![図1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/6490899/rectangle_large_e72f1ea691fc401a53b0e27cf66fc659.jpg?width=800)
ソーシャルイノベーションにおける知識マネジメントの役割
これまで社会人×社会起業家の協働プロジェクトを推進する際に意識していたのは、できるだけ現場に近づいて実務を重視することでした。
ただ最近、これまでの実務を振り返ってよりブラッシュアップできるよう、理論も勉強しなきゃと感じています。
そんな中、「社会課題解決のためのイノベーションを進めるのに、組織のナレッジマネジメントがどんな役割を果たすのか」について理論的なフレームワークを提示した研究と出会いました。
「Knowledge-Based Social Innovation Process in Social Enterprise: A Conceptual Framework」という論文、やや抽象度が高いのですが、自分に引き付けて感じるところもあり興味深かったです。
1. ソーシャルイノベーションのプロセス
本研究は3つのポイントについて先行研究をまとめます。
①イノベーション論:「イノベーション」とは何か?それが社会課題の解決にどう適用され得るのか?
②社会起業論:ビジネスと社会起業の違いはどこにあるか?
③ナレッジマネジメント論:個人レベル・組織レベルで知識はどのように共有・進化できるのか?
これらの先行研究を踏まえ、本研究では「イノベーションは、組織の知識(ナレッジ)を管理・維持・創出する能力の結果として起こる」と位置づけます。
その上で、ソーシャルイノベーション(社会課題を解決するためのイノベーション)とナレッジマネジメントの関わりを下図のように整理しています。
※上記の図、研究本文から大幅に加筆修正している点ご注意ください<(_ _)>
この整理ではソーシャルイノベーションのプロセスは6つの段階に分けられます。
各段階のステップを踏んでいくのに、ナレッジマネジメントは重要な役割を果たす、というのが本研究の考え方です。
2. 各段階でナレッジマネジメントがどう機能するか
ソーシャルイノベーションの各ステップを踏んでいくのに、ナレッジマネジメントがどんな役割を果たすのか。以下、各ステップに分けてご紹介します。
STEP 1. 「①外部情報 ⇒ ②社会課題の発見」
まず、社会課題を発見するには、外部からの知識を獲得することから始まります。外部の情報から、その社会課題が具体的にどんなものか捉えるのが最初のステップです。
ここでは、
・問題解決の機会を認識し、
・課題を特定し、
・解決のアイディアを創る、
というサイクルを、個人・組織の中で回すことが重要になります。
具体的には、ある個人(NPOの創設者など)が社会における様々な出来事から問題意識を持ち、小さく草の根的にでも活動を始める団体が現れ始めるステップといえます。
STEP 2.「②社会課題の発見 ⇒ ③協働的なアイディア創出」
特定の社会課題に取り組む団体が増えてくると、そこから団体同士のネットワークやコミュニティ(共通のイニシアティブ等)を通じて組織間の情報交換がなされます。
さらに、そのような情報交換から、よりインパクトある取り組みのアイディアが生み出されます。
これは、知識の「共同化」が起こるステップです。つまり各団体で培われてきた暗黙知が、ネットワーク/コミュニティ内の他団体にも広がるのです。
ここでは、幅広く知識が共有されるというよりも、特定のネットワークの中で、業界団体やメンバー間での暗黙知(専門的知見など)が共有されることで、新しいアイディアが生まれます。
STEP 3.「③協働的なアイディア創出 ⇒ ④フィジビリティ実施&キャパシティ調整」
業界内で新しいアイディアが生まれると、そこから具体的な社会インパクトを出すためのアクションが、組織間の連携の下で実践されるようになります。
このステップでは、知識の「表出化」がなされます。
いわゆる"イシューレイジング"と呼ばれるような形で、社会課題の具体的なメカニズムや、それを解決するための実践方法が広く社会に発信されます。
業界内に閉じた暗黙知ではなく、体系的な形式知として幅広く社会に発信がなされ、それに基づいた実践がされるようになるのです。
STEP 4.「④フィジビリティ実施&キャパシティ調整 ⇒ ⑤ビジネスパートナーと協働での実践」
このような社会インパクトを出そうとする取り組みは、必ずしもその内容全てが想定通りの成果を上げる訳ではありません。
だからこそ、その取り組みを評価付け、十分な成果が上がらなかった部分やその原因、想定外の課題を同定することが重要です。
この実践と評価を通じて、知識の「連結化」が起こります。
社会課題の解決のために足らなった知識の”ギャップ”を捉え、そのギャップを補うための新しい知恵が生まれるのです。
また、このような評価結果がホワイトペーパーや報告書といった形で発信されることで、”ギャップ”を埋められるプレーヤーが参画し、より広範パートナーシップの取り組みへとつながっていきます。
STEP 5.「⑤ビジネスパートナーと協働での実践 ⇒ ⑥社会課題の解決」のステップ
これまでのような一部の業界団体だけでなく、より多くのパートナーが参画することで、社会課題解決が実現されていくようになります。
このステップでは、知識の「内面化」が起こります。
新しく参画したパートナーも取り組みを実践することで、それぞれの組織に、具体的で実務的な暗黙知が貯まるようになるのです。
ここで培われた各組織の暗黙知が、さらに次の社会課題解決のためのスタートにもなります。
★ ★ ★
このようにソーシャルイノベーションは、大まかに6つの段階(5つのステップ)を踏んで、ナレッジマネジメントと結びつきながら進んでいくと考えられます。
3. このフレームワークは、日本に何を伝えるか?
本フレームワークを、日本の状況と照らし合わせて考えた時、個人的には以下の2つが浮かびました。
1つには、
日本では、いくつかの先進的な取り組みが STEP 3.「③協働的なアイディア創出 ⇒ ④フィジビリティ実施&キャパシティ調整」のステップにあるな、
ということです。
例えば、子ども宅食やスタディクーポンイニシアティブなど、いくつかの取り組みでは、ある社会課題に共通の関心を持つ組織が協働して、広く取り組みを発信しながら、解決するための実践を始めています。
今後、これらの取り組みが評価付けされ、より良い実践のための知恵が生まれるようになれば、「⑤ビジネスパートナーと協働での実践」や「⑥社会課題の解決」に進んでいけるのではないかと考えます。
逆にいうと、「⑥社会課題の解決」にまで進んだ取り組みはまだ無い、というのが自分の認識です。
もちろん、社会課題の解決は簡単ではありません。だからこそ、これらの取り組みがステップを進んでいくことを願っているし、できる限りの応援/アクションもしたいと考えています。
2つには、
ソーシャルイノベーションの実現には、取り組みの「順番」がとても重要である、
ということです。
社会課題解決のイノベーションについては、米FSG社の提唱した“Collective Impact” をご存知の方も多いと思います。
Mark Kramer, John Kania (2011) Collective Impact
https://www.fsg.org/publications/collective-impact
これは、様々なプレーヤーが協働して社会課題解決に取り組むために「どのような要素が必要か?」を体系化したものといえます。
一方、上記で紹介した研究は、これらの要素を「どんな順番で行うべきか?」を体系化したものと位置づけられます。
個人的に、色々な団体や取り組みを見てきて、この「順番」というのはかなり重要だなと感じています。
ある取り組みでは、あまりにも特定の現場の取り組みに固執するあまり、実践的な知識を共有・発信して活動を成長させるステップに踏み出せないという例がありました。
逆に、別の取り組みでは、実践やナレッジが不十分なまま注目を浴びたために、様々な引き合いが増え、活動範囲は広がるものの質実のある活動が行えていない、という例もありました。
具体的な実践を積み重ねながら、どんな順番でステップを踏んでいくべきか、その羅針盤を本研究から学んだ気がしています。
※“Collective Impact”の文脈でも、「順番」という点について、ETIC宮城代表の言葉はとても参考になります。(下記参照)
「コレクティブインパクト」とは? NPO×企業×行政による社会課題解決のための連携
https://www.youtube.com/watch?v=6G5EG1R5nf8&t=1613s
理論研究は、なかなか腹落ちしにくい面もありますが、やっぱり考え方の羅針盤として持っておいてイイもんだなと思いました。
本日も、ここまでお読みいただきありがとうございますm(_ _)m
【参考文献】
Hendrati Dwi Mulyaningsih, Gatot Yudoko, Bambang Rudito. (2016) Knowledge-Based Social Innovation Process in Social Enterprise: A Conceptual Framework. Advanced Science Letters · May
Mark Kramer, John Kania(2011) Collective Impact. Stanford Social Innovation Review | Winter 2011
GLOBIS知見録(2018)「コレクティブインパクト」とは? NPO×企業×行政による社会課題解決のための連携」https://www.youtube.com/watch?v=6G5EG1R5nf8&t=1613s
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