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実録「夜逃げ屋(前編)」 延ばしてもらった月末の支払い期限が近づく。もちろん支払はしない。そして突然、姿を消すーー

割引あり

夜逃げ屋「関根」を直撃


 夜逃げ屋――借金で首が回らなくなった経営者と家族がある日こつ然と姿を消すーー。そんな高飛びを用意周到に手助けする集団を映画『夜逃げ屋本舗』では、街金の凄まじい取り立て屋と、ときにしたたかで情けない社長、などさまざまな人間模様を織り込みながら、お茶の間に緊張感と笑いを届けてくれたものだ。
 
 映画版『夜逃げ屋本舗』が劇場公開されたのは、ちょうどバブルが終焉を迎えた1992年。時代の流れに乗るように大盛況となり、翌年の1993年には続作の『夜逃げ屋本舗2』が公開。さらに1995年にも新作が公開されるなどしてヒットシリーズとなった。
 
 そして1999年にはテレビドラマ化である。期待通りの高視聴率をキープし、その年の年末にはスペシャル版も放送された。おりしも世の中は、底の見えない大不況をひた走っていた頃だ。
 
 それからしばらく後の2003年に、テレビドラマ『新・夜逃げ屋本舗』が始まる。が、最終回まで高視聴率をマークすることなく、いま現在に至っても続編の話を聞くこともない。
 
なぜか。

『夜逃げ屋本舗』全盛期は、個人店や零細企業から一部上場企業まで、あちらこちらで会社が廃業と統廃合を繰り返していた頃だ。大きな再編と変革の後にITバブルが訪れ、長く続いた平成大不況は底を打った。そう、景気が好転したこのとき始まった『新・夜逃げ屋本舗』は、もう現実の「夜逃げ」需要とマッチしていなかったからだと予想される。
 
「『夜逃げ』の需要はままだだありますよ」

 夜逃げ屋の実態を探るべく尋ねた大手町のとあるビルで、「お待たせしてすみません」と言って深々と頭を下げた後に男はそう続けた。関根克明(仮名)56歳。見た目はフツーの紳士である。
 
 想像していた「夜逃げ屋」とは違い、関根は怪しい雰囲気もなく、ひと晩で一家もろとも高飛びさせるスポーティさもない。ビジネススーツをカチッと着こなし、赤坂界隈でも見かける普通の優良企業の社長といった風体だ。
 
 関根によると、自分は企業が抱える悩みを共有し、専門的な視点から解決手段を提案する「経営コンサルタント」で、「夜逃げ」は便利屋や引っ越し屋の裏家業ではなく、関根のようなコンサルタントがする経営指南のひとつに過ぎないらしい。
 
 果たしてどんなルートから依頼が舞い込むのか。そして首尾よく夜逃げさせるのか。関根に手口を明かしてもらおう。

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