体何を期待されているのか(休日出勤?余暇?)を組織と社員の間で明確にしておくこと
■組織開発に対する投資を行うこと:
週休3日制のワークスタイルを実現するため、組織側もITや職場環境、業務手順等を充実させていく必要があること
(Helen Delaney 2018)
の2点を挙げています。
実際、今回トライアルを実施したパーペチュアル・ガーディアン社でも、週休3日制を導入することをCEOから通達してから実践するまでに、1か月の準備期間が設けられていました。
その期間に「どのように週休3日で仕事を運用するのか」を、前向きに検討・実践する機運を、社員・組織が協力して創り出すことができるかどうかが鍵となります。
それは、単なる制度の設計に留まらない、社員のマインドセットや行動様式の変化を伴う実践であり、言い換えれば、組織の風土を変える取り組みの本質を含むものです。
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今後、近い将来に日本でも、より多くの企業が新しい働き方を模索する中、週休3日制に注目すると思われます。
その際、厳密な制度設計や施策内容を練ることもももちろん必要だと思います。
しかし、それと同時に、社員のマインドセットや行動の変化をどうやって設計・実践していくか、こそがこの新しい施策の成否を分けるポイントとなると考えられます。
本日も、ここまでお読みいただきありがとうございますm(_ _)m
【参考文献】
・Jarrod Haar (2018) ”Overview of the Perpetual Guardian 4-day (paid 5) Work Trial”(Aukland University of Technology)
・Helen Delaney (2018) ”Perpetual Guardian’s 4-day workweek trial:Qualitative research analysis” (University of Aukland Business School)
・Perpetual Guardinan's "4 Day Week" site:https://www.4dayweek.co.nz/
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