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事例研究(Gioiaメソッド)に関するマニアックな振り返りメモ

先日、静岡県立大学 国保先生の主宰する「”職場の経営学” 研究会~職場に活かす質的研究:Gioiaメソッドの可能性 ~」に登壇させていただきました。当日は、70人以上の方々(自分の尊敬する先生方もたくさんいる!)にお越しいただき、活発な議論から僕もめっちゃ勉強になりました(脳みそが熱かった・・)。

その濃密な議論を少し振り返って、「あぁ、登壇時にここは伝えきれなかった・・」という反省や、「あ、そういうことか!」と思う発見がたくさんあったので、忘れないうちに補足&メモをしておきたいと思います。

ちなみに、当日の登壇の様子については(途中からですが)こちらにアップされています。
【職場に活かす質的研究:Gioiaメソッドの可能性】
https://www.youtube.com/watch?v=MwonT1wHExo

振り返ってあらためて思うのは、GioiaメソッドもGTAも、その他のメソッドも、結局は質的研究の「手法(=道具)」でしかなくって、本質は「説得力のある理論(質的研究の場合はプロセス理論)を提示すること」だと忘れちゃいけないなと思いました。この豊かなプロセス理論を生成するために、以下の点について振り返りも合わせて、雑多ではありますがメモします。


■Gioiaメソッドを用いる際の分析手法について

・Gioiaメソッドの主眼はあくまで事例研究における透明性を担保すること(透明性こそが厳密性の源だという考え方。それが本当に説得力を持つのかは諸説あるが)。その透明性をきちんと明示するための「データ構造」という枠組み(「データのコトバ」に根付く1次概念、「理論のコトバ」でまとめる2次概念・統合的次元の枠組み)を使っている。

・なので、この「データ構造」を仕上げるための分析(コーディング)手法に関しては、「この手法じゃなきゃだめ!」というものはない(と思う)。もっと言うと、ここはあまり本質じゃないと思う(あくまで主眼は、厳密性/透明性のある分析結果(=データ構造)を示せるようになること。実際に2013年のGioia論文でもテクニカルな分析手法は特に明示されてないし。)その意味で、切片化についても、ちゃんとインフォーマントの言おうとしていることを捉えて1次概念が抽出できるのなら、やっても(やらなくても)よい、ということかなと思った(ただ、自分の分析では切片化の手続きもやりきらないと自分なりに説明のつく透明性を担保できる自信がなかったので、分析手続きに取り入れた)。

・自分の場合は、データ構造を仕上げるための分析手法としてStrauss & Corbin版GTAを採用したけど、その他の方法(他バージョンのGTA、SCAT、TEA/TEM等)でも組み合わせることはアリだと思う(組み合わせないことももちろんアリ)。じゃあなんで自分が分析手法にストラウス&コービン版を採用したのかというと、①分析の際に文脈を含めた解釈と厳密性(透明性)のバランスを取り易いと思ったこと、②「データのコトバ」で1次概念を抽出することと、「理論のコトバ」で2次テーマ・統合的次元を導くことの区別をしやすかったこと(M-GTAだと、1次概念の抽出と解釈を混ぜずにやり切るのが自分には難しそうと判断した)

※ちなみに、どうしてもGioiaメソッドに組み合わせられないなと思うのは、テキストマイニングのように機械的にテキストデータを扱う手法。さすがにこれはなかなか分析に研究者の解釈を入れることが難しいと思う


■分析単位について

・「そうやってGTAを選んだんなら、なんであなたはGTAの研究にしないの?(なんでわざわざGioiaメソッドが必要なの?)」という点については、分析単位の区別を認識することがダイジ(ここ、忘れがち)

・GTAは、個人を中心に据えて、個人とそれを取り巻く他者や出来事との相互作用を分析対象とする。一方、事例研究(含Gioiaメソッド)は、ある一定のまとまり(チームや組織、集団)における活動(自分の場合は、プロジェクトチームの活動)を分析対象とする。

・実際「理論的サンプリング」という同じ言葉がGTAでもGioiaメソッドでも使われるけれど、GTAの場合にサンプリングされるのは個人。一方Gioiaメソッドではプログラムやチーム・組織。ここの単位の違いは忘れないようにしなくっちゃ。


■Gioiaメソッドを採用した際の認識論について

・ここは自分が結構曖昧なままでいる点、と自覚。セッション中の質問にあった通り、一般的には、事例研究のうち「Gioiaメソッドは解釈主義、Eisenhardt/Yinは実証主義」と言われる。けれど、個人的には事例研究の手法ではハッキリ認識論が分かれるわけでは無い(と思う)

・例えば、Gioiaメソッドについては「解釈主義というには、型が決まりすぎている」という批判も結構多い(特に現象学的アプローチ等から)。具体的には、①インフォーマントのコトバは本当に実際の出来事を表しているといえるのか?(データとの接点というポイント)、②分析の透明性を確保すれば、その解釈は厳密性が高いといっていいのか?(データ分析のプロセスというポイント)から疑問が提示されている。なので、自分の研究だって、本当の意味で豊かな解釈が出来ているかどうかは、分からない(受け手に委ねるしかない)

※その意味で、自分の研究(Gioiaメソッド)も、人によっては「これ、ただテキストデータを階層化してまとめただけじゃん」という指摘があり得るかもしれない。いや、でも、そこから生まれた理論は実務的に役立つと思ってるし、役に立つ理論ならそれは豊かな機銃できるってことじゃん、とも思ってるんですけどね・・(悶々・・個人内パラダイム論争)。

・一方、Eisenhardtメソッドも元々は実証主義の立場だったものの、最近(2021年)の論文では、「この手法(アイゼンハートメソッド)は、認識論的にはより柔軟でよい」と言っている。(実際、比較事例で何の要素をどう比較するかは、「アートの領域」ってご本人も言ってますしね。そりゃあ解釈が入りますよね。)

・もっと言うと、結局、データ同士を継続的に比較してる、という営みはどっちも変わらないよね(GTAやその他の質的研究とも同様だよね)、と思う。(これはGioia・アイゼンハート自身もAOMの中で語っていた。)なので、過度にどの認識論だったらこの手法、と区別しきるのもあまり本質的じゃない気がする

・そう考えると、自分として大事にしたいのは、「データにきちんと根付いて丁寧に分析しつつも、テキストデータを鵜呑みにせず解釈を大切にすることを通じて、説得力のある理論を生成する」ということかなぁと。これを認識論的に何というのか、ぶっちゃけ明確ではない・・。このあたりがStrauss & Corbin版GTA(認識論を明示していない)と親和性が高いと感じる理由かもしれない。(それでいいのかは分からないけど・・)

※メモ:自分の頭の中にある分析方法同士のざっくりしたイメージ
(解釈主義的←→実証主義的)
現象学的アプローチ ― Gioiaメソッド/Langleryメソッド ー Eisenhardtソッド ― QCA(解釈的)― QCA(実証的)― 定量研究


■分析時の射程について

・藤本先生とセッション後にやりとりさせていただいて、社会学の視点から「制度」・「文脈」・「歴史」、という観点を教えていただいた(藤本先生ありがとうございます!!)。これらのうち、自分は「制度」については、分析射程として意識しきれていなかったかもしれない、と自覚。

・特に、同じ事例において同じ要因が存在したとしても、場面を規定する制度によって結果は変わる可能性はある。そう考えると、似たような事例でも、制度の違いによって結果の違いが生まれるかどうかを探るという比較は成り立つかもしれない。これを考えるのに、GioiaメソッドなのかEisenhardtメソッドなのか、はたまた別の手法が良いのか、結構考えどころだな、、と考えさせられました。

・自分だったら、RQにもよるけれど、①Gioiaメソッドにする:制度の違いはあるカテゴリのディメンジョンの違いとして考え、1つ要因として扱う、もしくは②Eisenhardtメソッドにする:制度の違いがどんなプロセスの違いを生み出すのかを比較する、のどちらかかな、と暫定的に感じています

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いやーまだまだ悶々と思うことあるけれど、一旦ここまでにします!!質的研究って、研究者個人のこだわりが前衛化する(それが良さ)だと思うので、方法論も考え出すと止まらないですね。(まだ脳みそが熱い・・)

最後に、事例研究としてご参考になる論文をいくつか、下記にご紹介しておきます!関心ある方の参考になれば!

■参考文献

  • Gioia, D. A., Corley, K. G., & Hamilton, A. L. (2013). Seeking qualitative rigor in inductive research: Notes on the Gioia methodology. Organizational research methods, 16(1), 15-31.
    ⇒Gioia メソッド(単一事例の方法)について、本人が説明した論文

  • Gehman, J., Glaser, V. L., Eisenhardt, K. M., Gioia, D., Langley, A., & Corley, K. G. (2018). Finding theory–method fit: A comparison of three qualitative approaches to theory building. Journal of management inquiry, 27(3), 284-300.
    ⇒Gioia メソッドやEisenhardtメソッド(比較事例の方法)について、色々と比較しながら本人たちが語っています

  • Eisenhardt, K. M. (2021). What is the Eisenhardt Method, really?. Strategic Organization, 19(1), 147-160.
    ⇒Eisenhardtメソッドについて、本人が回顧的に論じています

#事例研究
#GIoiaメソッド


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