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ポンコツハケンとスーパーハッカー⑦

 及川 逸郎に会った 数日後、僕は彼が2つのトラブルを解決してることを確認した。 彼にしてはいつになく 迅速な対応だな、及川は基本 真面目なやつだから 、具体的な課題に対しては動きが早い。 能力だって決して低くはない。 大学 だって出ている。 文章が読めて、その意味をおそらく半分以上解っている。 むしろ優秀と言っていいくらいだ。 それなのにこんな 詰まった生き方をしているのは、人生に対する意欲の欠如のせいでもあるが、社会の不条理なところにも原因があると思う。 日本は失敗が許されない国だから、一度転ぶと二度と立ち上がれない。まあ、しかしそれは仕方がないことだ。 僕の彼に対する義理は果たした。 あとは 彼次第だ。

 と思っていたところ 新たな トラブルが発生したようだ。 例の 架空請求の会社、まあまあ 筋が悪かったようだ。 他にもかなりやばい 架空請求をしているようで、クレジットカード会社から契約を解除されていた。

 翌日 及川のアパートに 行くと、 定時で上がって帰ってきた 及川と遭遇した。彼は僕を見ると、ぎょっとしたような顔をした。

  「 新しいトラブルが起きたので、お知らせに来ました。 例の会社、ちょっと筋が悪かったみたいだね。」

「どうして君は私の名前や住所を知ってるんだい?」

及川は言った。

 「それは、僕がハッキングが得意だからなんだ。 日本人の個人情報ならだいたいわかるよ。 マイナンバーのサーバーは、簡単に侵入できるんだ。しかも痕跡を残さずにね。」

 「それに比べてアメリカの政府系サーバーへの侵入は難しい。 僕はできるけど、日本のマイナンバーなんて比べられないくらい難しい。マトリックスの中で、トリニティは 国税局のサーバーに侵入してるけど、 残念ながら痕跡を残してしまった。」

「それは 映画の中の架空の話なんじゃないのかい?」
「架空かどうかなんてどうでもいいんだ。 どのみちこの世界は 架空なんだから。」

僕はポツリとそう言った。

 及川は、こいつは何を言っているんだ、という顔で僕を見た。 僕もちょっと言い過ぎてしまったようだ。

僕は話題を変えてようと、こう言った。

「 僕は生きてる人間は苦手だから、実際に悪い人たちがあなたのところに来ても手助けはできないよ。 リアルな暴力が起こったら、それは自分で戦ってね。 僕と大人では体重差があるから、戦うのは無理だからね。」
「でも、ネットの中なら誰にも負けない自信がある。世界中の誰にも負けない。

「この後、あの会社について調べるから、ここ2、3日はちょっと慎重に過ごしてね。」

しかしその忠告は役に立たなかった。


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