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パーパス×インパクトで見る受賞事例

3年前にカンヌを視察した際は、アイデアの解法に着目し、帰国後の報告会・セミナー・記事においても、そのヒントを発信してきた。世界のぶっ飛んだアイデアも「社会課題」×「企業のリソース」に因数分解すれば、日本の企業の施策にも応用できるのではないかと考えたからだ。課題をズラして考える、リソース(業界)をズラして考える、という発想法だ。

そして各事例には必ずと言っていいほどパーパスが織り込まれていることにも気づき、ストーリーテリングにおいては、「なぜ(WHY)」が大切であることも強調してきた。


そして今年。

まずはアイデアに目を奪われてしまいがちだが、今回は、細かくDescriptionを読み込みながら、パーパス×インパクトの視点で、受賞事例を取り上げていきたい。

広告祭から始まったカンヌなので、メディア換算(どのくらい露出したか)、SNSの投稿数(どのくらいバズが起きたか)は、ほぼすべての事例に記されているが、今回はソーシャルインパクトのみにフィーチャーすることにする。

なお、パーパスもインパクトもカンヌ公式サイトや企業公式サイトから引用し、筆者が勝手に解釈を加えたものなので、正確な事実確認までは行っていないことを断っておく。あくまでも事例を見る際の視点のひとつとして読んでいただけたら幸いである。

◎Grand Prix/THE MISSING CHAPTER/PROCTER & GAMBLE
生理教育の進んでいないインドにおいて、タブーを超えてそれを推進するためのアイデア。

-Purpose:Unleashing confidence in girls to be who ever they want to be.
-Impact:1 million+ Petitions
      11 million Girls Given Period Education
      2.5 million Packs bought (Above Target)

◎Gold Lion/PLASTIC FISHING TOURNAMENT/AB INBEV(CORONA)
地元漁師たちに海洋プラスチックごみを釣り上げてもらう大会。リサイクルによる新たな収入源も。

-Purpose:A future with more cheers is shared prosperity,
                   for our communities, for the planet and for our company.
     (公式サイトより抜粋)
-Impact: Have drawn more than 20 tons of plastic from the ocean.
                   Earn a second income by selling plastic all year round.
                   It is already working in Mexico, Israel, China, Colombia, Mexico,
                   South Africa and soon in more countries.

◎Silver Lion/THE EMANCIPATION LOAN/MINIANCO
ペルーの銀行。夫のサインがなくても借りられるローン。女性の経済的自立を促す。

-Purpose:To transform the lives of our clients and employees
                    through financial inclusion, thus promoting the growth of Peru.
                 (公式サイトより抜粋)
-Impact:The number of women who requested a loan increased by 180%
                  The value of the Credits granted to date amounts to 212 million
                  Invite other banks to also fight for the economic independence of  
                  women and many are joining and creating their own initiatives.

このようなサマリーにしてしまうと施策の迫力が伝わらないため、各casefilmがYouTubeにも上がっているようなので、ぜひ、タイトルをコピペして視聴してもらえれば幸いである。

ここでまず伝えたかったのは、先述のストーリーの一貫性である。出発点である「パーパス」とゴールである「インパクト」を並べてみることで、双方が地続きでつながっていることがわかる。ひとかたまりの文章のようにも見える。迷いがない。

そして、ここからは完全に勝手解釈なのだが、各施策/商品開発にあたっては、パーパスだけではなく、ある種の”計算式”が介在していたのではないだろうか。いずれの事例も直接は企業の売上にはつながらない、いわば外部不経済だ。それでも推し進めることができたのは、自社にとってもサステナブルであると判断できたからに違いない。

例えば、THE MISSING CHAPTERは、新興国市場における将来顧客の創造。THE EMANCIPATION LOANもまた将来顧客の創造と長期的な金融市場の活性化と読める。がんばれば、計算できそうだ。PLASTIC FISHING TOURNAMENTは、パーパスにもあるコミュニティの形成、昨今でいうファンベースマーケティングが見て取れる。これも計算できそうだ。

記述には表れていないが、社員のインナーモチベーションの向上や、IR、リクルーティングまで含めて考慮に入れると、施策がもたらす自社への影響は大きい。

前回の記事にも書いたが、SDGs部門が公共/NGOセクターによる啓発から民間企業の取り組みに移ってきていることを授賞式で目の当たりにした。社会課題に真っ先に気付くのが前者だとすると、外部不経済を取り込みながら、サステナブルな解決を模索していくのは、企業の役割だろう。

もちろんそこにいるのは、生活者だ。エシカル消費という言葉が生まれて久しいが、日本での推進にあたってはもっとインフルエンサーの活躍が必要かもしれない。また、それは、別の機会に。


さて、話が長くなってしまった。

パーパスを基点につづるストーリー(言語)と、因果や計算式を駆使してつづるストーリー(非言語)。企業のトランスフォーメーションにとっては、その両方が必要であることは、間違いないだろう。

それを確かめにいくカンヌだった。

(6/30 コピーライター 最後の日に)


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