社会起業では、通常のビジネス以上に「丁寧な組織運営」が成功のカギになる
先日、(社)KIBOW × BLP-Networ(※)共催のセッションがあり、自分もそこに同席させていただきました。
※BLP-Network(BLPN):NPOや社会起業家を法務面で支援する弁護士のプロボノ団体
そのセッション中、BLPN代表の瀧口徹さんらとお話した「社会起業家の危機管理」の内容がとても勉強になりました。
少し実務的な内容ですが、社会起業に関心ある方へシェアしたいと思います。
1. 通常のビジネスと社会起業、世間の見方のちがい
「年間売上5,000万~1億円」
この事業規模、皆さんにとってどんなイメージでしょうか。
通常のビジネスの場合、この規模の企業は決して珍しくありません。
社員が数名~10名程度の、いわゆる「零細企業」というカテゴリの規模感です。
他方、社会起業の場合、この規模感は日本ではかなり珍しいものになります。
億単位の事業を運営し、スタッフを10名程度も雇用できるのは、ごく一部のプレーヤーになります。
両者とも、事業フェーズとして組織の成熟度は大きく変わりません。
にもかかわらず、「通常のビジネスか、社会起業家か」の違いで、外からの見え方は全く異なります。
つまり、社会起業家は、組織としてはまだまだ未成熟な部分のあるフェーズでも、業界の先進プレーヤーとして認識され得るのです。
これが、社会起業家の危機管理を考える時の大きなポイントです。
2.小さなミスが、大きな影響になる可能性
この、「組織としては未成熟ながら、業界の先進的なプレーヤー」としての社会起業家には、2つのリスクが潜んでいます。
その1つは、意図しなかったコミュニケーションによる「炎上」リスクです。
社会起業家の活動が「業界の先進プレーヤー」として広がる時、世の中の注目を集める彼らには、ステークホルダーが急激に増えます。
様々なメディアや外部からの協働の声がかかるなど、これ自体はとても素晴らしいことです。
しかし、組織の成熟度が追いつかないまま、キャパを越えて対応に追われた時、意図しないコミュニケーションや対応ミスが発生しやすくなります。
その時、通常のビジネスでは取り沙汰されないようなミスも、社会起業家の場合には何倍もの大きな影響が広がってしまう、というリスクが潜んでいます。
「社会起業家」という、社会に発信力のある存在であるがゆえ、少しのミスが大きなダメージとして残りやすいのです。
これが社会起業家に潜む1つめのリスクです。
3.外への広がりと、内側の疲弊のギャップ
他方、対内的にも社会起業家ならではのリスクが存在します。
それが2つめの「メンバーシップ」リスクです。
対外的なプレゼンスが大きくなると、社会全体の変革を目指す経営者は拡大を目指したくなるもの。
それ自体は素晴らしい方針だと思いますし、それが社会起業家のビジョンでもあります。
しかし、その路線にメンバーがきちんと合意できていない場合、メンバーの心には、
「なぜ、こんなに急に自分に負担が増えたの?」
「この組織の目指しているのは一体、何なの?」
「自分たちがやっていることに意味があるの?」
というモヤモヤとした思いが滲み出てきます。
どんどん拡大する活動に追われる中、
・スタッフと経営メンバーの溝
・経営層内部での分裂
・スタッフ同士の意識の差
じわじわと浮かび上がってくるのです。
そして、ある瞬間、メンバーの離脱・経営層の分裂といった形となって表出化することもあります。
社会起業家は、社会を変えることを目指すがゆえに、その活動を支える内部がリスクにさらされやすくなるのです。
これが、社会起業家に潜む2つめのリスクです。
4.社会起業にこそ、丁寧な組織運営がカギ
これら2つのリスクを踏まえて考えられるのは、
「社会起業では、人事・メンバーシップの仕組み(制度や運用)を、通常のビジネス以上に早いフェーズで、丁寧に作りこんでいく必要がある」
ということです。
もちろん、通常のビジネスで組織づくりが重要でない、というわけではありません。
ただ、社会起業家の場合、より早い段階で丁寧な組織設計に踏み切ることが、運営のカギだと考えられるのです。
実際、自分の知る限り、継続的に成果を出し続けるNPO/社会起業家は、内部の組織開発に、想像以上に丁寧に手間をかけています。
リーダー自身にプロのコーチングを付けたり、組織開発のファシリテーションを外部のプロに委託している例もあります。
それを通じて、対外的な広がりを目指しつつ、それに対応できる内部の一体感を創り上げているのです。
つまり、逆説的な言い方ですが、
「対外的に社会課題と向き合う社会起業家こそ、体内的に丁寧な組織運営が重要となる」
ということではないかと思うのです。
★ ★ ★
今回は「リスク」という、ちょっと後ろ向きな話題になりました。
しかし同時に、このようなリスクがありつつ、それでも社会を変えようと歩みを続ける社会起業家の皆さんには、尊敬の念を禁じ得ません。
社会起業の現場は大変なことだらけ。
「目の前の活動があるのに、組織開発までやっている余裕はない~!」
そんな社会起業家さんの気持ちも痛いほど良く分かります。
だからこそ、自分自身も微力ながら、彼らに寄り添いつつ、こういった知見を実務に役立てていきたいなぁと思うのです。
あらためて、この考えのきっかけを下さった瀧口さん始めBLPNの皆さま、どうもありがとうございました!
※写真はBLPN代表 瀧口さんとのディスカッションをまとめたメモ。瀧口さん、これから引き続きよろしくお願いします!
本日も、ここまでお読みいただきありがとうございますm(_ _)m
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