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喪失と回復

皮膚感覚的にnoteってヤツは、いわゆるブログや日記とは違うような気がしている。きちんとテーマを用意し、あるいはなにかに特化したキャラクターとして振る舞い、共感なり新しい情報の提供を要求されているような気がする。20年ほど、人生の半分以上をインターネットを続ける呪霊の戯言であり愚痴でしかないが、自分は会うどころか顔も知らない人のオチのない日常や、詩のような改行ばかりの文章、あるいは改行を一切しないような破滅的な思考の垂れ流しのようなものが好きだった。言うなればそれは他人の視点や儲けを意識していない「孤独」というものに近いだろう。綺麗事じゃない虚飾を廃した闇こそがインターネットの華だと信じて疑わない。インターネットは好きだけどSNSはクソだ。あーでもフォロワー2ケタくらいの裏アカ鍵アカって面白いよね。大学の頃、売れない純文学作家がゼミの教授だった。あの頃、彼のおごりで江古田駅前にあった四文屋(今はない)でレバ刺しを食いながら(今は食えない)、「孤独を共鳴させるのが文学だ」みたいなことを言っていて、いい言葉だなと思って、自分もそういう文章を書こうとしてきた気がする。その教授、いまツイッターで右翼みたいな事言ってて辟易してるけど。でも今は、怠惰に死とセックスがあけすけに語られ歌われ(きっと行われてもいる)、メンヘラって言葉や概念はカジュアルに市民権を得て、カービィをリュックにくっつけてる子の大半はきっと「スーパーデラックス」もやってないだろう。別にいいよ。それが時代よね。でも自分の好きだった「孤独」は、コンテンツとして、雑に、すごいスピードで、消費されている気がする。でもだからといって、外野から人を虚仮にしたいだけの冷笑ブームにはなるべく乗りたくない。どこにも居場所がない。そういう人にこそ届けるものじゃないのか言葉とは音楽とは、芸術とは、娯楽とは。

とはいえ、油断すると僕だってインターネット向けなアルゴリズムに思考を乗っ取られがちで、金やバズを狙う書き口になってしまう。僕だって仕事の文章を書くときはそうする。結論から先に、わかりやすく、エモく(最悪の言葉だ)書く。でも本当のこと言うと、それは商才と文才があるタレントたちがやればいい。オレはインターネット老人会だが、インプレッションの奴隷にはなりたくない。

でも、ここまで書いてなんだが、自分の無責任に思考を垂れ流した古いブログは誰かを傷つける気がした。不特定多数が読める状態にするのはよくないと思った。鍵をかけて、パスワード代を5000円にした。以前は300円だった。値上げは戦争のせいだ。

思えば二十代の自分は、人を傷つけることを厭わない気持ちや、世界を憎む悪意こそが、むしろそれだけが真実に近いと信じていた節があった。じゃあ三十代になれば、大人になり、丸くなり、成熟できたかというと違う。病理に気づけた、喧嘩する虚しさに体力が追いつかなくなった、諦めを覚えた。それだけだ。四十にもなると、なおらない、変われない部分ばかり目立ってくる。エバーテイルの広告じゃないけど「向き合う時だ。」
人生に一発逆転はない。頑張ってる人こそカッコいいのは、頑張れない自分からしても、間違いない事実だ。おれは、がんばれない。

そんな中、あたそ氏からDMが来た。僕は彼女の結論が出ないような話を丁寧に言語化しようとするスタンスが好きで(昔してたエグい話も)、彼女から喪失を題材にした文章を書いてくれ、と言われ、即答でやります。と返事した。なんの実績も知名度もない「おじさん」「バンドマン」という属性の自分だが、己の加害性や虚無、そして傷と向き合って「MOTHER4」という文章を寄稿した。

誰かが「永遠に出ないゲーム『マザー4』と、『母のために(MOTHER FOR)」と『母の死(4)』をかけているんですね」?と言ってた気がするが、素晴らしい考察だ。
僕はね、もちろん、そんなことは何も考えてなかったよ。
でも、そういうことにしていいよ。

それも嘘で、気づいてくれてとても嬉しかったけど、そういうのを自分で種明かしするのは野暮だと思ってるんだけど、こうやって書いちゃうんだよ。
野暮なやつなんだよ、高野って。

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喪失と回復

他者からもたらされた痛みや喪失、精神的な傷など、一体人は何に悲しみ、どのように回復していくのか。
12名から寄稿いただき1冊の本にまとめました。

目次および寄稿者は以下のとおりです。

はじめに
『傷跡日記』 苔 
『またね、と言えない別れでも』 中村 嶺 
『私の人格形成に影響を与えたある教師への失望について』 梶原綾乃 
『あなたが覗いた自由帳のその先』 シノダ 
『記憶と音楽』 DJ 648 
『都合の良い記憶』 さいとうたかし 
『あいさ(れ)ない』 あたそ 
『死ぬならハードオフ』 シコシコギャング 
『役割と期間』 アサノケンジ 
『殺した父と、その蘇生。』 本人
『私のスーパーヒーローが地球脱出をした日』 船乗りの孫 
『MOTHER4』 高野京介 
『もとかのしんだ。』 伊瀬勝良 
おわりに

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