中年おばさんの奮闘記 in デンマーク!34

青春

 ラーメンイベントで溜まった疲労は、数日間休んだだけでは全く取れなかった。いつまでも若い頃のようにはいかないものである。結局疲労が取れたかなと感じたのは、イベントから2週間くらい経った頃であり、その頃にはByens Bedsteの優勝者を決める投票日も終了していた。ラーメンイベントがあまりにも大変だったので、幸か不幸かあれだけ意気込んでいたByens Bedsteのことを私はすっかり忘れていたのである。
 この年のByens Bedste のイベントは11月第2週の木曜日に行われた。Tokyo Kitchen は毎週木曜日と金曜日がオープンだったので、イベント日はキッチンをクローズしてお揃いのTokyo KitchenTシャツと、手芸が得意なゆかさんが作ってくれたお寿司のマスクをしてスタッフ4人で出かけた。この年はコロナがまだ収束していなかったので、ルール上、会場は席の半分くらいしか埋まっていなかった。それでも、ステージはキラキラしていて、会場は大いに盛り上がっていた。デンマーク語がわからない私でも、司会者のリアクションやパフォーマー達の素晴らしい演出のおかげで十分にステージを楽しめることが出来た。いよいよイベントも終盤になり、Tokyo Kitchenがノミネートされた"新しいお店"部門の番が来た。ノミネートされたお店が大きなスクリーンに1つずつ紹介されていく。いよいよTokyo Kitchenがスクリーンで紹介されると、会場のあちこちで拍手と歓声が聞こえてきた。私の勘違いだと思うが、他のお店の紹介よりも反響が大きかったように感じた。"これはもしかしたら、いけるかもしれない!" 私は隣に座っていた優子さんの手を握りドキドキしながらステージのスクリーンを見つめた。勝者のお店の名前が発表されるまでの時間、まるでスローモーションのように時が流れた。結果は、残念ながらTokyo Kitchen の名前はそこにはなかった。発表直後私はすぐに優子さんとあーちゃんを見た。2人とも残念そうな顔をしていたがどこか幸せそうな表情もしていた。一方私はというと、負けたことはとても残念であったが、それ以上にこんなに盛大なステージのスクリーンにTokyo Kitchenが紹介され、さらに多くの人から拍手をもらったことにとても感動していた。1年前思いつきでTokyo Kitchenを立ち上げた時には、こんな素敵なステージがあることさえ知らなかったのである。この1年間、本当に素晴らしい経験をさせてもらった。そして、このイベントに参加したことにより、私達以上に頑張っている人たちが沢山いることを知ることができ良い刺激をたくさんもらった。この時の私は感謝の気持ちでいっぱいだった。
 イベント終了後、「今回、選ばれなくて良かったね。選ばれてたら、うちら調子乗ってたね~!」などと皆で冗談を言いながら帰宅した。私達はどこまでもポジティブなのである。
翌週、優子さんがByens Bedsteについてこう話していた「Byens Bedsteって中体連や高体連みたいじゃない?しかも、引退しなくて良いんだよ!すごくない?私部活好きだったんだよね~!」確かにそうだ、と私も思った。中年になっても青春している!青春は10代だけの特権ではないことに、40歳過ぎて私は初めて気が付いた。

お好み焼き

 Byens Bedsteも終わり、12月に入ると、お客さんから「去年はお好み焼きやってたけど、今年はいつお好み焼きやるの?」という質問がたくさんきた。去年お好み焼きを販売したが、売れたのは最初だけだったので今年はお好み焼きを販売することを考えていなかったが、優子さんとあーちゃんと相談した結果、今年は1年に1回だけお好み焼きと焼きそばを販売することにした。FBでそのことを伝えるとすぐにSMSで注文が入った。「みんな、そんなにお好み焼き食べたかったのか~!」と私が冗談を言ったら、大阪出身のあーちゃんは「大阪人のソールフードは、どんなに食べても飽きない!」と大真面目な顔で言った。私は「いやいや、どんなに美味しい食べ物でも食べ過ぎると、飽きるだろう~!」と内心思ったが、大阪人は本当にお好み焼きが好きでそれに誇りを持っていること、さらにソールフードとは何なのかということを、私は後から知ることになる。
 お好み焼きの販売当日になると、予約の注文で一杯になった。私たちは、「去年こんなにお好み焼きの注文入ったっけ~?」などとお喋りしながら、開店準備をした。いつもお昼はお客さんはそんなに来ないのだが、この日だけはひっきりなしにお客さんが来てくれた。昼間、予想以上にお客さんが来てくれたので、食材やソースが足りなくなることに気が付いた。買い出しに行ったり、夜の追加の仕込みをしていたら既に16時になっていた。バイトの子達が出勤してきて、注文取る人、注文の品物を渡す人、お好み焼きの具材を用意する人、お好み焼きを焼く人、焼きそばを焼く人、グルーピングする人をその場で決めると、皆、それぞれの自分達の持ち場に立った。いつもとは違う料理なので、最初みんな戸惑っていたが、何度か作業を繰り返すうちにそれとなく要領を得ていった。注文数から見て、今日はいかにお客さんを待たせずに注文品を出せるかが勝負だということは皆わかっていた。"私達なら、絶対出来る!"誰かの掛け声と共に、怒涛の4時間が始まった。始めのうちは、調子よく注文品を出していった。そのうち、オーダーミスが出てくる。「〇〇焼き、足りない!急いでお願い!」グルーピングする人の声でみんなが動き、誰かのミスはチームプレーでカバーしていった。どうやら私たちはいつの間にか、手順がいつもと違う料理でも臨機応変に対応していくスキルが育っていたらしい。こうなってくると、みんなアドレナリンが分泌されて、楽しくなってくる。この日の注文のピーク時間が18時~18時半だった。「みんな、頑張れー!この注文乗り越えたら、楽になるよ!」受付の子が皆に声をかける。みんなお互い助け合いながら自分の仕事に集中している。お好み焼きと焼きそばが焼かれて器に盛られると、すぐになくなっていく。18時は一番注文が多い時間だったのでお客さんを待たせてしまうかもしれない。と心配していたが、何とか時間通りに全ての注文品を提供することが出来た。大きな問題はなく注文を裁けることが出来たのでみんなテンションが上がっていた。Tokyo Kitchenのスタッフはすぐに調子にのる人が多い。誰かが「さすが!スタメンに選ばれたメンバー!」と言ったので皆どっと笑った。ところが人間、気が抜けた時が、一番ミスが発生しやすい。ピークの注文が終わり、あとは楽勝!って思っていた時に「お好み焼きソースが足りないかも!?」と誰かが言った。予約の残りの数を見るとあと数枚注文が入っている。「ヤバい!今の時間帯はお店も閉まっている!」慌てて皆で手分けして、チューブからソースを絞りだし、なんとか十分なソースをお好み焼きに乗せることが出来た。最後のお客さんに無事商品を渡し終わると私たちは安堵感と達成感で一杯になった。
 この日用意したお好み焼きと焼きそばは全て完売となった。キッチンをクローズした後「スペシャルメニューは期間限定が良いんだね!」等とワイワイ話しながら皆で賄いを食べた。今日の賄いは注文ミスのお好み焼きだった。バイトの子達は皆「美味しいー!美味しいー!」と言いながら食べていたが、私と優子さんはお昼から何度もお好み焼きの試食していたので「今日だけで1年分のお好み焼き食べたわ~!もうお好み焼きはしばらく食べなくてもいいわ~!」と話していた。ところが、大阪出身のあーちゃんは気持ちが良いくらい、お好み焼きをパクパク食べている。「あーちゃん、すごいね!今日ずっとお好み焼き食べてるよ。本当にお好み焼き好きなんだね!」と言ったら、「大阪だと週2、3回は家で粉もの食べるよ!」と答えた。「え!?そんなに食べるの?じゃあ、外食は粉もの以外になっちゃうね!」と私が言うと、彼女は「え!?なんで?外食でも粉もの食べるよ!」と言った。大阪人は週の半分は粉もの食べるのか。ソールフードとはこういうことを言うんだと私は思った。

最愛なる子供達へ

 あなた達は数年前から毎週月曜日プールに通っています。レッスンは16時から始まるので、いつも15時に家に帰ってくる約束になっています。
 ある月曜日の朝、ママは「2週連続でプールに行けなかったから今日は必ずプールに行くからね!15時にお家に帰ってくるのよ!」と言うと、あなた達を「わかったー!」と言い学校へ行きました。しかし、そういう日に限って、あなた達は15時半を過ぎても家に帰ってきません。仕方なくママとファーは車であなた達の学校まで迎えに行きました。学校でママの顔を見たあなた達は「あっ!プール!忘れてた!」と言い急いでバックを手に取り、車に乗り込みました。プールに向かう車の中でノアが「ごめんなさい。すっかりプールのこと忘れてた」と言い、アミも続けて「ごめんなさい。」と謝りました。が、ママはこの時「ほんとよー!」と思わず言ってしまいました。しかしファーはすぐに「大丈夫!次、気を付ければ大丈夫!」と言いました。するとあなた達は「何回忘れていいの?1回?2回?」と聞いてきました。ファーは「何回忘れても大丈夫なんだけど、次気を付けようとする気持ちが大切なんだ。」と言いました。ママはあなた達とファーのやり取りを聞いて黙ってしまいました。なぜなら自分の発した言葉が恥ずかしかったからです。当時、ママは仕事がとても大変で、毎日イライラしていました。なので、この時のママは全く心に余裕がなかったと思います。心に余裕がない時は、他人のちょっとしたミスでも許せなくなるものです。
 ファーの言っていることは正しいです。何回間違っても大丈夫!何回失敗しても大丈夫!人間だもの!次頑張ろうとする気持ちが大切なのです。

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