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映画『モンキーマン』を観た!

 デヴ・パテルの初監督・主演作『モンキーマン』初日ということで、早速劇場に駆けつけた。本作は元々ネット配信用に制作されたものだったが、あまりの面白さに「これは劇場公開するべき」とプロデューサーのジョーダン・ピールが買い取ったというもの。
 そんな逸話も納得。序盤からラストまでグイグイと引っ張られ、あっという間の二時間だった。

 前半の疾走感が凄まじく、しばしば主人公目線で映し出される光景は酔いそうなほどの臨場感だ。所々に挿入されるコメディとの緩急バランスも素晴らしい。
 その勢いのまま一気に第一の山場アクションへとなだれ込む。格闘シーンに殊更な誇張はなく、リアルで生々しい説得力がある。
 主人公のキッドは底辺に生きる青年で、彼の日常は血と汗と理不尽に満ちている。地下闘技場と言い悪徳警察署長との最初の対決と言い、無骨なまでに荒々しく闇雲でガムシャラなのに、何故こんなにスタイリッシュなのだろう。やはりこの疾走感と映像(特に舞台セット)の美しさがスマートな印象を与えるのだろうか。
 予告にもあった水槽の破壊シーンは、手に汗握る緊迫した状況の中の強烈なアクセントであると共に、刹那的な美しさを添えている。殺伐とした暴力の連続の中に咲く「華」だ。
 どこかで「無課金ジョン・ウィック」との表現を見たが、まさに無課金。金を払って手に入れた武器は38口径のリボルバー1丁(しかも大して役に立っていない)。それ以外はほんのちょっぴり、その辺にあった刃物やトレー等と、後はひたすら拳・拳・拳ときどき蹴り!
 時に無様に時に惨めに前半を駆け抜けた後、キッドに破壊と再生が訪れる。その過程がとてもインド。ネタバレしたくないので詳細は伏せるけど、とにかくインド。
 ここでキッドの過去が明らかになるが、そこに関わる警察署長とその背後にいるエセ聖者の悪いこと悪いこと!これもインド映画ではお馴染みのパターンだが、インド映画じゃないのにインドすぎて、そのリアルさ故に当のインドでは公開できないほどだ。
 そして観ている私は、推しのエセ聖者っぷりに惚れ直(語り出すと長いので強制終了)
 キッドを助けるヒジュラ(両性具有やトランスジェンダーの人々)達が身を寄せる寺の神像は半身がシヴァ、半身がパールバティ。それぞれ破壊と再生そして献身の神。個人の恨みだけでは足りなかったそれらのものをキッドは受け取る。本来の復讐の動機であるキッドの個人的な恨みに、性産業に従事し搾取される女性達や懐が深く情に厚いヒジュラ達の受ける理不尽への怒りが加わる。
 かくして猿はハヌマーンへと変貌する。
 ここから先は何を言ってもネタバレになるので、観てのお楽しみだ。それくらい、ストーリー自体はごくシンプルな復讐譚なのだ。にも関わらず、こんなにも引き込まれるのかと驚いた。
 重要な舞台装置として復讐の舞台・キングスクラブのエレベーターがある。主人公は下層階から入り込み、徐々に上へと昇って行く。
 この構図はアクション映画好きにはブルース・リーの『死亡遊戯』を彷彿とさせるらしいが、あまりアクション映画を観たことがない私には、私が初めてプレイしたRPGである初代ゲームボーイ時代の『魔界塔士Sa・Ga』を思い出させた。塔を昇り詰めたと思ったら地上に戻され、ラスボスを倒すため再度昇って行くのだ。
 最上階で待つのは、美しくセクシーな(強制終了再び)
 いや待って!たしかにそこに触れなくてもこの映画は十分に魅力的な作品だけれども!だけれども、ここまで読んでくれた方なら絶対許してくれるでしょう?1回くらい言わせて!
 我が推しマカランド・デシュパンデ扮するエセ聖者バーバ・シャクティ。実に好印象で「そりゃあみんな騙されるわ」という聖者ぶりと、その正体である悪人ぶり、どちらもそれはそれは美しく(当社比)セクシー(当社比)なヴィランだった!
 R15+指定なので暴力シーンに耐性のない人にはお勧めできないけど、そこが大丈夫な人には是非とも映画館で観ていただきたい作品。
 ご覧になった際は私にバーバ・シャクティの感想とか、バーバ・シャクティへの賞賛とかを遠慮なく送(強制終了三度)

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