ソーダ水のおもいで

ふと思い立って、「東京 喫茶店 ゲーム躯体」なんていうキーワードで検索してたりしてる。割と頻繁に。

僕が小さい頃、父にちょくちょく喫茶店に連れて行ってもらっていた。
あれは確か「チューリップ」という名前の喫茶店だった。
残念だけど、もうあまり詳しく思い出せない。
マスターが口髭を生やしていたような、ただの勝手に作り上げた僕の中のイメージのような、そんな気もする。
だが、店は間違いなく1回は移転している。
そして、その店には、ゲーム躯体があったと記憶している。
所謂、ゲームテーブル。
何のゲームだったかも、これまたもう忘れてしまったけれど、最近になって、そういうゲームテーブルの上に、自分が注文したコーヒーのグラスやカップを置いたりなんかして、そんでもって、別にプレイするでもなく、そのゲームのデモンストレーション映像を眺めていたいな、とか思ったりする。

父は専らブレンドだったかアメリカンだったか。たまにウィンナーコーヒーを注文したりして、僕はいつもクリームソーダだった。
父も僕もそんなにペラペラ話す方ではなかったはずだけど、会話の流れで「ソーダ水を飲むようになったらオトナだ」という感じの事を言われた事がある。「メロンソーダとは言わない、ソーダ水って呼ぶのがオトナだ」みたいな事も言っていた気がする。
父も僕と同じで、ある事ない事、適当な事ばかりしょっちゅう言う人だから、今になって思えば、それも本当に適当な事を言っただけだったのだけど、小さな僕は真に受けた。

次に喫茶店に足を運んだ時に、僕は迷わず「クリームソーダ」でも「メロンソーダ」でもなく、「ソーダ水」を頼んだ。
氷と緑色の炭酸水で満たされたグラスに、赤いさくらんぼがひとつ。
クリームソーダには乗っかっているはずのアイスクリームは無い。あんなものは要らない。それではコドモの飲み物だ。
今、目の前にあるその飲み物は、そんなコドモ向けのアイスを排した、オトナの引き算によって出来た、ひとつ上の、オトナの飲み物だ。
オトナにはあんな甘いアイスクリームなんて要らない。溶けたアイスでグラスを汚す必要などない。これがスマートなオトナの飲み物だ。
ストローを伝って「ソーダ水」が口の中に飛び込んでくると、何だか少し、オトナにらなれたような、そんな気がしたあの頃の僕。

そんな事を思い出したりなんかしつつ、もっと大人になった僕がコーヒーを啜る為にも、本当はその「チューリップ」がまだあったら良かったのだけど、とっくの昔にそのお店はなくなってしまった。
自分の中の「喫茶店」と「ソーダ水」の記憶を結びつける為に、僕はゲームテーブルのあるお店を探すのかもしれない。

そういえば昨年、高田馬場でふらっと立ち寄った、初めての喫茶店で、「ソーダ水」を頼もうか散々迷って、結局、傍目を気にしてコーヒーを注文した僕は、やっぱりまだまだコドモなのかもしれない。

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